矛盾 6
「なんだ?」
流石に基地内にアラートが鳴り響けば、中田も警戒する。今はリングも無いので、武装した者に襲われたら一溜りも無い。だが、基地内を自由に動き回れなかった彼は、内部構造が殆ど分からず、部屋内に武器になりそうな物は無い。
「ちょっと待て、考えろ」
エスポワール戦隊の基地に襲撃を掛ける者達がいるとすれば、何者なのか。
皇が本腰を上げて、彼らの取り締まりに掛かったか? だが、平和憲法に阻まれ強化外骨格の軍事的利用が制限されている彼らが、この基地を制圧できるかと言われれば怪しい。
だとすれば、正面切って喧嘩を吹っかける組織なんて決まっている。ひょっとして、自分の知らない団体もあるかもしれないが、おそらく。今、この基地に襲撃を掛けている者達がいるとすれば。
「大丈夫か! 中田!!」
「うわ!? その声は、黒田か!?」
自動ドアを開けて入って来たのは、全身が灰色の鱗に覆われたトカゲ型の怪人に変身した黒田だった。彼は、中田に向かって怪人化のリングを投げつけた。
「付いて来い。ここから出るぞ」
「待て。お前ら、なんでここに?」
「説明は後だ」
リングを装着して部屋から出る。淀みなく進む黒田の後を付いて行くと、廊下には交戦痕が幾つも刻まれており、怪人や隊員の死体達も転がっていた。
「これは。お前らが?」
「先に手を出して来たのは連中だ。やったら、やり返される。当たり前だろ?」
ドスの利いた声に中田は身震いした。もしも、染井組長が亡くなった直後に見たのなら、昏い歓びに満たされていたかもしれない。
だが、今の彼は知っている。隊員達は血も涙もない、正義だけを執行する機構めいた存在ではなく、大事に思う人間も居れば、笑いも泣きもする人間だということに。
「分かる。けれどよ」
もしも、この隊員達の中に稚内やハト教で話し合った者達がいたら……不安から立ち止まった彼の胸倉を、黒田が掴み上げた。
「テメェ、まさか情が移ったんじゃねぇだろうな? 親っさんや、俺達を殺し続けて来た連中によ?」
反社会的存在と言うだけで、自分達のバックボーンを知りもせずに制裁し続けて来たエスポワール戦隊は憎むべき存在だった。事実、彼らは自分達にとって親にも等しい存在を殺害していた。
「情が移ったとまでは言わねぇけれど、このままじゃお互いに殺し合うだけじゃねぇか」
「だけど、俺達もやった。今更、和解なんて温い話は残されちゃいねぇんだよ!! 俺もお前も、エスポワール戦隊を倒すまで戦い続けるしかねぇんだ!」
この基地の襲撃の件で、エスポワール戦隊が更に苛烈な報復を仕掛けて来ることは想像に容易い。既に、歩み寄る機会など失われてしまったのだ。
ならば、自分もここで立ち止まっている場合ではない。色々と沸き上がる感情を嚙み殺して、踏み出そうとした所で黒田に突き飛ばされた。先程まで、二人がいた場所には弾痕が出来ていた。
「やぁあああああああああっぱりぃいいい! ソイツを連れ出す為の襲撃だったんだなぁああああああああ!」
常軌を逸した声量で叫ぶ『カラード』の容姿は異様な物だった。腕には怪人達から奪い取ったリングが装着されており、背中には隊員達から回収した銃剣型ガジェットがマウントされている。
腰には、何本ものダガーが差さっていて、手には大型のショットガン型ガジェットが握られている。全身武装、殺意と暴力の塊の様な男がいた。
「中田。構えろ、でなきゃ死ぬのはお前だ」
「クソッタレ!!」
「嘘つきめえええええええ! 嘘つきめぇぇえええええええ!! 本当のヒーローは俺達だぁああああああああ!!!」
中田もリングを起動させる。ハト教の時とは違い、コイ型の怪人の姿になっていた。動き出してしまった事態は止められない、出来ることがあるとすれば生き残る事だけだった。
