表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/6

後日談2B



リヴィア様が部屋のドアを開けさせると、正面に見えてきたのははだけた格好でガウン姿のテセウスで、ソファに仰向けに寝そべったままこちらを見ていた。本人はリラックスしきっているけど、顔が可愛いせいで逆にいけないものを見ているような気分になる。


「あれー。テオドラちゃんじゃん、元気―?」


王族の風格というか、寝そべったままのテセウス様は半身をこちらに向けただけで挨拶した。手を振ったせいで肩からガウンが剥がれて、ほとんど半身裸みたいになっているけど本人は気にしていないみたいだった。


「テセウス様、ごきげんよう。」


とりあえず私はカーテシーをとった。仮にも王族が相手だし。


「そんな気遣わないで楽にしてよ、こっちおいで。」


テセウスは手慣れたプレイボーイらしく、自分のいるソファの空いているところをポンポンと叩いて呼び寄せようとした。


この人何歳って設定だったか思い出せない。ゲームの設定では高校生くらいの年齢のはずで、体格も小柄で痩せてはいるけど少年の体つきじゃない。でも声は声変わりしていないんじゃないかっていうくらい高かった。


「テセウス様、ご婚約者のリヴィア様がいらっしゃる前ですので、失礼に当たりますから。」


リヴィア様がいなくなくても相当気まずいけど。


「えー、気にしなくていいのにー。ね、リヴィア。」


テセウスのやる気のない返事に、ここまで挨拶すらされなかったリヴィア様はどう反応するのか気になって表情を見てしまったけど、意外にも決意に溢れた顔つきをしていた。


「テセウス様、今日はテオドラ様と親しくされてくださいまし。わたくし、お二人から学びたいのですわ。」


明らかに私に期待している内容が間違っている。もっといえばスキンシップ慣れしていなかった王子とセウェルスに比べて、私が耳かきをしたところでテセウスにはあまり効果がない気もしていた。仮に気に入ってもらえたとして、リヴィア様が見ていて学べるものでもないと思う。


「あの、リヴィア様、いろいろと勘違いされているようですけれども・・・」


「テオドラ様、さあさ、ご遠慮なさらず!」


小柄なのに思ったよりパワフルなリヴィア様に押されて、私はソファに尻もちをついた。


「ほら、リヴィアもいいってさ、じゃあ仲良しになろっか、テオドラちゃん。」


テセウスが急に顔を近づけてきて、私は思わずのけぞった。肌がすごくきれい。すごく純粋なイケメンみたいな顔をしておいて、こんな漫画に出てくるホストみたいなセリフを言うから、戸惑いが先行してドキドキはしないけど。


「えー、そんなに引かれると傷ついちゃうなー。もっと仲良くしよ?」


後ろについていて手をさっと優しく取られて、私は仰向けに倒れる形になった。


手を取ったテセウスに見下されて・・・あれ、私ひょっとして『組み敷かれて』いるの?


「慌てちゃってかわいいね。ねえ、遊ぶなら僕にしときなよ。王子で遊んでたらクラウディアちゃん悲しんじゃうよ?」


テセウスの声はまだ高めで表情も変わらないけど、さっきより1オクターブ低いかしら。


クラウディアは王子ルート一直線だったから、王子付きのセウェルスはともかくテセウスとは交流がないと思っていたけど、やっぱり主人公だけあってみんなの好感度が高いみたい。


となると、記憶が戻る前にクラウディアをいじめていた私には、恨みがあってもおかしくはないわよね。その人に伸し掛かれてはいないけど、軽く手を握られて見下されている状況って、けっこう危機な気がしてきた。


