保冷袋とポトフ会議
チクチク。
ぬいぬい。
「痛っ。」
ミシンが切実に欲しい。
鍛治のスキルがあれば簡単なのかな…。
私は今、縫い物をしています。
料理には自信があるけど、施設にいた時は施設長が縫い物が得意だったから私の出番はなかったんだよね。
こんなことなら習っとけば良かった。
冒険者服屋の鍛治師のアイシャさんにオススメの生地と糸を教えてもらって、材料を揃えて、縫い物が得意だというシンシアさんに針をお借りして、現在製作しております。
何を作っているかというと、保冷袋。
空間収納があるなら要らなくないかって思うかもしれないけど、なんでもかんでも空間収納に入れる訳にもいかない。
行き先の気候もわからないので、食料や水、薬草やポーションの鮮度を保つためにも、暑さを防ぐことは大事。
リトに旅の途中の食事事情について聞いた時から決めていた。
リトが言うには、基本的に旅の途中の食事事情は、干し肉や固いパンやチーズ、乾き物であるナッツやドライフルーツを保存食として、たまに狩りや野草をしていたそうだ。魚の燻製や塩漬けを保存食とする場合もあるそうだが、この辺りは内陸なので少し高価になるので保存食として携帯はしないそうだ。
もちろん郷に入れば郷に従えもありだと思う。
でも、こちとら赤ん坊連れなので食事については手を抜くことが出来ない。
保存食といっても、気候条件によっては菌が繁殖しかねないし、勇人は赤ん坊なので抵抗力が弱い。
私は医者でもないから、病気は衛生面で防ぐしかない。だから、旅の食事管理は私に任せて貰うことにした。
リトには衛生という概念から説明が必要だったけど、こちらの世界では子供が病気で亡くなるケースは少なくないらしく、合理性はあるとのことで納得してくれた。
じゃあそれをどうするかってなった時に、本当に鮮度が命だったり、嵩張るものは空間収納を使おうと思ってる。空間収納を覚えることが出来て、心から良かった。
それでも、空間収納の利点としては重い荷物を減らせることなので、テントや意外と重たい衣類、調理用の鍋などを入れると、そこまで潤沢になんでも入れることは出来ない。
何があるかわからないから、常に空間収納をいっぱいにするのもよろしくない。
そこで、リトと考えて出した結論が保冷袋だ。本来なら魔法袋の方が効力も高いから適しているんだけど、なんせ高い。
必要とはいえ、私の我儘でもあるので自作することに決めた。
アイシャさんに材料を教えてもらっているときに、魔法袋も鍛治師が作ることを知った。鍛治師の最大の利点は、魔法の固定を物に対して施せること。普通の人は魔法は持続させない限り、物に対して半永久的に効力を持たせることは出来ない。それが出来るのが鍛治師だ。
アイシャさんに頼むと結局高くなってしまうので、ここは素材の力に頼る。
防水性が高いウォーターブルの皮革、冷却効果のあるアイスフィッシュの鱗とアイスワームの糸で出来た布地。それらを縫い合わす事が出来る、アイアンワーム糸。
素材はいいけど、どれも市場に出回っている品らしいので魔法袋を作ることに比べると格段に安く仕上がる。もちろん作り手は私なのでそのぶん人件費も省かれる。
基本はトレーニングなので、身体作りをしながら細々と作成していたのだ。ただ、本来は鍛治師が扱うような素材を使っているので、力もいるし難しい。ただの袋を作るだけでも苦戦してます。
チクチク。
「たいたーい!」
「いくでちゅよ、ゆうと!」
勇人とイナリは身体作りのために今日もたくさん遊んでます。今は2人で取っ組み合いと言う名のじゃれあいをしている。
2人を見てると癒されるなぁ。
チクチク。ブス。
痛いよー。余所見してたらだめだ。
リトが夕食を持ってあがってくるころには、2つの保冷袋が完成。もちろん私とリトが持つ分だ。イナリと勇人には大きいからね。
ちなみに針で傷だらけになった両手は、少しだけポーションを使って回復済み。
「そろそろ旅の準備も本格的に始めないとな。」
シンシアさん特製のハーブ入りポトフとパンを食べながら、リトが話し出す。
確かに武装やテントとか大きいものの準備は出来たけど、旅用の日用品や食料も用意しなきゃいけない。
「明日はトレーニングも兼ねて、薬草採取をしよう。旅前の実践はこれで最後だ。それに旅先では採取できるものも変わるだろうから、この辺りで採取しておけるものはしておこう。」
リトはやっぱりしっかりしてるよね。
「わかった。」
「はいでしゅ。」
「あうー。」
それぞれ返事をする。
「明後日と最終日は必要なものの買い出しだ。食料はゆりに任せるけど、俺も内容は把握しておきたい。みんなで必要なものを揃えていこう。」
「あと、明後日なんだけど、買い物をしたらポーションを作ったり、旅先ですぐに使えるように保存食にしたり、調理して加工する時間もとっていいかな?」
明後日は食堂がお休みなので、準備に時間もほしい。
「もちろんだ。むしろ助かる。こっちも上手いもんが旅先でも食べられるしな。」
リトも喜んでくれるなら頑張る。
「あとは、最終日にまた鑑定をしに行こう。次はいつ鑑定出来るかわからないし、おトキさんみたいに全てのステータスを見てもらえる機会はさらに少ない。全員のステータスを全員が把握しておこう。」
レベルがあがってるかもしれないもんね。
スキルがどうなってるのかも気になる。
他にもいろいろと談笑をして、夕食は終わった。夕食後はシャワーを浴びてから、魔法の練習、身体作りの筋トレをする。
トレーニングをしているうちに、ちびっこ2人はお眠りだ。
リトも帰ってきて、シャワーを浴びて今は2人でソファに座っている。
勇人とイナリといる時間も楽しいけど、リトと2人はドキドキするけど落ち着く。
今日あったことを話しながら、リトの肩にこてんともたれかかる。
途中でリトに抱き上げられて、今は横向きにリトの膝の上だ。恥ずかしいから降ろしてと抗議しても聞いてくれない。
「昨日、今日と講義で一緒の時間が少なかったんだ。ゆり不足だから充電。」
なんか可愛いこと言うね。断りづらいじゃないか。
膨れた顔で見上げると、ちゅっとキスされる。
糖分高いですリトさん。
「誘ってるのか?」
「誘ってませんー!」
見るからに怒ってるよね私。
結局その後もリトには敵わなくて、激しく唇を塞がれて窒息死…じゃなくて疲労で寝落ちしました。
旅先ではゆっくりこんなことも出来ないんだろうなとぼんやりと考えながら、夢の中に落ちていった。




