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帰還 1


 ハト教から帰って来た大坊達は、自分達が居ない間に起きたことをまとめた報告書に目を通していた。特に目を引いた項目は『敵対組織』が現れた。と言う物だった。


「『ビリジアン』。この項目についての説明が聞きたい」

「はいよ。ボス! まず、この映像を見て下さい」


 ビリジアングリーンのスーツに身を包んだ隊員は、モニタにいくつかの映像を流した。腕にリングを装着した者達が怪人へと変身して、構成員や同志達を葬る姿だった。その後、駆けつけた上級構成員やカラード達に始末され、人間体へと戻っていく一部始終を捉えた物だった。


「一般人が入手できる物じゃないよな」

「はい。今まで撃破してきた者達の身元を調査した所。いずれも、我々が制裁を下した者達の新縁者、あるいは親しい者達ばかりでした」


 それを聞いた大坊の顔には憤怒の表情が浮かんでいた。暫し浮かべられる事の無かった表情に、七海は反射的に距離を取った。


「俺達が裁きを下すのは、対象に近しい者達への報復を防ぐという目的もあったと言うのに。何故、それが分からないんだ」

「連中は感情で動いていますからね。我々の様な大義を持っていないから、後先を考えない復讐なんてことをするんですよ」

「全く。自分勝手な正義感で復讐を正当化するとは。呆れた奴らだ」


 大坊の言葉にビリジアンはニヤケ面を浮かべながら、モニタに表示した地図の幾つかにポイントを打ち込んだ。そのいずれも暴力団を始めとした反社会団体であり、その中でも一際大きなポイントが付いた場所があった。


「ここは?」

「先日、リーダーが仕留めた組長がいたでしょ? アレ、組や傘下団体を上げて葬式するって目途が付いたらしくてねぇ。ここにそいつらが集まるんですよ」

「最近は、葬儀屋も反社会団体には関わりたがらないのに。よくやるもんだ」


 昔から勧められていた暴対法に加えて、昨今ではエスポワール戦隊の活躍もあって、ますます彼らは世間一般から距離を取られていた。

 大坊達がハト教に行っている間に行われなかったのも、依頼先を見つける事に手間取っていた為だろう。


「集まったからには。勿論、俺達がやることは決まっていますよね?」

「当然だ。『上級構成員』と『カラード』。それに『ヒーローチルドレン』も借り出しての大掃討の準備を進めてくれ」

「了解です」


 直ぐにビリジアンは各支部や隊員達に連絡を取り、作戦の立案を依頼した。その様子を見ている大坊の双眸は煌々と輝いており、先日までの穏やかさは既に鳴りを潜めていた。そんな彼を見て、七海は言った。


「リーダー。ハト教での日々よりも、誰かを倒している方が。楽しい?」

「楽しいかどうかじゃない。俺達にしか出来ない事だ。皆の平和の為、安寧の為と思うと。俺の心の中にある使命感が熱く燃え滾るんだ」


 そう言って、握り拳を作る大坊の口角は釣り上がっていた。自分達の平和を脅かす相手を取り除き、皆から賞賛を浴びる。その行為が如何に甘美な物であるかという事を、彼は知っていた。


「リーダーがそう言うのなら」


 しかし、七海は多少の嫌悪感を覚えはした物の。引き止めるような真似はしなかった。その行為で救われる者がいる事を、彼女は身をもって知っていたからだ。


~~


 染井宅。芳野との生活に慣れて来た剣狼は掃除を行ったり、洗濯を干したり、一緒に買い出しに行ったりと。自主的に家事を手伝うようになっていた。

 当初は、彼の事を恐ろしい人間だと思っていた芳野であったが。共に生活をしていく内に無愛想で不器用ながらも、他者を気遣える人物であることを把握し、二人の距離は縮まっていた。


