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ビッグ・ブラザー 19


 レッドが怪人達と戦い始めた瞬間から、避難所と交戦区域を仕切る様にして障壁が張り巡らされていた。カラードの一人『オリーブ』と呼ばれる者が使っていた『フォースプロテクト』と呼ばれるガジェットによる物だった。

 どれだけの戦闘が行われているかは観測できなかったが、避難民の安全の為に自衛隊の者達は移動を促していた。


「指示に従って移動してください! 女性や子供。お年寄りから先に……」

「ふざけるなよ!」


 女子供が先に移動している中、中年男性が声を上げた。彼の怒りに感化される様にして、次々と不満が飛び出る。


「そもそも! お前達がエスポワール戦隊をクビにしたから、こんなことになったんだろう!? 国の責任を俺達に背負わせるのかよ!?」

「俺が住んでいた家も吹き飛んだ! どうしてくれるんだ!」

「あの怪物がこの避難所に来たのも! アンタらが怪人を匿ったせいだろ!?」


 住民達も限界だった。自分には関係がないこと、制裁を食らうのは悪人達だけだと、内心では嘲笑っていた。

 自分達は善良な市民であり、巻き込まれる可能性は無いのだと。ネットやゴシップで消耗される話題だと思っていたが、今の自分達は被害を被っている。こうなればヒーローも怪人も等しく脅威でしかなかった。


「今は抗議している場合じゃないですから!」

「俺達はやっとの思いで此処に辿り着いたんだぞ!? 移動している最中に戦いに巻き込まれたらどうするんだ!?」

「お前達も強化外骨格(スーツ)を着ているんだろう! だったら、表の奴らを何とかして来いよ!」


 文句を言えば誰かが、何とかしてくれる。何処まで行っても他力本願であり、自分で事態をどうにかしようとする力も無ければ、意思も無かった。


「皆様に、ご協力を頂ければ避難もスムーズに行われるんです! ご協力を!」


 避難誘導の為に必死に声を上げるが、事態は何も改善する兆しを見せない。人々の不満と苛立ちは、際限なく膨れ上がっていた。


~~


 交戦している怪人達も決して、素人ではない。ここに至るまで生き残り、あるいは人を食らって力を蓄えて来た猛者達だ。だが、彼らの予想を遥かに超えて、ヒーローは理不尽の権化だった。


「ビシャアアアアア!」


ヒョウモンダゴ型の怪人が毒液を吐いた。人体にとって猛毒であり、カラードの隊員達に対しても脅威である一撃は、目の前で一瞬で蒸発させられた。


「レッド・スライサー!」


 円月刀の柔軟な刃が体の至る所に滑り込み、あっと言う間にヒョウモンダゴ型の怪人は解体されてしまった。だが、怪人達も覚悟をしているのか、仲間の死にも臆せず攻撃の手を緩めない。

 ホワイトタイガー型の怪人が、遺体の毒液を爪に塗り付けて振り被った。爪から毒が沁み込む苦痛に耐えながら振り被った腕は、遥か後方へと切り飛ばされていた。


「レッド・ハルバード!」


 戦斧の一撃はホワイトタイガー型の怪人を唐竹割に切り裂いた。1体を始末している間に、背後から襲い掛かる者達も全て返り討ちにしていく。

 グレート・キボーダーの装備と装甲を身に纏ったレッドは、戦死した者達から吸収したガジェットをアタッチメントの様に取り付け、周囲に暴力を振りまいていた。散弾が食い破り、ミサイルで爆砕し、レーザーで焼き切って行く。

 物量作戦と言う定石を一笑に付し、怪人達を覚悟と憎悪ごと焼き払い、レッドは生き残った槍蜂とフェルナンドに銃口を向けた。


「これで終わりじゃないだろう。剣狼達は逃げたのか?」

「さぁな。好きに想像しな!」


 倒された怪人達の体から紫色の靄が立ち込め、フェルナンドへと吸収されて行く。ホワイトタイガー型の爪や剛毛、蛇型の柔軟な関節、ヒョウモンダゴ型の毒液から、サイ型の剛健な角。今まで斃されて来た怪人達の怨念を体現しているかの様だった。


