継ぐ者 3
昨晩、剣狼は黒田に『フェルナンド』達と会った事と、彼らが持ち掛けた交渉の内容を説明した。
話の内容が内容だけに。黒田も豊島と染井組長に説明をした所、全員が顔を突き合わせて話をする事になった。真っ先に口を開いたのは染井組長だった。
「フェルナンドか。南米の麻薬カルテルの王として、かなり有名だな」
「そいつが、俺達と交渉したいって話を持ち掛けて来たのか?」
「そうだ。連中は『怪人化』を促す道具を取り引きしたいとは言っていた」
「怪人化? そりゃ、お前みたいになるって事か?」
「俺もどうなるかは分からない。連中の電話番号も預かっている」
剣狼は電話番号が書かれた紙を豊島に渡した。数舜の間を置いて、染井組長は記載された電話番号を入力した。コールを予想していたのか、直ぐに相手は出て来た。
「初めましてだな、染井サン。俺に掛けてきてくれたって事は、剣狼はちゃんと取り次いでくれたんだな」
「そうだ。だからこそ、聞きたい。なんでお前さん程の男が。ウチみたいなヤクザに連絡を入れて来る?」
染井組長のいう事がイマイチ分からず。剣狼は黒田の方を見たが、彼は困ったような顔をして言い淀んでいた。そんな彼を見兼ねたのか、代わりに豊島が説明した。
「向こうは麻薬カルテルだ。幾つもの組織を束ねていて、こっちは一団体。どっちの規模がデケェかは言うまでもねぇ」
明確な上下関係があるにも関わらず、遜る様な真似もせず、毅然と対応している染井の胆力に改めて感心していた。
「今は、規模で威張り散らしている場合じゃねぇんだよ。俺達みたいな悪党達は、運命共同体。全部がエスポワール戦隊のターゲットにされている」
「だから、大小含めて手を組んで、早めに叩いておきたいのか?」
「そうだ。向こうも各団体と手を組んでいるんだから、俺達も手を組まねぇと対抗できねぇ」
「その件で気になっていた事がある。あんな無法者達が装備を開発して、集団で行動できるには。何処かにスポンサーが居るんだろう? お前らはそいつらの正体を掴んでいるのか?」
誰もが疑問に思っていた事だった。コスプレ団体は兎も角として、不特定多数の一般人に、銃剣型ガジェットや量産型スーツを提供しているバックボーンは何処なのかと。
黒田と剣狼も染井組長の声に耳を傾けた。如何に大坊個人が強大だとしても、組織として動くのに必要な物はまた違ってくるはずだ。資金、人員、装備のルート。大坊に、それらを形成できる程の知識も伝手もあるようには思えなかった。
「あぁ、勿論だとも。奴らについているスポンサーは『ユーステッド』の大手企業『ホーピング』だよ」
「ホーピングが!? ユーステッドの軍に武器を下ろしているって言うので有名な軍事企業だろ!?」
「一体何のために? あいつ等に武器を下ろして何の得があるんだ?」
「さぁな。そもそも利益の為に動いてるかも分からねぇ。あいつらの繋がりは俺達にも分からないが、協力しているのは確かだ」
その話を聞いて、敵側の戦力が強大であると認識せざるを得なかった。向こうは暴徒達を尖兵とした軍事企業がバックに付いている集団。たかが、反社会団体が抵抗できる相手とも思えなかった。
「だが、それなら。次から次へと連中に装備が行き渡っているのも説明が付くか」
「同時に。一団体が対抗するのが不可能って事も分かるだろ? だから、俺は連中に対抗するために、片っ端から声を掛けている」
「ケンの言っていた怪人化のガジェットをエサにしてか? さっきの話に戻るが、俺達にそんな物を施して、お前達に何の得がある。金か?」
先の話に戻った。エスポワール戦隊のスポンサーであるホーピングの思惑が分からぬように、彼らに標的とされている悪党達のスポンサーに付こうとしているフェルナンドの目的もまた不明瞭な物だった。
「幾つかある。アンタの期待に沿う合理的な理由も言えるがが、一番の目的は復讐だ。俺はボスと仲間、……妻を奪ったアイツらを決して許さない」
