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ビッグ・ブラザー 20

「俺達の勝利だ!」


 エスポワール戦隊の拠点となった議事堂では歓声が巻き上がっていた。

 ついに、レッドはジャ・アークの総帥すら倒してしまった。ワンマンアーミーと言うしかないバカげた戦力だった。熱狂し、テーマソングを口ずさむ戦隊に対して桜井は困惑を覚えていた。


「(何がそんなに嬉しいの?)」


 少なくない仲間が犠牲になった。守るべき人々をも巻き込んだ。生活を破壊して、敵を殺し尽くしただけで、得られた物は何もない。

 戦いが終わり、スタッフロールに入って大団円と言う結末がある訳も無い。これだけの被害をもたらしたエスポワール戦隊と言う組織は、全世界から目の敵にされるだろう。だとすれば、次は世界を相手に戦うのだろうか?


「(今度の相手はイルミナティかしら)」


 事は終えた。今更、大坊を止める意味も無いことを悟った。

 ジャ・アークの残党は残っているだろうが、全てはもう関係ない話だ。会いたい人が居た。桜井が留まっている理由も無かった。


「何処へ行くの?」

「もう、戦いは終わったから良いでしょう。私は日常に帰るの」


 七海から声を掛けられたが、止まるつもりも無かった。エスポワール戦隊の勝利に酔いしれている彼らには、桜井と言う存在は眼中に無かった。追いかけようとしたが、シャモアに肩を掴まれていた。


「良いのよ。彼女はヒーロじゃなくて、私達が守るべき市民なんですから」

「……分かった」


 議事堂から離れて行く。荒れ地を超えて、知人達を見捨てて、自分だけが安寧を求めて逃げる。その姿に勇気は欠片も見当たらなかった。


~~


 中田が目を覚ましたのは、ドブ臭い場所だった。直ぐに此処が下水道だと分かり、周りには僅かな仲間達がいるだけだった。


「おい、何があったんだ?」


 誰も疑問に応えようとしない。ある者は頭を掻き毟り、ある者は虚空を眺めていた。その内の一人が、突然立ち上がった。


「ああああああああああああ!!!!!!」


 彼はリングの力でカニ型の怪人に変身すると、巨大なハサミを使って自らの頭部を砕いていた。辺りに内容物が飛び散るが、誰も取り乱しはしない。冷静と言うよりかは反応を示すだけの気力も無いといった様子だった。

 中田の心臓が早鐘を打つ。どうして、彼らがここまで悲観的になっているのか。自分が気絶している間に何があったのか。


「おい、お前ら! 誰でもいいから! 何があったか答えろよ!!」

「私達は負けたんですよ」


 俯いていた者達の一人である、反町が消え入るような声で呟いた。

 負けた、というのが何を意味するかは想像に容易い。自分が気絶している間に何があったのかを察してしまった。


「嘘だろ? だって、俺達。洗脳電波もぶっ壊したじゃねぇか! これから反撃に出ようって時だったじゃねぇか!」

「レッドですよ。アイツがやって来て、1人で皆殺しにしたんです。見ますか?」


 力なく差し出された子機に映し出されていた映像は悪夢と呼んでも差支えのない物だった。

 たった一人の人間に怪人達が皆殺しにされ、巨大化したフェルナンドですら理不尽な復活によってパワーアップしたレッドに殺された。自分達に協力していた、避難所にいた自衛隊も殲滅された。全身から力が抜けていくようだった。


「何だよ、これ。本物の化け物じゃねぇか」


 今まで、何度か相対して来た彼は、もしも戦いになれば食らい付けるつもりではいた。幹部であるブルーを倒したという自負もあったが、レッドの強さは正に別次元だった。


「ですが、私達は生きています。このまま、エスポワール戦隊に見つからない様に海外に逃亡して、そこで怪人の力を使えば生きて行けるはずです」


 国外にはエスポワール戦隊の力も及んでいないはずだ。強化外骨格(スーツ)を供与していたユーステッドは危ういにしても、東南方面に行けば再起の目もあるかもしれない。

 反町の提案に、生き延びた者達が僅かながらの希望を取り戻した瞬間。数人の頭が爆ぜた。内容物が飛び散り、体が横たわる中。やって来たのは、カーマイン色のカラードだった。


