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空き部屋の声、1986年の女  作者: ひまえび
第一章――「最上階の朝、甘い風」

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第17話――「針の銀、書斎のキス」

尚人が外へ出ると、最上階は冷房の音だけが残り、ミン・ハは掃除とコーヒーで部屋の温度を整える。母のリエンを呼び出した電話は、家の介護と仕事の割り振りの話から、尚人が渡した贈り物の話へ移り、箱と紙袋が急に現実の重さを持つ。リエンは娘の気持ちに気づき、尚人の気持ちを誤解させないための言葉を求める。尚人はロレックスの針の銀を追加し、関係の見え方を整えたうえで最上階へ戻る。書斎では紙と革の匂いの中で、ミン・ハの迷いを抱えたままの口づけが始まり、夜は「無理をしない」という合意の形で静かに深まっていく。

 尚人が外出すると、最上階は急に静かになった。廊下の冷房がまっすぐ流れ、吹き出し口の音だけが一定の間隔で続いた。ミン・ハは玄関の鍵がかかる音を聞き、しばらく動かずに立っていた。花束の紙がこすれた感触が、まだ指先に残っている気がした。


 ミン・ハは窓際のカーテンを少し開け、リビングを掃除し始めた。掃除機の低い唸りが床を滑り、吸い込み口がラグの縁をかすめると、繊維がかすかに鳴った。家具の脚の周りを丁寧に回り、テーブルの角はクロスで2度拭いた。洗剤の匂いは強くなく、柑橘のような薄い香りが冷房の乾いた空気に混じった。磨いたガラスは手の跡が消え、照明の白がすっと伸びた。


 片づけを終えると、ミン・ハはキッチンでコーヒーを淹れた。豆を挽く音が一度だけ鳴り、湯気が立った。苦味の匂いが先に鼻に来て、口に含むと舌の奥に熱が落ちる。甘いものは入れず、黒いまま飲んだ。冷房で冷えた室内に、カップの熱だけが小さく残った。


 呼吸が落ち着いたところで、ミン・ハは母に電話をかけた。呼び出し音が数回鳴り、階下から少し遅れて声が返った。


 ミン・ハは言った。「もしもし、お母さん。ミン・ハよ。ご飯はもう食べたの?」


 リエンは答えた。「うん。食べたわよ。お父さんにも食べさせたわ。右手が痺れているから左手で食べているけど、結構器用に食べるわよ」


 ミン・ハは言った。「そうなの? 病院では看護師さんが食べさせてくれるけど、家に帰ってきたらお母さんが食べさせないといけないわね」


 リエンは少し息をついて言った。「そうね。尚人さんと相談して、メイドの仕事を断ろうかしら?」


 ミン・ハはすぐ返した。「尚人さんは、お母さんのことを随分気に入っているから、辞めさせないんじゃないの?」


 リエンは言った。「私も辞めたくはないんだけどね。お父さんの面倒も見ないといけないから」


 ミン・ハは窓の外の光を見ながら言った。「メイドの仕事を分散すれば良いのよ」


 リエンは少し考えてから言った。「そうしようか。私が火木土、ミン・ハが月水金にしよう」


 ミン・ハは言った。「日曜日はどうするの?」


 リエンは言った。「私がやるわ。火木土日と4日勤務する」


 ミン・ハは言った。「そうしたら、尚人さんとお父さんの面倒を両方とも見れるわね」


 そこで、ミン・ハは声の調子を変えた。「話は変わるけど、今日ね。尚人さんが私たちにプレゼントをくれたのよ」


 リエンは思わず声が上ずった。「ええ!!本当!!。それじゃあ今から貰いに行くわ」


 電話が切れると、ミン・ハはテーブルの上を見直した。黒い紙袋が2つ、箱がいくつか。紙の口は固く、触ると厚みがある。革の匂いが袋の奥からかすかに漏れた。


 しばらくして、階下から足音が近づいた。廊下の空気が少しだけ動き、ドアが静かに開いた。リエンが入ってきて、部屋の広さを見上げるように一度立ち止まった。いつもの白衣はなく、髪をまとめたままの普段着だった。頬には外の湿気の名残があり、首筋にうっすら汗が光った。


