外はないが、外へ行こう
「そういえば……」
「なんだい?吉田」
吉田は忘れていたことを思い出したようで少し嬉しそうな顔をしている。
「なんで俺の手だけバックアップとったんだ?」
そんなことか。あまり覚えてはいなかった。まだ1日も経ってないのにな……。やはり慣れない世界で疲れてきたのか?
「えーと……あっ。思い出したぞ。吉田がなんとなく手を犠牲にしそうだったからか」
「なんでそうなるん?」
どうしよう。自分でも全く覚えていない。話を変えても怪しまれるし、適当に答えておくべきか。
「指ないから犠牲にしそうだったし……ね」
誤魔化せたかは心配だったが、吉田はどうでも良さそうな顔をして、ペースを変えず歩いている。
どこに向かっているのかはわからないが、多分、僕らは自然に外に出ようとしている。
外……自由を意味したりするけど……自由は不自由と共にあって、決して自由なんかではない。
自由は、理想であり無いものを指す。だから僕らは、理想郷を自然に目指しているのかもしれない。僕らと同じ考えを持つ者は、どれだけいるのだろうか。
モニターの主と対峙しようと思っている者はどれだけいるのだろうか。
何もわからない。追いつけていけなければ、同時に死を迎える。段々と心が殺されていく。こうして何もなさそうな顔をして歩いているけれど、ひょっとしたら吉田ももう限界なのかもしれない。
「あのビル……人が暮らせそうな程大きいんじゃないのかな」
「休もうって言ってるのかな?」
「まあ、吉田が休みたさそうな顔してたし、僕も休みたいし……休もうぞ」
「読まれた……ね。さて、行くか」
やはり、吉田も疲れていた。問題は、このマンションに人がいるかどうかだ。いたらいたでまず寝首をやられる。どうするべきか。
「このマンションにいる須藤と俺以外の人の位置を特定……」
吉田がそう呟いて数秒経った後に、吉田は少し顔が綻んだ。人は居なさそうだ。今日はここで泊まるか。僕らは命と各部位のバックアップを取り、少し広い部屋にたどり着いた。
「今人が入ったの見えなかったですか?森さん」
「やっちまいますか?森さん」
「さて……あいつらにどれだけの価値があるのかね」
「音楽でも流そうか?」
吉田が言ってくる。が、寝ていたので後半しか聞き取れなかった。流そうか……流し……敵襲か?
僕は壁に下げてあるスタンガンを右手に構え、左手に拾った懐中電灯を構えた。
「音楽でも流そうか?」
吉田はまた言ってくる。なぜ音楽を流すのか。正直戦闘中の音楽は気に入らないとモチベがガクッと下がるから辞めてほしい。
「いらないぞ」
僕は警戒をしながら言ったが、無視をされた。
「音楽でも流……そう……か」
寝言か。確認が終わった途端に僕はその場に倒れ込み、秒が経つ前に寝てしまった。
僕らが起きたのは、1日経った後だった。
「よく寝たぞ。元気かい?吉田」
「寝すぎた気がするが、まあまあ元気だ。さて、行くか」
フロントを通り過ぎた時、金髪の大男が僕の前を通り過ぎたが、いつもの出来事のように感じ、全く警戒をしていなかった。
2日寝たことの鈍りだろうか。だとしたら相当だ。かと言って、まだ何もしてないのにスタンガンはまずい。
吉田は相変わらず腰に下げたスタンガンとエアガンを構えている。
正直、僕も吉田に貰ったが、エアガンにあまり期待はしていない。バックアップは取ってあるが、期待できるほどの威力は出ない。壁に撃ったが、貫通することもなく、虚しく跳ね返り、バックアップが完了し、発射される前の位置に戻った。
「元気かい?私がモニターの主、レックミオンだ」
「かっこよきかなです!森さん!」
なんだこいつ……二人目の声はどこから聞こえるんだ?……上か?
僕が上を見ると、割れたガラスの上から小学生が覗き込んでいる。見る限り……森・レックミオン……?レックミオン……フォレスト?動揺作戦かなんかだろうか。モニターの主の名前を知っているのか……!いや、まだ嘘の可能性もあるし、本当にモニターの主かもしれない。慎重に……
「や、やあどうも……レックミオン・フォレストさん」
レックミオン・フォレストは口を開け、娘の踊ってみたを視聴しちゃった親のような顔をしている。
「あ……そうだ……私がレックミオン・フォレ〇スだ」
「そうかそうか。お前がレックミオン・フォ〇トスか。ならまきびしとか出来るんだよな?まあ俺の火炎放射喰らえば即死だろうが……な」
吉田はふざけているのだろうか。あと通報されそうで怖い。
「買ってやるよ」
レックミオンは僕の肩をそっと触り、購入……と言ったような気がする。
「お前……健康状態は大丈夫か?」
レックミオンは僕に変なことを聞いてきた。まあバックアップは取ってあるし、大丈夫だろう。
健康状態を消す機能力……?そんなものあるのか……?
ぼんやりしていると、レックミオンが僕の方へ飛んできた。
「リミッターを売却……。お前の筋力を購入する」
言われた途端に体が重くなり、僕は10mくらい弾き飛ばされた。弾き飛ばされたのは正直初めてだ。だんだん痛くなってくる。なんなんだこの機能力…。やはり……レックミオンがモニターの主……黒幕……なのか?
「このガキ死んでもいいのか?」
吉田は少年2人のシャツを掴み、割れたガラス窓から少年を外に出している。
「好きにするといい。私には関係ない者だ。勝手についてきたやつだしな」
「そうか。じゃあな。ガキ」
少年2人はハスキーボイスで喚き出し、まあまあ高い所から落下していく。即死だった。自分より若い死は少し悲しいが、死は平等だ。このままいてもどうせ死ぬ身なら今死んだ方が楽だろう。
「……よし。喰らえよ。なりきりは大嫌いなんだ」
吉田は黒い塊を10個程落とした。爆弾……には見えないが。何なんだろう。
疑問は10秒以内に解決した。
卵だ。
「寿命の短い失敗作だ。こいつに喰われちまいな」
そういうと、卵からはかなり大きな、ツヤのある黒色をしていて、赤い目をした生物が孵化した。
「ほぉぅ……面白いじゃないか。私のペットにしよう」