「そうはさせんぞ。皇のゴミはキチンと、ヒーローが掃除せんとな」


 両腕に装着されたガジェットが起動すると、補足された者達の頭部が次々に破裂していく。もはや、戦うことも生きることも諦めたのか。誰も変身することなく、一方的に嬲り殺しにされていた。


「戦えよ。戦えよ!!」


 辛うじて中田は変身していたが、龍の形態をとることは出来なかった。魚型の怪人になり、手裏剣の様に鱗を放つが容易く避けられていた。

 絶望はそこでは終わらない。カーマインに引き続き、後詰めとして別色のカラード達もやって来た。生き残ろうと逃げ出した者達が次々と散って行く。


「中田さん。やっぱり、怪人や悪ってのはヒーローに始末される物なんですね」

「諦めるなよ! 生き残れよ!!」


 激励を掛けた瞬間、反町の頭も弾け飛んでいた。生き残ったのは、自分一人。最後の最期まで戦うとは決めていた。

 駆け出したが、ダメージの回復していない体では思う様に動かず転げた。彼らは嘲笑うような真似もせず、手持ちの火力を叩きこもうとしたが、何かに気付いたようにピタリと動きを止めた。


「ッチ。足止めは失敗したか」

「アォオオオオオオオ!!!」

「ケン!!」

「掴まって!」


 巨体が駆けて来た。見れば、全身のガジェットを叩きこまれたのか、武器や肉片をこびりつかせた剣狼が巨大な獣形態になっており、背中には軍蟻が乗っていた。

 中田を咥え上げると、カラード達の一斉射撃を食らいながらも突破していく。マンホールを切り裂き、地上へと出た。


「移動します! 付いて来て下さい!」


 上空には巨大な蜂の姿を取っている槍蜂が居た。彼に先導される形で逃げようとするが、背後で機獣の咆哮が響いた。


「アイツらは一体?」

「グレート・キボーダーのサポートメカだよ」


 上空から、殺意を伴った大量のビームやミサイルが降り注ぐ。全てを避けながら、剣狼は地を蹴り続ける。遠くへ、遠くへ、次から次へと増えて行く追撃を巻くようにして速く、速く、駆けて行く。

 頭上では追っ手を撒くために槍蜂がサポートメカや地上にいるエスポワール戦隊達と戦っていたが、多勢に無勢。押されて行く一方だった。


「……俺が言っても良いかどうかだけれど、皆。生き延びて下さいね」


 足止めに徹した戦いをしていたが、限界は直ぐに来た。自らの末路を悟った槍蜂は、最期の一撃と言わんばかりに追撃して来た機獣に吶喊した。


「キーッ!!」


 機関砲が放たれ、槍蜂の甲殻を穿って行く。だが、止まらない。加速を乗せた上で、彼は両腕と尻から生えている槍の様な針を突き出し、体当たりした。

 装甲を穿ち、地面へと墜落した機獣は地上に居たカラード達を押し潰した。だが、彼らは怒りに燃え上るばかりで戦意が衰えることは無かった。


「落ちて来たぞ! やれ!」


 全ての力を使い果たして落ちて来た槍蜂を取り囲み、カラード達は手持ちのガジェットを叩きこんだ。光線が、刃が、銃弾が、矛先が、ボロボロになった彼の体を更に壊していく。


「皆……」


 薄れゆく意識の中。槍蜂の脳内に浮かんだのはエスポワール戦隊への憎悪では無く、復活したジャ・アークでの日々だった。

 人間の真似事をしながら、変わった剣狼に笑いつつ。桜井等の人間と交流を育んだ日々。全ては、この日の為の布石だったと言うのに。今となっては、酷く大事な物だったような気がした。


「カーマイン・ド・クラッシュ」


 カーマインが両腕のガジェットを起動させる。槍蜂の体が内部から加熱、膨張されて行き、破裂した。


「残るは3人! 他の幹部級も逃げている! 最後まで斃してこその! 本当の勝利だ!!」


 誰かを殺した後悔などあるはずもない。悪党を斃した達成感もそこそこに、彼らは悪を根絶する為に走る。


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