 ミン・ハは言った。「お母さん、これ。尚人さんが『リエンさんに』って言って、私に預けたの」


 ミン・ハは黒い革のトートを取り出し、次に小さな箱をそっと置いた。包装紙の角がきっちり折られ、指で押すと紙が乾いた音を返した。


 リエンは袋の中を覗き、革に手を当てた。柔らかいのに芯があり、縫い目が揃っている。持ち手は手に吸い付くようで、重さが急に現実になった。箱を開けると、淡水パールの小さなピアスが白い布の上で光った。白すぎない色で、照明の下でも眩しくならず、静かに艶が残った。


 ミン・ハは言った。「トートはエルメスの『ガーデン・パーティー 36(黒)』。ピアスはミキモト。2つで130万円以上はするって」


 リエンは言葉が出なかった。喉が動き、息だけが漏れた。指先が少し震え、ピアスの留め具に触れたところで止まった。驚きと嬉しさが混ざって、顔が固まったままになった。


 リエンはやっと言った。「……ミン・ハ。貴女の貰った物を見せてよ」


 ミン・ハは一瞬迷い、紙袋と箱を順に並べた。箱が触れ合うたびに、硬い紙が小さく鳴った。


 ミン・ハは説明した。「私のは、アップルの『アイフォーン 17 プロ・マックス 1TB』に、『アップルケアプラス』と純正ケース。それから、セリーヌの『スモール・カミーユ 16 ソフト・バッグ』。カルティエの『ラブ・ブレスレット スモールモデル』。ティファニーの『ダイヤモンド・バイ・ザ・ヤード』。全部で約201万円だって」


 リエンは目を丸くした。高い買い物を見慣れた人の顔ではなかった。台所の包丁や鍋の値段を思い出すような、生活の尺度のまま驚いていた。


 ミン・ハは箱を見下ろし、口元だけが少しほどけた。「どっちも高いけど、私のほうがかなり高いね」


 喜びが胸に上がったのは確かだった。けれど、その直後に、見えない重さも一緒に乗った。持っていて良いのか、と自分に問いかける感覚が消えなかった。


 ミン・ハは小さな声で言った。「お母さん。尚人さんって、私に気があるのかな?」


 リエンはすぐには答えなかった。認めたくない気持ちが先に立った。それでも視線をそらしきれず、ほんの少しだけうなずいた。


 リエンは言った。「そうかも知れないけど、あんたには彼氏がいるからね」


 ミン・ハは言った。「お母さんだって既婚者でしょう?」


 リエンは吐き捨てるように言った。「あんな男、いつだって別れてやるわ。飲む打つ買うの三拍子男なんだから」


 ミン・ハは黙って箱を見た。革の匂い、金属の冷たさ、紙の硬さ。どれも、現実の重みを持っていた。彼氏の笑顔や優しさは思い出せても、これほどはっきりした手触りがない。比べるまでもなく、尚人のほうが勝っていると分かってしまうのが、少し怖かった。


 ミン・ハはその場で、言うべきことを飲み込んだ。尚人が看護師のハーと会うために出かけたことは、母には話さなかった。話せば、この贈り物の光り方が変わる気がした。部屋の冷房は相変わらず乾いていて、テーブルの上の赤い箱だけが、妙に温度を持って見えた。


 ◇ ◇ ◇


 ハーが帰ったあと、尚人はもう一度ショッピングモールへ寄った。外の湿った熱気が自動ドアの手前で切れ、冷房の乾いた風が首筋の汗をさらった。床の石は靴音を硬く返し、天井の照明が白くまぶしい。香水と焼き菓子と洗剤の匂いが混ざり、通路の人波がゆっくり流れていた。