なぜか婚約者のリヴィア様が同じ部屋にいるっていうおかしな状況だけど。


「なに難しそうな顔して考えてんの?せっかくかわいいのが台無しだよ?」


テセウスはじわじわ顔を私に近づけてきていた。


「ちょっとお聞かせしたいことがありますので、耳をこちらに傾けていただけますか、テセウス様?」


私は決心をした。ちょっとはしたないけど、背に腹は変えられない、ってやつよね。


「ん、どうしたの?きになる。」


テセウスの形のいい耳が私の方に向けられた。


ふうっと息を吹きかける。


「ふあっ!?なっ!?!?なにすんのっ!?!?」


テセウスは大げさに身体をぶるっと震わせると、私から飛び退くように身体を起こして、目を回したようにふらっとソファの背もたれにもたれかかった。

私はさっとソファに座り直すと、混乱しているテセウスの頭を膝の上に誘導して、耳かきを取り出した。


「テセウス様、耳が汚れていらっしゃいますので、耳掃除をさせていただきます。危ないですから、動かないでくださいね。」


「はあっ・・・はあっ・・・いまの・・・なに・・・」


「動いちゃいけません。」


混乱して頭を起こそうとしたテセウスを押さえつけると、私は耳たぶから作業にかかった。


汚れているって宣言しちゃったけど、テセウスの耳はきれいで耳かきの必要はなさそうだった。でも私の身の安全がかかっているから。


耳たぶの周りの、安全なところから始める。


「んんっ・・・ちょっ・・・くすぐったいっ・・・」


「我慢ですよ、テセウス様。」


すこし手足をもじもじさせているけど、テセウスは抵抗してこなかった。


すこし耳の中を作業していく。


「・・・あ、だめだって・・・そこ、だめ・・・」


「なんでだめなんですか?」


「ふっ、ふわってなる、からっ・・・」


さっきの王族の余裕はどこかに飛んでしまって、テセウスは混乱した涙目で訴えるように私を見てきた。睨みたかったのかもしれないけど、もともと顔がかわいいのに目がぼおっとしているから、迫力ゼロ。


「大丈夫ですからね。」


「んううっ・・・き、きもちい・・・すごいよ・・・」


セウェルスに比べるとだいぶ素直な反応だった。耳かき気に入っていただけたみたい。


「はあっ・・・はあっ・・・」


テセウスの色っぽい荒い息が部屋にこだました。


「はあっ・・・はあっ・・・」


あれ、この息はテセウスのじゃないかも。


私が手を止めて部屋を見渡そうとすると、テセウスの直ぐ側で苦しそうな息をしているリヴィア様が見えた。


ひょっとして過呼吸!?


「リヴィア様!!大丈夫ですか!?やはりお辛かったのですね!!すみません、すぐにやめます!今行きますから!」


いくら『学ぶ』とか決意したって、さすがに婚約者が他の女の膝の上で涙目になっているのは見ていて辛いと思う。しかもたぶん何も学べていないと思うし。


「いえ、どうか続けてくださいまし、テオドラ様。」


リヴィア様は私の差し出した腕をやんわりと元に戻すと、顔を隠して首を振った。


「ですがリヴィア様、どう見ても大丈夫そうではありませんけど?」


「テオドラ様・・・テセウス様はただでさえ可愛いのに・・・こんなトロトロにされたときの破壊力・・・わたくし、心の準備ができていなかったのですわ・・・もうたべちゃいたいくらいですわ・・・」


よくよく見ると、顔を隠している手から除くリヴィア様の目は、なんだか獲物を見た肉食動物みたいに爛々と輝いていた。リヴィア様こういうキャラだったかしら。


顔が可愛いから全然怖くはないけど、これ、美少年を襲っちゃいそうな勢いよね。


「あの、リヴィア様、ご覧のようにテセウス様は判断能力がない状況ですので・・・」


「・・・もっと・・・やめないで・・・もっとして・・・」


まあでも、テセウスは女遊びが激しかった設定だし、婚約者のリヴィア様に後で襲われても・・・いやでもいくら私がちょっとした危機にさらせれたからって、やり返すみたいにこのまま放って置くのはよくないというか・・・


「テセウス様、おきてください、テセウス様?リヴィア様がいらっしゃいますよ?」


「ん・・・はえっ!?・・・リヴィア!?見ちゃだめだ!見ないでっ!」


半分ウトウトしていたテセウスは、眼の前のリヴィアを見ると急に慌てだした。


「あの、テセウス様、ご存知と思いますが、リヴィア様は最初からいらっしゃいましたよ?」


私は、さっきはだけた格好を惜しみなく晒していたテセウスが、なんで今さら慌てるのかよくわからなかった。


「うう・・・リヴィアの好みな大人の男とは、まだなれてないのに・・・」


そっか、そういえばそういう設定があった気がする。


テセウスは顔が可愛くて小柄で、婚約者や家臣から男らしくあれというプレッシャーに耐えられなくなってお姉さん方と遊ぶようになって、主人公がありのままの自分を肯定してくれて初めて改心するのよね。


「テセウス様、まだあの時のことを気になされているのですか!」


リヴィア様は顔を隠していた手を外して、私の膝の上のテセウスに向き合った。まだ顔はだいぶ赤いけど。


「テセウス様、わたくしが、大人らしい男性が好きといったのは、本心ではございません。テセウス様の可愛さに、すこし冷静さを失っておりましたわたくしの様子を見た王太后殿下が、婚約を取り消そうとなさったのですわ。そのときにテセウス様を襲わないと王家の方々に安心していただくため、仕方なくついた嘘にございますわ。それがテセウス様を苦しませるとは露にも思わず・・・罪深きわたくしめをどうかお許しくださいまし。」