「そうか。身内を奪われたなら、許す訳にはいかねぇよな」
今まで飄々としていた声の中で唯一本音とも言える様な、深い恨みが滲み出ていた。その怒りに共感するところもあったのか、染井は共感する様に頷いた。
「アンタらだって。一泡吹かせてやりてぇだろ?」
「当たり前だ。座して死を待つなんて、ガラじゃねぇ」
「交渉成立だ」
事務所の扉が叩かれた。豊島に指示されて、黒田が出ると、スーツケースを抱えた身の丈2mほどの男がいた。剣狼が顔を上げた。
「拳熊。お前も復活していたのか」
「昨日の会合には出られなかったがな。交渉が成立したとの報せを聞いて、礼のガジェットを持って来た」
事務所に上がり込み、デスクの上に置いたスーツケースを開けた。中にはボタンの付いた装飾の施されていないシンプルな腕輪が4つ程収められていた。電話口の声は続く。
「とりあえず、その4つは試供品だ。脅威が現れた時は試してくれ」
「分かった。使わせて貰おう」
染井が一つ手に取り、豊島も一つ手に取り、懐にしまった。残った二つを手に取ると、彼は黒田と中田にそれを渡した。
「よし。テメェらがそれを使え」
「豊島の兄貴。俺達で良いんですか?」
「お前らは、一度狙われているんだ。今度もまた狙われるかもしれねぇからな。持っておけ」
「豊島の兄貴。ありがとうございます」
二人とも礼を言いながら、それらを懐に仕舞った。物品を渡した拳熊は去ろうとして、事務所の壁に掛かっている物を見て声を上げた。
「おい、アレはエスポワール戦隊構成員のベルトとガジェットじゃないか」
「エスポワール戦隊構成員から奪い取った物だが、欲しいのか?」
「欲しいな。サンプルは幾らあっても足りやしねぇ」
拳熊の呟きが聞こえたのか、フェルナンドは電話口で声を荒げた。自分達が持っていたとしても使い道が分からない物だが、ただで渡すのも気に入らない。
「そっちの誠意を見せてくれたなら考えるぜ」
「拳熊。出してやりな」
「分かった」
一旦事務所から出て行くと、彼は表に停めていた車のトランクから新たにスーツケースを2つほど引っ張り出して来た。中には、皇で流通している紙幣が大量に収められていた。
「交渉成立だ」
「もしも、また。連中の装備とかを奪取出来たら呼べ。高値で引き取る。それじゃあな」
ベルトと銃剣型のガジェットを手にした拳熊が去って行くのと同時に電話も切れた。彼らが去った後、暫し沈黙が場を支配していた。
「それじゃあ。俺達はまた用事で席を外す。ここは任せたぞ」
「分かりました。親っさん、豊島の兄貴」
黒田達が頭を下げながら見送り、中田は何の気なしに、事務所内にあったテレビの電源を付けた。
「昨晩。都内にて、警備員と子供一人を残して惨殺されるという事件があり…」
「おぉ、怖いねぇ。エスポワール戦隊にやられたのか?」
中田はそのニュースを茶化していたが、徐々に詳細が説明されるにつれて。事務所内の人間達の顔が固まって行った。
「被害に遭ったのは『日野』さんであり、表に居た警備員は『エスポワール戦隊』に所属していた物と発表があり…」
「おい、待てよ。てことは、このニュースに出ている日野って奴は」
黒田は急いで先日の尋問の際に控えていた、日野の学生証に書かれていた住所をPCに入力し、付近をビュアーで見ると。報道されている現場と全く一緒の場所だった。
「間違いない。先日、俺達がここに連れて来た奴だ」
「一体誰が連中に復讐したんだ?」
全員が疑問を浮かべる中。答えは程なくして、報道されているキャスターによって発表された。
「被害者達は人間の力とは思えない方法で殺害されており……」
その方法に黒田達は懐に仕舞ったリングを見た。もしかすると、この犯行はこれを使った者では? という考えが過った。
「このリング。本当に使って良い物なんだよな?」
中田の不安そうな表情と共に発された質問は、誰も応えられる者はいなかった。




