11話 きっかけの真実
フィルに言われて、噴水まで来たけどいない。近くにいるはずだけど。
「……しゃぁ」
「やっと見つけた」
背の高い花に隠れていた。これは見つからないわけだ。
「……しゃぁ」
「……エレ、あの時の事、教えてくれないかな?」
「しゃぁー!しゃぁー!しゃぁー!あれは、ゼロにもおはなちちないの!誰にもおはなちちちゃだめなの!しゃぁー!しゃぁー!」
いくら、エレが目撃者だとはいえ、主様はなんで……
泣きながら威嚇をする姿は、見ていられなかった。でも、僕にはどうする事もできない。エレが教えてくれない限りは、何も知る事はできない。
「エレ」
「しゃ、しゃぁー」
「お前、共有できる伝えたんだから来いよ!せっかく、俺が頑張って作ったのに」
「ふぇ」
「……もう子供ぶらなくて良いから早く行くぞ」
「……」
泣いているエレを、ゼロが無理やり連れ帰る。
「……フォル、今日の夜、エレ達のお部屋で待ってる」
「……うん」
これは、教える気になったって事だよね。ゼロが何か共有で言ったのかな。
**********
夕食の時、エレはずっと元気がなかった。何か聞かれても、返事すらしない。ゼロが聞いた時だけはしていたけど。
「エレ、ゼロ、入るよ」
「みゅ」
「エレが着替え中だから待って」
「みゅ」
「みゅじゃねぇよ。早く着替えろ」
「すけすけなの」
「これ上に羽織れ」
「みゅ」
エレがすけすけって言えてる。というか、すけすけって、どんな服着せてんの。
「ふみゅ」
「終わった」
転生前は何度も見た、見慣れたはずの姿。十六歳のエレとゼロ。
慣れないのは、エレの服。ゼロが着せたんだろうけど、何をさせる気なんだろうか。
「さっきぶりなの」
「うん」
「お話する代わりに、二つ誓って。一つはエレ達を守ってくれる事。エレとゼロは、かなり危うい立場なの。それを守ってくれる事。もう一つは」
「俺らとの契りを交わす事」
「……前者は良いけど、後者は」
「エレ達以外を選ばない事。結婚までは今は言わないの」
エレとゼロ以外を選ぶなんて考えられない。この条件を飲んでも、僕は、何の不利益がない。それで良いのかな。二人が良いなら良いけど。
「分かった。そのくらいなら」
「ふみゅ。ゼロも、全部話すのは初めてだね」
「そうだな。あの時、俺は一緒にいてやれなかったから……」
「ゼロが今いてくれるだけで良いの。それに、あの後の事……その……かっこよかった」
「あれは、エレが俺を庇って怪我した後記憶が曖昧なんだ」
「……」
何が気に入らなかったんだろう。エレが、ゼロに猫パンチを連発してる。攻撃力皆無だけど。
「ふみゅ。あのね、あの時、エレが言う事聞かないと、ゼロが……」
「……これで大体は分かるだろ。ほとんど、あの時の傷だ。あそこでの傷は、エレの魔法でも消えねぇんだ」
ゼロが服を脱ぐ。身体中にある古傷。エレが、それを泣きそうな顔で見ている。
「全部、エレの」
「何度も言ってんだろ。お前は何も悪くねぇって。俺の方こそ……自分から言っておいてそれはねぇか。ありがとな。俺のために」
ゼロがエレを抱きしめる。
謝るよりも、それの方が言いづらいと思う。二人の場合は。
傷つけてしまった後悔を飲み込んで、自分のために動いてくれた相手にお礼を言うのは。
「……エレも、エレもありがとなの。いっぱい守ってくれて。エレの側にいてくれて。ありがとなの」
分かってる。分かっているけど……その強さは、僕には苦痛だ。
泣きながら、ゼロを見てお礼を言うエレも、それを受け入れるゼロも。
「……」
「……フォル……普段は自分から視ようとしても視れねぇのに」
「……あのね、あのね、あの時、エレは命令通り、情報を渡して、主様のところへ行ったの。主様に逃げてって言いに。そうしたら、主様は、エレ達を助けるって言ってくれたの。でも、でも、主宮で働いている人が、主様を……エレ、見てるだけしかできなくて……主様、フォルの事守ろうとして……ふぇ」
思い出したくもない事を言っているんだ。ところどころ、途切れていても仕方がないだろう。
……主様が、僕を守るために、か。僕は、自分が何もできなかった事を悔やんで、それで……待って、おかしくない?