「ケンさん。買い出しに行きましょう」

「分かった」


 いつも通り。少し寂れた商店街へと向かう。商品の質はマチマチであるが、話を交わす店員達とは誰もが顔見知りであり、しばしば買い物に来る二人を冷やかしたりしていた。


「おぅ、芳野ちゃん。今日も彼氏連れかい?」

「もう。そんなのじゃありませんよ」


 専ら喋るのは芳野であり、剣狼は荷物を持つことに従事していた。勿論、彼にも声を掛けられるのだが、ぶっきらぼうな返事ばかりを返していたが。決して、悪いようには受け取られてはいなかった。

 買物を終え、家に帰った所で玄関に自分達以外の靴があることに気付いた。奥へと上がると、そこには染井組長と豊島の二人がリビングで腰を下ろしていた。


「あ、お父さん。帰って来るなら連絡を入れてくれれば良かったのに」

「悪かった。俺も急に決めた事だったからな」

「どうしてだ?」

「何。明日の仕事に行く前に芳野の飯を食いてぇと思ってな。悪ぃが、俺達の分も作ってくれねぇか?」

「はい。大丈夫ですよ。ケンさん、手伝って貰えますか?」


 芳野の呼びかけに応じて、彼もエプロンを付けて台所へと入った。彼女を手伝う動きは慣れた物で、思わず染井組長達も唸った程だった。


「親父。黒田達、良い奴を拾ってきましたね」

「全くだ」


 卓上に食器や飲み物を並べ、全員が手を合わせて『いただきます』と言った。食事をしている時は終始無言であり、故に手早く終わった。出された物は残さず平らげた為、食器の洗濯も速やかに行われた。


「芳野。悪いが、ケンを借りていくぞ」

「あ、はい。分かりました」


 染井組長達に引っ張られ、彼の部屋へと訪れた。(ふすま)を閉めて、豊島は見張りをするようにして表へと出た。染井組長が腰を下ろしたのを見て、同じ様にして座った剣狼が先に口を開いた。


「アンタ。顔に死相が浮かんでいるぞ」

「やっぱり、そう言うのは分かるのか?」

「分かる。エスポワール戦隊と対決をする前の怪人達や戦闘員に浮かんでいたのを何度も見て来た」


 具体的にどんな物であるかは彼にも説明が出来なかったが、今の染井組長に浮かんでいる雰囲気を放っていた者達は、殆ど例外なく斃されてきたのを覚えていた。その神妙な面持ちを見て、染井組長は口を開いた。


「明日。俺達は、親元である団体の組長の葬式に出る」

「直系の親の葬式。ともなれば、他にも大量に集まるだろうな。……勿論、それをエスポワール戦隊が逃すとは思えないが」

「だろうな。だからと言って、アイツらにビビッて取り止めたら。俺達は末代までの笑い者になる」


 死地になるのは分かり切っていたが、止める事は出来ない。既に権威はボロボロに砕かれているが、続けて来た慣習を止める事は出来ない不器用すぎる生き方が其処にはあった。


「だったら、俺を連れていけ。少なくともアンタ達2人は助けられる」

「いや。お前さんには事務所と芳野を守って欲しいんだ。それに、俺達にはフェルナンドから預かったコイツがある」


 その手には、先日渡されたリングがあった。使用例は幾らか聞いていたが、事態を打開にする足り得るほどの力を授けてくれるかは疑問だった。


「生きて帰って来れるのか?」

「やるしかねぇんだ。もしも、何かあったときは黒田を頼ってくれ。芳野の事。お前に頼むぞ」


 その決意を秘めた瞳に。彼はかつての上司である『ガイ・アーク』を思い出していた。話す事を話せて満足したのか、染井組長はそれ以上は何も言わずに。立ち上がり、部屋から去って行った。

 しばし、彼は部屋に佇み。この事を黒田に連絡を入れようかどうか迷ったが。もしも、連絡をすれば。先程自分が思った様に危険を顧みずに出て行くかもしれない。そう考えて、彼は打ちかけたスマホの電源を落として。部屋を去って行った。


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