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ビッグ・ブラザー 6


 剣狼達は追っ手を撒いたことを確認すると、その場に座り込んだ。道中で救助した自衛隊員は頭を掻き毟っていた。


「クソ! どうしてこんなことになったんだよ!?」

「とにかく、情報が欲しい。交信を取ってくれ。俺は周囲を警戒しておく」


 直ぐにでも戦闘を行える様に、全身に赤毛の剛毛と刃を生やした姿を見て、男は息を呑んだ。


「やっぱり、こうしてみると。怪人なんだな」

「でなければ、こんな死線で生き延び続けられる訳がない。現在は、自衛隊や派遣軍とは協力関係にあるはずだが」


 現在、皇が排除するべき脅威はエスポワール戦隊だ。怪人とも共同戦線を張っていることは知っていたが、納得のいかない蟠りはあった。


「分かっているよ。だけど、この脅威を退けた後。お前達は前みたいに悪事を犯すのか?」

「かもしれんな。じゃあ、この場で俺を殺すか?」


 支給されたガジェットが使えなくなっている以上、生身で挑むのは自殺行為にも等しい。無線で連絡を取ろうとした所で、通話口から怒声が飛んで来た。


「こちら○○基地! エスポワール戦隊から攻撃を受けている! 被害者多数! 負傷者も匿っている! 至急、応援を求む!」


 血の気が引いて行く。負傷者にまで手を出す所から、条約などを守る気が全くないことが分かったからだ。思考が停止しそうになった所で、肩を叩かれた。


「行くぞ。お前の名前は?」

「島野だ」


 剣狼の全身が膨れ上がり、巨大な赤狼に変貌するとアスファルトを蹴って加速していく。道中、立ちはだかったヒーロー達や変貌してしまった軍人達を撥ねながらも突き進む。


~~


 ○○基地はカラード達だけではなく、ジャ・アークの本部攻略にも使われていたサポートメカ達による襲撃を受けていた。戦車やヘリで応戦が行われており、爆炎が上がっていた。


「この国の真の守護者は、俺達ヒーローなんだよ!!」

『立ちふさがる障害は超えてみせる! 行くぞ! ブレイブ・スマッシャー・バスター!!』


 グレート・キボーダーよりも小型な人型兵器が右腕を翳すと、掌に出現した砲門から発せられた膨大な熱量の奔流が戦車やヘリを呑み込んでいく。

 やがて、攻撃の矛先が建物の方にも向けられた時。射線に割って入ったのは、巨大化した剣狼だった。


「この声、臭い。聞き覚えがあるぞ。お前、俺が腕を飛ばしたアイツか」

「犬野郎ォ!」


 ブレイブ・スマッシャーの搭乗者は高橋だった。右腕の義手はガジェット化しており、機体に直接繋がっていた。彼は剣狼の背後にある建物を見て、嗜虐に満ちた笑みを浮かべていた。


「お前が、この一撃を避ければどうなるか。分かってんだろうな?」

「三下が」

「皇の再誕の為に死ね!」


 建物を含めた射線状の物が焼き払われるかと思いきや、剣狼はその巨体から想像もできない程のスピードで突進を繰り出し、機体のバランスを崩した。上空に向けて放たれた光線は何かを焼き払うことも無かった。