研究所からの刺客は来ていた。エレはそれを知って主様を逃がそうとした。主様は逃げなかった。
そこまでは分かるけど。偶然主様以外は無事だったなんて事、考えられるはずないんだ。
そんなの、主宮で、あの時いた人が全員裏切っていない限りは。
「……エレ、何も教えちゃだめって言われたの。フォルにだけは。すぐに気づくから。だから、ずっと黙っててごめんなさい」
「……ごめん……ううん。ありがと。教えてくれて」
「……フォル、あの時の記憶ないの。みんなないの。あの時、エレは、ゼロの方に預けていたから干渉を受けずに済んだけど、主様のお部屋以外、不思議なふわふわだったの。みんな夢心地みたいに裏切っていたの。だから、ここにいる人達責めないで?」
言われてみれば、あの時の記憶が曖昧だ。鮮明に思い出せない。
「……」
「……エレ、祭りの時これで一緒にデート」
「……十一歳くらいにするの。フォルもそのくらいの年齢の方が、まだデートっと気がする?」
「今の姿だったらするかも」
気になる事とか、色々あるけど、今の僕は、エレとゼロの世話をする事が一番優先すべき事だ。だから、今は一旦忘れよう。
「……エレ達は、フォルと一緒に寝たいです。一緒にお風呂に入りたいです。何もしません」
「何もしません」
信用するとかしないとか以前に、その姿で一緒に入るつもりなのかな。だとしたら、普通に断りたいんだけど。特にエレ。というか、エレ。
「いやそう」
「いやそう」
見た目が変わっても、性格なんて変わらないんだ。
「いやだから」
「でも入ってくれるの。一緒にお祭りの事考えるの。エレは、エレとおにぃちゃん特製の魔法具を売るに一票」
「やめろって言ったよね?」
「普通の魔法具よりもちょっと良いやつなの」
そのちょっとだけは信用ならないんだよ。そのちょっとはちょっとじゃないから。
「俺は、薬を売るのが良いと思う。それか、喫茶店」
「それは良いかもしれないね。デューゼを立たせていたら、売上期待できそうだ」
デューゼは、人気高いから。立たせておけば、それ目当てで客が入ってきそう。
「……エレの方がお客さん入れて、フォルになでしてもらうの……ふみゅ⁉︎エレ、頑張る方法思いついたの!ふみゅみゅ。明日が楽しみなの」
「変な事しないでよ」
「……エレよりのーゼロくらいなの」
エレよりのゼロって何?また変な事言い出してるんだけど。
変な事でエレよりのゼロ。エレの方がどちらかというと考えそうな事か。
ご褒美よこせとかかな。そのくらいなら、別に良いけど。
「内容次第では、考えるよ」
「ふみゅふみゅ。頑張るの。ゼロ、お洋服ぬぎぬぎして」
「そのくらい自分でできるようになれよ」
「それは無理な相談なの」
無理じゃないと思う。ゼロが甘やかしすぎなんだと思う。エレの服を脱がしてあげるなんて。
子供の見た目してれば、ついつい甘やかしたくなるけど。この見た目だと、自分でやれって
「フォル、ぎゅぅして良い?」
思わないかも。甘やかしちゃうよ、これは。
頼み事をする時のエレって可愛すぎる。目にうるうると涙を溜めて、上目遣いで、しかも、それが可愛いからって理解してやってるわけじゃない。
「うん」
「ふみゅ。フォルとぎゅぅってすると落ち着くの。あのね、今までずっと、誰にも言っちゃだめで、頑張ってたの。褒めて。いっぱい。エレ、ゼロとフォルの……」
「エレ寝た。フォル、エレ支えといて。俺が洗うから」
エレが突然寝るのは、珍しい事じゃないから。
こんなとこで寝るのは、珍しいけど。
「ゼロ、エレは」
「あの話の事なら、エレはフォルに気にして欲しくねぇよ」
「そうじゃなくて、エレは、寝てる間にこんな事されててどう思うんだろうねって」
「起きておけば良かったって思うだろうな。こっちはもう諦めたが、せめて、好きって言うんなら、そういうのはもう少し知って欲しいんだが」
「ゼロは気づくけど、エレは僕の好意なんて気づいてないからね」
ゼロの入れ知恵や、共有である程度は気づけるんだろうけど、この子一人だと何も気づかない。
それに、ほんの少しだけ、モヤってするのは、内緒だよ。
「……そういえば、明日エルグにぃ来る」
「にぃ様、仕事」
「仕事で来るんだって」
「にぃ様、仕事遅いのに、徹夜で……」
「……」
「エレに昔教えてもらった栄養ドリンクあげたら喜ぶかな」
「……フォル、主様の仕事量なんだと思ってんだ?」
普通だけど?昔散々見てきたから。
でも、あの頃、僕が手伝っていても、忙しそうだったのに、今は一人でやってるから。
「……エルグにぃから聞いたんだけど、通常業務の倍くらい、フォルがやらかした後始末してたって」
「何の事?僕そんなにやらかした覚え……ないよ」
色々とありすぎる。あの件かな、この件かなっていうのが。
明日、報告書ちゃんと提出するか。ついでに、溜めていた書類も全部提出しよう。