「再生怪人の寄せ集めか。醜悪と言う外ないな」

「お前と変わらねぇよ!」


 相手の体躯に合わせる様にして、レッドもまた巨大化していた。

 最初に張った防壁は崩れ去り、避難所を背後にして二人は激突していた。戦闘の余波で建物が損壊し、避難していた者達の悲鳴が響く。


~~


「見つけたぞ! コイツだ! コイツが、エスポワール戦隊の奴だ!」

「何をしているんですか!?」

「決まっている。コイツを使って、戦いを止めさせるんだ!」


 抗議をしていた者達の背後で大声を上げた男性達は、ブルーが乗せられた担架を運んでいた。

 今も治療を受けねばならない程の重体の患者を運び出す暴挙を前に、自衛隊の者達も制止を掛けるが、恐怖に駆られた者達は止まらない。表に出た彼らは、奪い取った拡声器で叫んだ。


「おい! レッド! お前の仲間は此処にいる! 助けて欲しければ、戦いを止めろ!!」

「よせ! やめろ!!」


 フェルナンドが叫ぶが全てが遅かった。グレート・キボーダーと化したレッドは肩部に取り付けた、バズーカの砲口を向けた。


「ブルーの命を使って、俺を脅して来るか! だが、悪党の要求には決して屈さないぞ! 食らえ! グレート・キャノン!」


 目の前で戦っているフェルナンドのことも気にせず、レッドは表に出た避難民達に向けて引き金を引いた。発射された砲弾は市民達をバラバラに引き裂き、重体だったブルーも同じく肉片となって弾けとんだ。

 自分へ向ける意識を逸らした一瞬を逃さず、フェルナンドはレッドに組み付いて、押し倒した。衝撃で背後にあった建物が薙倒された。


「アイツらも。お前達が守るべき人々だったんじゃねぇのか」

「人質を取って要求を飲ませようなど、テロリストのすることだ。俺は悪には屈しない!!」


 胸部の装甲が展開され、出現した機関砲がフェルナンドに目掛けて放たれた。だが、全ての弾丸は皮膚で止まっていた。


「もういい。お前は生きるな。死ね」


 手に生やした爪を振り下ろした。装甲を貫き、強化外骨格(スーツ)を破り、皮膚を通過して心臓まで達した。内臓を潰した感触が伝わって来た次の瞬間、爪の先に何かが纏わりついて来る感触があった。


「再生。している、いや。違う。これは」

「分かる。この力は、イエロー! お前も! 俺と一緒に戦ってくれるのか!」


 突き入れた爪が弾かれ、生存本能に従う様にして飛び退いた。損傷した装甲部分が復元されて行く。変化はそれだけには留まらず、装甲が黄金色へと変貌して、手には巨大な槌が握られていた。


「これが、まさか。剣狼の言っていた――!」

「イェロォオオオオオ! ハンマァアアアアアアア!!」


 土を振り降ろす風圧で周囲が倒壊した。避ける隙すら与えられずに、辛うじて防御だけは間に合った。フェルナンドの全身に走った衝撃は、地面を伝わり辺り一帯を大きく揺らした。


「ギャッ!?」


 上げた腕の骨は折れ、体内に走った衝撃で骨が砕けた。体内を掻き回されるという表現すら温く、ミキサーに掛けられたかのようにズタボロにされた。だが、攻撃は終わらない。


「クラッシュ! ヘル・スタイン!!」


 槌の先端が高熱を帯び、振動を始めた。瞬間、強烈な閃光と衝撃が、フェルナンドの頭上で炸裂した。多様な怪人の防御機構を備えていたはずの巨体は、上半身が吹き飛んでいた。

 レッドが蹴り飛ばすと、抵抗も無くグラリと倒れた。焼け野原と化した周囲を見渡しながら、黄金色の槌を掲げて声高に叫んだ。


「ジャ・アークの総帥! フェルナンドを討ち取った! 俺達! エスポワール戦隊の勝利だ!!!」


 無人となった一帯では、彼の言葉に返事をする者もいない。空虚な勝利宣言であったが、これらの様子はドローンや怪人達の子機などを通して、各方面に伝わっていた。


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