 時計店の前だけ、空気が少し重たかった。ガラス越しに見える金属の光は冷たく、店員の動きは無駄がない。尚人は軽く会釈し、ケースの中のロレックスを指で示した。モデル名はデイトナである。腕に載せると、重さが掌の中央に沈み、ブレスの節が皮膚に当たってひやりとした。文字盤の針は静かに進み、ガラスの縁で光が鋭く跳ねた。


 尚人は値札を長く見なかった。支払いの確認だけ済ませ、保証書と箱の扱いを店員に指示した。角が潰れないよう厚紙で補強し、受け渡しは目立たない袋にする。周囲に気づかれない配慮は、隠すためではなく、余計な騒ぎを避けるためであった。


 店を出ると、通路のざわめきが戻った。尚人は袋を持ち替えず、車寄せへ向かった。外へ出た瞬間、湿った熱が頬にまとわりつき、バイクの排気の匂いが鼻に刺さった。エンジンがかかり、低い振動が脚から腹へ上がる。袋の中の箱が揺れないよう膝で押さえ、尚人は街の流れへ乗った。


 階下のリエンの家に着くころ、手のひらは汗で少し湿っていた。尚人は玄関前でヘルメットを外し、スマホを耳に当てた。呼び出し音の向こうで、室内の生活音がかすかに混じった。


 尚人は言った。「もしもし、尚人だ。プレゼントはミン・ハから受け取ったと思うけど、あれだけではお前に対する特別な気持ちが伝わらない。お前よりミン・ハの方が好きだと思わせても良くない」


 尚人は続けた。「だから、お前が以前に欲しがっていたロレックスの時計を買った。だいたい300万円くらいだ。今から持って行く。受け取れ」


 リエンは受話器の向こうで息をのみ、すぐに返事を作れなかった。何かを落としたような小さな音がし、次に戸を開ける気配がした。「……分かったわ。すぐに出る」


 玄関が開くと、室内の湿った匂いが一瞬だけ外へ漏れた。煮物の甘い匂いと、薬のような乾いた匂いが混じっている。リエンは普段着のまま出てきた。髪は急いでまとめたらしく、襟元に細い汗が光っていた。尚人が袋を渡すと、リエンの指先が紙の厚みを確かめ、箱を抱えるように持った。重さのせいで、受け取った瞬間に姿勢が少し変わった。


 リエンは室内へ戻り、箱を開けた。ふたの内側の布がこすれ、金属の匂いが立った。ロレックスのケースは光を吸うように黒く、時計本体は冷えた銀色で、針の端が細く尖っている。リエンはそれを見た途端、自分の胸の奥が痛むのを感じた。午前中、娘と並べた箱のことがよぎり、あれでも十分すぎると思っていた自分が恥ずかしかった。


 リエンは、尚人の気持ちを誤解していたことを強く反省した。胸が熱くなり、言葉が追いつかない。すると今度は、娘のミン・ハの誤解が気になった。リエンは顔を上げ、尚人に告げた。


 リエンは言った。「娘は、貴方が母の私よりも娘のミン・ハの方が好きなんだと誤解しているわ」


 リエンは続けた。「そうではないと分かったら、きっとショックを受けるわ」


 尚人は肩をすくめるほどの軽さで返した。「ふーん。何でだろう。ミン・ハには好きな彼氏がいるんだろう」


 リエンは言った。「そうじゃないわ。確かに好きな彼氏はいるけど、どうもミン・ハは貴方のことが好きなようだわ」


 尚人は少しだけ目を細めた。「本当なのか。俺もミン・ハのことは好きだが、お前に対する気持ちのほうが大きいぜ」


 リエンは時計を見下ろし、針の動きを追いかけるように言った。「分かっているわ。でも娘のことが好きだと言って欲しいの。娘にショックを与えたくないのよ」


 尚人は息をひとつ吐いた。「お前がそれでも良いと言うならそうするか。でも後から文句を言うなよ」


 リエンは言い切った。「当然よ」


 尚人はそれ以上、その場に残らなかった。余計に言葉を重ねれば、薄くなることを知っている。


 最上階へ戻ると、エレベーターの扉が開く瞬間に冷房の乾いた空気が頬に触れた。廊下は静かで、遠くの換気音だけが続く。尚人が玄関を開けると、室内の匂いがすぐに分かった。紙と革表紙の匂い、わずかな埃、そしてコーヒーの苦味が残った甘い香りである。