 態勢を立て直すと、ブレイブ・スマッシャーは背中にマウントしていたブレードを構えた。その刀身は超高速で振動していた。


「ガァアアアア!」

「ウォオオオ!」


 二つの巨体がぶつかり合う。巨大な四肢で大地を踏み締め、縦横無人に駆け回る神話めいた狼と、片や化学力の結晶とも言える機動兵器。

 素早さで上回る剣狼が何度も攻撃を仕掛けるが、装甲を貫通する程の一撃を与えられない。やがて、痺れを切らしたのか高橋は目標を切り替えた。


「やめだ。お前1人を殺すよりも、アイツらを先に殺す」


 背後を向けて来るが、自分には相手の機体を破壊する程の一撃は放てない。戦況の不利を悟り、ここから脱することも考えたが、彼は高橋の前に立ちはだかった。


「そうはさせないぞ」

「そこまで必死に守るって事は。ソイツらも腐っていたって事か。丁度いい、まとめて始末してやる!」


 腕部の機関砲が火を噴こうとした瞬間。ブレイブ・スマッシャーに大きな衝撃が走り、爆発が起きた。見れば、一台の戦車が動いていた。

 崩れ落ちた機体から転がり出て来た高橋の姿は無惨な物だった。全身に鉄片が突き刺さり、至る所から血を流しているが怯む様子は見当たらない。


「何がお前を突き動かすんだ?」

「俺は……ヒーローなんだ。惨めで、哀れで、間抜けな役立たずじゃない。誰もが憎む悪を倒す、正義の味方なんだよ!!」


 右腕と一体化したガジェットは銃剣の形を取っていた。人間態に戻った剣狼は、両腕に刃を展開して、接近してからの肉弾戦を試みていた。


「ハッ!」


 上体を殆ど揺らさずして撃ち出された拳は、剣狼の顎を捉えた。打ち据える寸前に幾重もの刃を展開したが、自らが傷つくことも構わない覚悟を前にしては、微々たる損傷を与えるだけだった。


「死ね!」

「分かってんだよ!」


 腕部に展開した刃で胴体を寸断しようとするが、恐ろしい程の反応速度で肘と膝で挟み込んで刃を叩き折った。だが、二人の手は休まらない

 瞬時に爪先にブレードを生やして、脇腹へと突き刺すが瞬時に筋肉を硬直させ、彼の態勢を固定した。


「ウォオオオオ!」


 ダメージを気にせず動きを固定させた高橋の覚悟も凄まじいなら、即座に同じだけの覚悟を決めた剣狼もまた大した物だった。

 殆ど身動きの取れない状態で、上半身だけを使った殴り合い。叩き込める個所は殆ど決まっており、お互いの顔面を幾度となく打ち据えていた。鼻骨は折れ、歯は欠け、眼球が飛び出る。周囲でも自分達以外の者達による激しい交戦が行われているはずなのに、妙に静かだった。


「俺は。皇を。救うんだ。お前は、何故戦うんだ」


 皇を滅ぼす為か。ならば、自分が何をしなくともきっと滅びるだろう。止めたいということは、違う目的があるということだ。限界状態まで差し迫った今だからこそ、取り繕うことも無く考えが出た。


「俺は。芳野や中田のアニキ達が待っている、日常に帰るんだよ」

「化け物の分際で!!」


 高橋の叫びに怒り以外の物が混じった。倒すべき、蛇蝎の如く嫌われるべき、存在である怪人にさえ居場所がある。

 皇で生まれ、普通に育ってきたはずの自分が持ちえなかった物を持っている。友達も居なければ、帰りを待っている親も居ない。日常は自分を疎んじるばかりで、惨めな存在だった。ヒーローになった後は強くなった、誰かの役に立った、悪党に恐れられるのは気分が良かった。素晴らしい存在になれたのだと思った。


「(だって言うのに)」


 打撃の応酬は突如として中断された。高橋の首から銃剣が生えていたからだ。息を荒げていたのは、島野だった。


「剣狼! 大丈夫か!?」

「島野!! 避けろ!」


 致命傷を負った高橋は、残された力を振り絞り島野を突き刺した。剣狼は首を撥ね飛ばして止めを刺した後、倒れた島野に駆け寄った。医療用のジェルを塗り込むが、血が止めどなく流れて行く。


「ハハハ。あの化け物に、勝つだなんて。凄いな」

「喋るな。早く治療を」


 カランと手の上にドックタグとペンダントが乗せられた。


「悪いな、疑って。それ。届けてくれ」

「……分かった」


 命の灯が消えて行く。昔は何も感じていなかったはずだと言うのに、今はもうこの痛みになれることも出来なかった。天に向かって咆えた後、基地内で暴れているカラードや機動兵器の撃破に向かって動いていた。


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