リヴィア様が罪深いのは嘘というより『冷静さを失って』いたことのきがするけど、詳細を聞けるかんじではなさそうだった。


えっと、つまり本当はリヴィア様もかわいいテセウス様が好きで、主人公クラウディアの愛は特に必要ないってことでいいのかしら。


「そ、そうだったの、リヴィア・・・?ごめん、いろいろな女の子とイチャイチャすると大人っぽくなれるって、王子がいってたから、僕・・・」


「もうよいのです、テセウス様。」


ちょっと待って、テセウスの女遊びの発端はあの王子なの?自分は大好きなクラウディアには手を出していないのに従兄弟をけしかけるって、ほんとろくなことしないんだから。強がりというか見栄を張ったのかしら。


「許してくれるの、リヴィア?・・・」


「ええ、テセウス様・・・」


「リヴィア・・・」


えっと、なんだか甘い雰囲気になっているけど、私はもうお役御免で退場していいのよね。早く膝からどいてくれるといいんだけど。


「お二方、長年の誤解も解けて積もる話もあると思いますし、私は退場しますので、お二人でご歓談なさってください。」


私がテセウスの頭をそっとあげようとすると、逆にしがみつかれた。


「テセウス様、耳掃除などしている場合ではないのではありませんか?」


「良いのですテオドラ様、テセウス様の心ゆくまで続けてくださいまし。」


「リヴィア、やさしい・・・」


私への優しさは二人から感じないけど、テセウスはてこでも私の膝からどきそうにないので、しょうがなく私は耳かきを再開した。


「・・・はあっ・・・きもちいいよお、リヴィア・・・」


「テセウス様・・・」


「・・・はうんっ・・・これ、すきい・・・」


「はあん、テセウスさまあ。」


「・・・んっ、んあっ・・・もう、たまんないっ・・・」


「・・・はあっ・・・はあっ・・・テセウス様っ・・・」


「・・・あっ、あっ、あっ・・・とっ、とんじゃううっ!・・・」


「テセウスさまああああっ!」




あの、私、何なの?




「ふあああ・・・・・・」


膝の上のテセウスの頭が急に重くなって、見下ろすとすごく幸せそうな顔でテセウスは意識を飛ばしているみたいだった。


「テセウス様、頭どけられます?」


「・・・ぁぅぅぁ・・・」


すこし優しく頭をどけようとすると、テセウスはまどろんでいる猫みたいな反応をした。


「はあっ、はあっ、テオドラ様、ここはわたくしが」


「リヴィア様、とりあえず落ち着かれて、お水をお飲みになっては?」


上気しているリヴィア様を落ち着かせると、私はテセウスをソファに寝かせて、簡単に自分のドレスを整えた。


「あの、リヴィア様、両思いを確認されたとはいえ、意識のない相手になにかしてはいけませんよ?」


「まあ、何をおっしゃるの、テオドラ様、わたくしがこのトロトロ・・・幸せそうなテセウス様のまどろみを邪魔できるはずがないですわ。何時間でも見ていられそうですの。」


まだ息が荒いリヴィア様は言動も含めてちょっと心配だけど、恋人同士の甘い時間に巻き込まれて早く家に帰りたかった私は、足早に礼をして部屋を出た。


「テオドラ様!」


廊下に出ると、控えていた侍女のミルヴィアを押しのけて、貴族令嬢が何人か私に近寄ってきた。よく見るとテセウスと噂になった人たちばかり。


「テセウス様のお可愛い声が聞こえてきましたわ!何があったのですの?」


「リヴィア様いわくテセウス様がトロトロですって、せめて一目だけでも!」


「テセウス様がとろけるお話をお聞かせくださいまし!」


・・・ゲームの設定上『女たらし』っていっても、やっぱりテセウスはそういうキャラクターだったのね。みんなこんな感じだったのなら、テセウスの『大人の男化計画』は大失敗していたみたいだし、鼻息の荒いリヴィア様と二人きりにさせたことの罪悪感はちょっと減った気がした。


「・・・婚約者のリヴィア様が一緒におられますから、あまりお騒がせすると失礼にあたりますわ。私は用事がありますので失礼しますわ。」


「そんなあ、テオドラ様!」


「お待ちくださいまし!」


私が令嬢たちを振り切ろうと足早に歩いていくと、廊下の端の方で一人で泣いている騎士の男性がいた。


「ううっ、テセウス様、ついにリヴィア様と本懐をお遂げに・・・」


この人も別の勘違いをしていそうだけど、別に私が訂正する義理もないし。


「今日は疲れたわ。ミルヴィア、帰ったらハーブティーを入れて頂戴。」


私は階段を少し足早に降りて、馬車に向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