 書斎では、ミン・ハが山積みの本を整理していた。背表紙を揃え、厚さごとに並べ替え、指で埃を払うたびに紙がかすかに鳴った。室内灯の下で、髪の黒が艶を持ち、首筋の産毛が光った。


 ミン・ハは尚人に気づき、手を止めた。ミン・ハは言った。「会長。お帰りなさい」


 尚人は答えた。「ただいま」


 尚人は言葉を足さず、黙ってミン・ハを抱き寄せた。腕の中に入った体は思ったより軽く、肩のあたりが少し緊張してから、すぐに力が抜けた。ミン・ハの髪から、石けんの匂いと汗の薄い匂いが混じって上がる。室内の乾いた冷えの中で、その匂いだけが生っぽく残った。


 尚人はゆっくり唇を重ねた。最初は軽く触れるだけで、次に息が混ざった。ミン・ハは嫌がらなかった。手が尚人の背に回り、シャツの布を指がつかんだ。唇が開き、尚人の舌が入ると、ミン・ハは受け入れた。口の中に残っていたコーヒーの苦味が、熱で柔らかく溶け、互いの呼吸が近い距離でぶつかった。


 ミン・ハは目を閉じたまま、抱擁に答えた。驚きはあるのに、拒む硬さがない。胸の上下が尚人の腕の中で少し速くなり、指先がいったん迷ってから、背中を確かめるように押した。書斎の棚に並んだ本が、ふたりの影を細く切り分け、紙の匂いが静かに漂っていた。


 尚人はようやく唇を離し、ミン・ハの額の近くで息を整えた。ミン・ハは声を出さず、ただ尚人を見た。頬の赤みが、冷房の白い光の中でわずかに浮いた。机の上では、整理途中の本が開いたまま止まり、紙の端が空気の流れで小さく震えていた。


 ◇ ◇ ◇


 尚人とミン・ハは、唇を離したあとも、互いの呼吸の近さだけを確かめるように額を寄せた。彼女の頬は熱く、指先はまだ仕事の名残のように少し乾いていた。尚人が手を引くと、ミン・ハは一度だけ迷ってから、遅れずに歩調を合わせた。


 浴室の扉を閉めると、外の音が薄くなる。シャワーの栓をひねった瞬間、金属の配管が短く鳴り、白い水音が広がった。湯気が立ちはじめ、石鹸の匂いが湿った空気に溶ける。尚人は露天風呂の給湯を確かめ、湯が落ちる音を聞いた。遠い滝のような低い響きが、今夜の時間をゆっくりにしていく。


 ミン・ハは髪をまとめる手が、どこかぎこちなかった。強がるように口角を上げても、目だけは落ち着かない。尚人は急かさず、目を見て言った。「今夜のことは、君が決めていい。嫌なら途中で止める。無理はしない」

 ミン・ハは小さく息を吸い、「分かってる」とだけ返した。その声は細いが、逃げ腰ではなかった。


 シャワーの湯が背中を流れ、肌の熱がほどけていく。尚人は泡立てた手のひらで、肩から腕へ、背骨の脇へとゆっくり触れた。泡は軽いのに、圧はやさしく確かで、触れられている場所が自分でも分かる。ミン・ハは最初、身を固くしたが、泡が滑り、指が急がないと知ると、肩が少しずつ落ちた。耳元で尚人が名前を呼ぶたび、緊張が一枚ずつ剥がれるようだった。


