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矛盾 2


 エスポワール戦隊の本部には簡単に赴ける訳ではなかった。桜井達は指定されたファミレスへと向かうと、パンケーキに舌鼓を打っている少女の前に座った。


「ハト教で見たことがあるけれど、七海ちゃん。で良いのよね?」

「その認識で大丈夫」

「とてもではありませんが、待ち合わせをしている様には見えませんね」

「私が、ビジネス然として待っている方が不自然。貴方達も好きな物を頼んで。安すぎるけれど、この間の迷惑料の一端と思って」


 喫茶店を待ち合わせ場所に使って、注文をしないのも失礼に当たるかと思い、富良野がメニュー表のドリンクコーナーに視線を走らせている際、チラリと横目で見た桜井の表情は真剣その物だった。


「(先輩。やっぱり、本部に乗り込むから緊張しているんだ)」

「期間限定チーズカルテットハンバーグか爆裂プレートサンドイッチ……」


 メニュー表にしか集中力を向けていない事に気付いて、太ももを抓った。心なしか七海の視線に冷やかな物を感じた。


「遠慮は知って欲しい」

「じゃあ、チーズカルテットハンバーグにライス大盛りにスープ&サラダバーセットで」

「一体何を遠慮したんですかね?」

「デザートを注文していない所」


 ジョークでも何でもなく本当にオーダーを通していた。七海は深い溜息を吐きながら、ジロリと富良野の方を睨んだ。


「甘やかしすぎ」

「でも、甘やかすと本当に可愛いくて。って、そういう話題は良いんですよ。これから向かう場所について、何か注意事項とかは先に聞いておきたいんです」

「勿論。エスポワール戦隊の本部は機密事項だから」

「簡単に行ける所には無いのよね?」

「まず、貴方達だけでは向かえない」


 どういった方法で秘匿されているのかは想像も付かない。他にも幾つか注意事項を話された。曰く、本部では決して自分から離れてはいけない。中田の面接の為に用意されたルート以外を使ってはいけないなど。


「相当厳重に管理されている場所なんですね」

「ヒーロー達の基地だから。情報が少しでも洩れたら致命傷になりかねない」


 皇内でも相当に恨みを買っている集団だ。彼らに繋がる情報を求めて血眼になっている者達は少なくはないだろう。どうして、情報が外部に洩れていないかと言う疑問はあったが。

 注意事項を話している内に注文した料理が運ばれて来た。テーブルの殆どは桜井の注文した物で埋め尽くされており、次々と平らげて行く彼女の健啖ぶりを見ながら七海は眉間を抑えていた。


「リーダーが彼女に親身になる理由が分からない」

「能力や貢献ぶりだけで良くしている訳じゃない。と言うことだと思いますよ?」

「……愛嬌?」

「いや、そういう訳でも無い気が」

「ペット感覚?」

「さっきから答えが、人間の尊厳から遠ざかっていますね」


 暫くの間、富良野は七海から質問責めにあっていた。横では、人の気も知らないで美味を堪能している桜井の姿があった。


~~


 ファミレスを出ると、表には車が停められていた。促されたままに乗り込むと、運転手からアイマスクを渡された。


「すいません。リーダーの同期であっても規則ですので」

「大丈夫。こっちだって、急な訪問で無理を言っているのは分かっているから」


 毅然とした受け答えだった。渡されたアイマスクを装着して、シートに体重を預けた。何かのギミックが作動しているのか、ガチャガチャと音が聞こえた。

 不安に駆られながら、隣にいる存在を確かめるようにして凭れ掛かった。耳を済ませれば、規則正しい呼吸音だけが聞こえる。……呼吸音に混じってスピーとか間の抜けた鼻息が聞こえている。


「先輩?」「Zzzz」

「中々の度胸」


 何処に連れていかれるか分からない状態だと言うのに、彼女は寝息を立てていた。だが、心当たりはあった。久々にランニングをしたことで体力を消耗したのだろう。故に、エネルギーを取り戻そうと、待ち合わせていたファミレスで大食いを敢行し、満腹となった彼女は眠りに落ちた。

先日の出来事があって、ヒーローとしての自覚を取り戻したとしても怠惰に浸って来た肉体までが元通りになる訳ではない。


「なんだか。心配しなくてもヒーローに戻ることは無い気がして来ました」


 怠惰に浸って来た反動。とは言いかえれば、彼女が日常に馴染んでいた証でもあった。桜井につられる様にして、彼女も寝息を立て始めた頃。運転手と七海は小声で話し合っていた。


「どうします? やはり、彼女達は本部に連れて行くべきではないのでは?」

「いいえ、約束は守らないと。それに、彼女の決意が生半可な物であれば、私達から遠ざける切っ掛けにもなるから」

「……そうですね」


 運転手のハンドルを握る手に力が籠る。まるで、本部での記憶を思い出している様に、彼は律義に命令に従ってアクセルを踏み続けた。


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