借りは返せたかしら
祖母の家からの帰り道、コンビニで買ったハイボールを飲みながら歩いた。〈ホーネス〉で飲むハイボールとは全然味の違う、悪酔いしそうなハイボール。でもそんなお酒だったとしても、今は飲んでいないと気が狂いそうだった。
頭がいつも以上にズキズキと痛い。
質の悪い酒のせいだと自分に言い聞かせてまた一口、喉に流し込んだ。
もう今日の夕陽はあっという間に暗闇の中に飲まれてしまっている。今が何時なのかも分からないまま、コンクリートで舗装された道の上を歩く。いつまでも続いている街灯が、この道に終わりなんてないのだと囁いてくるようだった。
酔っ払いながらその道を歩いていると、ポケットの携帯から通話を知らせるバイブレーションがして、思わず身構えた。
母親からだろうか。
携帯の画面を確認すると、そこには「ママ」の二文字が浮かんでいた。ママはママでも、母親じゃない。〈ホーネス〉の方のママだ。
紛らわしいな。しかもママから電話なんて珍しい。
「もしもし?」
『もしもし?賢治?』
「そうだよ。どうしたの、電話なんて珍しい。」
『別に、特に用はないわ。なんかあったんじゃないかなって思っただけ。』
怖。なんで分かるんだこの人は。
でもそれよりも、今はとりあえず誰かに起きたことを話したくて、今日のことも記憶のこともママに打ち明けた。
『ふぅん、そうだったの。まさかお母さんがね、、、。』
ハイボールをまた一口飲んだ。少しの間の後に、またママの声が鼓膜を揺らした。
『あんたがこの後、どんな行動を取るのかなんて私は知らないわ。それはあんたが決めなさい。でも、大丈夫よ、あんたが何しても。〈ホーネス〉もあんたの好きなお酒も消えないから。前に賢治、私に言ってくれたじゃない、『嫌なことがあったらまたここに戻ってくればいい。』って。それはあんたも同じよ。あんたの帰ってくる場所で、待っててあげるから。』
「ありがとう」と言うと、ママは「借りは返せたかしら」と笑いながら言った。
「あ、ねぇママ。一つ聞きたいんだけど、なんで俺の今のこと分かったの?」
「そんなの女の勘よ。じゃ。」
そう言って通話は切れた。
またここに戻ってくればいい。
自分の店でもないのに、そんな大層なことを言ったことに恥ずかしさを感じながらも、どこか嬉しさもあった。
残ったハイボールを全てコンクリートに飲ませて、空き缶をコンビニのゴミ箱に放り投げた。
酔っ払っているのに、もう頭の痛さは感じなかった。