 露天風呂の縁に腰を下ろしたとき、夜気が湯気に混じって頬を撫でた。湯は熱すぎず、皮膚の表面が静かにほどける温度だ。湯の中で尚人は、シャボンの泡をもう一度作り、首筋から胸元、腹のあたりへとゆっくり掌を滑らせた。泡の冷たさは一瞬だけで、すぐ体温に馴染む。ミン・ハは唇を噛み、視線を泳がせたが、尚人の腕に触れて自分から距離を詰めた。怖さよりも、安心のほうが勝ち始めた合図だった。


 湯から上がると、尚人は彼女を抱き上げた。濡れた髪が頬に触れ、甘いシャンプーの匂いが近い。ミン・ハは驚いた顔をしたが、抵抗はしない。バスタオルで首筋の水を押さえ、背中、腰、脚と、布で丁寧に水気を取っていく。タオル越しの圧が心地よいのか、彼女の呼吸は次第に長くなり、肩の線が柔らかくなった。


 寝室のカーテンは外の光を薄く濾し、冷房の風がシーツを静かに揺らしていた。尚人は枕元の引き出しから小さなボトルを取り、ベッドの端へ置いた。ミン・ハはそれを見て、いったん言葉を飲み込む。尚人は視線を逸らさず、もう一度だけ念を押した。「嫌なら言って。止める」

 ミン・ハは小さくうなずき、少し震える声で言った。「……今は、止めないで」


 尚人は彼女の髪をほどき、指で梳いた。濡れた束が肩に落ち、皮膚に触れて冷える。その小さな寒さを、尚人の手の熱がすぐに消した。透明な液を掌に広げると、最初はひやりとして、すぐ体温で温まる。彼は急がず、確かめるように触れ、言葉でも同じだけ丁寧に寄り添った。大丈夫だ、きれいだ、かわいい、怖くない。ミン・ハの目の奥にあった警戒が、少しずつ別の色に変わっていく。


 やがて、言葉は途切れがちになり、息遣いがそれを代わりに語りはじめた。冷房の音と、遠い街のクラクションだけが、夜の外側から薄く届く。ミン・ハは尚人の肩に指をかけ、力の入れ方を探すように握り直したあと、身体の重みを預けた。


 けれど、その夜、尚人のものは常人の太さの1.5倍もあり、長さも22cmと規格外だったため、ミン・ハの身体には入りきらなかった。ふたりは最初から最後まで、無理に奥まで求めず、できる範囲で寄り添った。尚人も、ミン・ハも、お互いに十分満ち足りていた。


 長い夜が、静かに更けた。


 終わったあと、ミン・ハはシーツの中で丸くなり、尚人の胸に額を押しつけた。汗の匂いに、石鹸と湯気の残り香が混じる。尚人が髪を撫でると、彼女は小さく笑って、涙の膜が残った目で見上げた。「……こんなに、安心したの、久しぶり」

 尚人は抱き直し、背中をゆっくり撫でた。ミン・ハの指が、さっきよりも迷いなく尚人の手を探し、絡めてきた。手のひら同士の熱が落ち着いていくまで、2人はしばらく動かなかった。

この回は、気持ちの言い合いではなく、物の手触りで関係の重さを見せている。紙袋の硬さ、革の匂い、箱の赤、時計の金属の冷えが、母と娘の嫉妬と期待をそのまま机の上に並べる。ミン・ハは「持っていていいのか」という罪悪感を抱え、リエンは娘の恋心と自分の欲を同じ場所に置いてしまい、尚人はその誤解を放置しない。ロレックスの追加は愛情の誇示ではなく、店や家庭と同じく「騒ぎを避ける」ための調整であり、尚人のやり方が一貫している。最後の書斎のキスと浴室から寝室への流れは、相手の選択を先に置き、身体の限界も含めて無理をしないことで、甘さを現実へ下ろして終える。

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