~~
出立した大坊達は、目的地に着いてから基地が襲撃されていることを知った。
だが、彼らは引き返すという話は一切しなかった。間に合わないことも知っていたし、当初の目的を変えるつもりもなかったからだ。
「リーダー。本当にやって良いの?」
「通話が通じなかったからな。直接言いに行くしかないだろう」
彼らが居たのは港だった。今の時間は人気も少なく、船の出入りも殆ど見られない。だが、この場所にはエスポワール戦隊の装備や強化外骨格が運び込まれていたのは知っていた。
通常の手順で行くことはできないルートを使い、突き進んで行くとシェルター前へと来ていた。インターホンを鳴らし、応答を待つ。
「Oh。Mr.大坊。如何いたしましたか?」
「リチャード。播磨に『破砕塵』を渡したのは何故だ?」
「おっしゃることがよく分かりません」
「惚けるな。搬入記録から、色々な物を調べて裏付けは取れているんだ。言ったよな? 俺は裏切りを許さないと」
ゴク・アクの末路も当然知っていたはずだ。裏切りが何を意味するか理解できない相手でもないだけに、どうしてこの様な真似をしたのか、問い質す必要があった。少しの沈黙の後、インターホンから溜め息が聞こえた。
「最近の大坊はとてもつまらないです」
「あ?」
「私は、単身でガイ・アークと組織を滅ばした貴方の正義と信念を尊敬していました。ですが、今はハト教なんて物で融和を目指し、あまつさえ。一人の女に入れ込んでいると来ました。ガッカリです」
「今でも悪は裁いている」
「小物ばかりを倒して、ルーティンワークをしているだけです。あんな物を潰して、世が変りますか?」
組織が肥大化するにつれて、仲間達に仕事を任せることは増えたがエスポワールレッドとしての志を忘れたつもりなどは無かった。
「何が言いたい?」
「もしも、私が出会った頃の貴方なら。ジャ・アークが再結成された時に叩きに行ったはずです。ですが、貴方は変わらずケチな悪事を裁いてばかり。だから、私達で思い出させてあげようとしました。ヒーローとして、悪を許さぬ心を」
コンテナが開き、内部からユーステッド仕様の強化外骨格を装着した者達が出て来た。手にしているのは銃剣型のガジェットではなく、既存の銃火器を強化した物だった。
「意味が分からない。お前は平和を目指しているんじゃなかったのか?」
「平和を目指しているからこそです。悪に容赦も許しも要りません。これで、私を許してしまうなら、貴方達には死んで貰います」
「リーダー!」
精鋭達を引き連れていることもあって、一斉掃射でやられた者は誰一人としていなかった。叩き付けられる殺意の豪雨に、大坊の胸に埋め込まれたクリスタルが眩い輝きを放つ。
「良いだろう、リチャード。そんなに俺の正義が見たいなら、見せてやる」
七海は身震いした。大坊が、見た事もない表情をしている。怒りでも、無表情でもない。果たすべき、討つべき、ヒーローとしての本能を満たす悪の出現に心から喜んでいる、獰猛な笑顔だった。
「炎剣障壁!」
地面にレッドソードを突き立てると、炎熱の障壁が出現した銃弾の勢いを軽減する程度であったが、彼が引き連れて来た精鋭達には十分だった。
「カマイタチ」
鼠色のカラードがブーメラン型のガジェットを投擲すると、意志を持っているかの様に空中で奇妙な軌跡を描き、リチャードの私兵達の首を刈り取って行く。
「俺達はエスポワール戦隊だ。この皇に蔓延る悪を決して許さないことを! 知らしめてやれ!」
号令が響く、彼らは仲間を顧みずに自らの正義を実行する為に駆け出して行った。




