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善意と言う怪物 2


 軍蟻の解析作業に付き合った後、桜井達はとある場所に向かっていた。ジャ・アークの本拠地で人間らしい食事が出来る場所は限られている。


「ケンさん。エビの背ワタ、取っておいて貰えます?」

「分かった。フラノ、白ネギを刻んでくれ」

「ハイ!」


 故・染井組長の一人娘である芳野は剣狼、富良野と共に夕飯の支度をしていた。あまりにも段取り良く進む為、することが無い桜井は謎の罪悪感と焦燥感に襲われていた。


「ヤバイ。することが無いのに、成果だけにあやかろうっていう浅ましい魂胆を自覚すると、とてつもなく焦る」

「慣れだよ。慣れ」


 同じ様に夕餉に預かろうとしている中田には全く遠慮が無かった。厚かましくも、寝転びながらニュースを見ている。


「中田君の根性だけには感心するわ……」

「おうよ! 俺達の世界は根性と度胸でやって行くもんだからな!」

「今の皮肉ね。分かる?」


 この肝っ玉だけは真似できないと思った。台所の方を見れば、せわしくなく動く富良野は見慣れている物の。剣狼が料理をしている光景は、何度見ても見慣れない物だった。


「ケンが料理しているのが珍しいか?」

「うん。私の中での彼の印象は、凶悪な怪人だから」


 人や物を傷つけ、死ぬまでリーダーと交戦を続けた生粋の戦闘狂。

 アレだけ恐ろしかった相手が、日常に溶け込んでいる姿には微笑ましさもあったが、自分達が取り戻した平和に土足で入られている様な気もした。多少の憤りが無かった訳ではないが、咎めるつもりも無かった。


「俺だって、最初はアイツがヤバイ怪人だと思っていたのに。今じゃ、良い弟分だよ」

「どっちが弟分なんだか」


 皮肉気に言葉を交わせるのは、桜井が彼に気を許している証でもあった。漂う夕餉の香りに日常を噛み締めながら。自分達と同じ様に日常に踏みとどまっている彼にだからこそ、聞いておきたい話があった。


「中田君は、人を食べたいとかは思わないの?」

「……分からねぇ。正直に言うと、俺は兄貴達を否定する気にもなれないんだ」


 意外だった。義侠心の強い彼なら糾弾する物だと思っていたが、いくばくかの理解を示すには、どういった考えがあるのだろうかと気になった。


「どうして?」

「俺はよ、死ぬのなんか怖くねぇとか思っていた。でも、基地から脱出する際に殺意の塊みたいな奴に会った。あの時は感覚がマヒしていたけれど、一歩間違えれば俺も周りに飛び散っていた染みになっていたんじゃねぇかと思うと……」


 拳を握った。普通の人間は命をやり取りすること等、滅多にない。

殺し合いと言う極限の緊張状態で感じるストレスから逃れる為に、抵抗出来ない他者を手に掛ける行動は理解できなくはない。決して、納得できるものではないが。


「皆さん。ご飯が出来ましたよ!」

「お。待ってました!」


 暗い話を打ち切る様にして、卓上には料理が運ばれて来た。エビのチリソースを始めとした、中華風のメニューに思わず桜井達の顔が綻んだ。

 頂きます。という声と共に食事が始まる。失われつつある日常と人間性を味わう様に、団欒としていた。


~~


 機能性の代わりに食味を犠牲にした携帯食料を水で流し込んでいた。マトモな食事をしたのは何時だったかは覚えていない。皇に蔓延る怪人の数は急速に増えており、強さも被害も過去に類を見ない物となっていた。


「リーダー。北東300m先。怪人達が集結しているビルがあります」

「このビルで良いんだな?」


 強化外骨格(スーツ)に搭載されたカメラから写真を送り、合致しているという情報が入るや。大坊は体内から、ロケット砲型のガジェットを取り出した。

 腰に差したレッドソードが反応し、ロケット弾が発射された。紅蓮が尾を引きながらビルの一室に突っ込んだ後、大爆発を起こした。爆炎に紛れて飛び去ろうとした怪人達を逃さまいと、ブーメラン型のガジェットを取り出していた。


「カマイタチ」


 宙を舞ったブーメランは、怪人達を両断した後。彼の手元に帰って来た。目標物を始末したかを確認する為に通話を入れようとしたが、ノイズが走った。


「リー…妨……」

「妨害されているか。さて、相手は」


パタタタ。と乾いた音が響いた。スーツ越しの衝撃から察するに、銃撃されたことは直ぐに察した。反撃に打って出ようとした所で、カランと何かが転がる音がした。瞬間、強烈な閃光と音響が周囲を包んだ。


「GO! GO! GO!」


襲撃者達は手を緩めない。場所を変え、再び銃撃を加えようとした時。ガタンと大きな音がした、抱えていたはずのライフルを落としていた。拾う為の腕も落としていた。


「!?」


 世界が反転した。口から血の泡が噴き出していた。他の者達も同じ様に対峙されて行く中、敢えて1人だけが生かされていた。両手首から先は無くなっていたが。


「その装備は見た事あるぞ。リチャードの側近達が使っていた物だ。残党か?」

「Damn it!!」


 男のスーツが赤熱し、強烈な閃光と熱を放ちながら爆発した。周囲に転がっている死体も次々と爆発していき、辺り一面が火の海となっていた。


「誰だろうが、関係ない。皇の平和を脅かす奴は倒す。俺はエスポワール戦隊のレッドなんだ」


 血肉の焦げる臭いを意にも介さず、大坊は歩み続ける。やがて、目当ての物を見つけると拾い上げた。態と生かしたのではなく、偶然生き残った襲撃者の一人だった。意識は朦朧としているようだったが、呼吸はあった。


「吐いて貰うぞ」


 瀕死の男を引きずり出そうとした所で、強烈な衝撃に襲われた。受け身を取り、振り返ってみれば、怪人の集団が居た。


「ガハハ! アイツらを泳がせておった甲斐があったわ!」

「えぇ。そろそろエスポワール戦隊に潰れて貰わないと、私達が安心して生活が出来ないのでね」


 バッファロー型の怪人と電気クラゲ型の怪人に率いられた怪人達は、いずれも多数の人間を食らったのか、凶悪な風体をしていた。


「上等だ。お前達如きに後れを取ると思うなよ!!」


 多勢に無勢、理不尽を跳ね除けてこそのヒーロー。大坊は駆けだす。十重二十重に殺意に満ちた攻撃を向けられるが、いずれも振り払う。連戦での疲弊などまるで感じさせない。

 悲鳴と絶叫が響く中、放り出された襲撃者の生き残りは思った。もしも、悪魔が人間の体を借りて顕現するなら、この様な光景を繰り広げているのだろうと。


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