無属性魔法講習とオネエ
それからの日々は、仕事とトレーニングと時々買い物の繰り返し。
たまに勇人の夜泣きに起こされる以外は至って平和に、それでも中身の濃い充実した日々を過ごすことが出来た。
そして今日は待ちに待った無属性魔法の講習初日。無属性魔法は午後から半日が2日間続くコース編成だ。
冒険者ギルドの講習のコンセプトは、冒険者のスキル底上げと、冒険者がスキルを身につけて、より多くの難しい依頼をこなせる人を育てて利益をあげることだ。ついでに冒険者から講習費用も貰ってるからちゃっかりしてる。
でも、分かりやすいと評判で、冒険者でなくても講習を受けに来る人も多いそうだ。
娘を習い事に連れて行くお父さんよろしく、リトに冒険者ギルドに送って貰った。
別れ際に愛しの勇人が泣き出したけど、勇人の好きなホットケーキを明日の朝作ると言うと、ピタッと泣き止んだ。
勇人君賢いね。ホットケーキ大好きなんだね。
腕によりをかけて作ってあげよう。
3人と別れて、講習の部屋へ案内される。
中に入ると、教壇には色黒スキンヘッドの強面お兄さん。
え、部屋間違えた?
でも黒板を見ると、「夜露死苦」のような感じで、「無属性」と書かれてた。
間違ってはなさそうだ。
教壇の前には机が3つ横並びに置いてある。
そのうち左右2つが埋まっていて、真ん中が空いている状態だ。
左側には、可愛らしい魔法使いのローブを着た女の子。オレンジ色の髪の毛が、肩までのボブで内向きにクルンとなっている。
右側には深緑色の髪に、頭に犬耳のついた男の子。見た目は女の子と対照的で薄汚れて痩せ細っている。それでも目はくりくりとしていて、可愛いチワワみたいで愛嬌がある。
ひとまず真ん中の席に着くと、スキンヘッド先生が私たちを見渡して呟く。
「あら、今日は可愛い子達ばかりで嬉しいわ。アタシの名前はカジル。先生張り切っちゃうからよろしくね♡」
…
驚き過ぎてコメントすら出なかったよ。
魔物を目力だけで倒せそうな風貌なのにオネエ!?
しかも某お笑い芸人のく○ちゃんみたいな高い声じゃなく、もんのすごい低い声。最初空耳かと疑ったよ。
両サイドの2人も固まってる。
「あら、そんなにみんな固くならないで。リラーックスしてちょ〜だい。」
無理あると思います。
「無属性は適性のある子が少ないから、滅多に講習が開かれないのよ。今日は3人も無属性魔法が使える子がいえ嬉しいわ。」
うん。だんだん慣れてきたかも。
なんとかそれぞれが衝撃と折り合いをつけて落ち着いたところで、講習が始まった。
講習が始まって気づいたのは、このオネエさんとっても説明が上手い。分かりやすい。
無属性魔法はその特徴の不確かさから、「なんでもあり魔法」とも呼ばれている。
他の属性魔法と違い、自然や現実に反する魔法も含まれ、未だにその魔法の全容がつかめない発展途上の魔法だ。
「私は数少ない無属性魔法の使い手なのよ。もともとの適性として無属性しか適性がなかったから、極めてみようと思って今の私があるの。」
性別も無属性になっちゃったんだね。
「流石の私も適性の無い子に使えるようになってもらうことは出来ないから、事前に冒険者ギルドで把握している貴方達の適性は確認させてもらったわ。」
そう言って、オネエ先生は間を置く。
「この講習は初級とついた講習だけど、私の考えとしては魔法に初級も上級もないと思ってるの。特にこの無属性魔法にはね。」
どういうことかとオネエ先生を見上げる。
「無属性魔法で大事なことは、本質を見抜く力と明確な想像力。この2つのポイントさえ押さえれば、無限にいろいろな魔法が使えるわ。」
それにと続ける。
「火属性魔法で、初級に位置付けられている火球と最上級の地獄の業火があるでしょ。」
隣の子供たちが頷く。
「魔法としては遥かに最上級魔法の方が優れてるかもしれないけど、使い手や使い方によっては、初級魔法も強大な魔法にすることは出来るわ。正確な魔力コントロールと圧倒的な想像力でね。」
確かにただの火の球だとしても、それが地獄の業火よりもさらに多い数で高温で攻撃力があるでしょ魔法にすることは可能かもしれない。
「だから私は、初級魔法として貴方達が使いたい魔法が使えるようにサポートするわ。」
まずはと区切って説明される。
手元にある紙に使ってみたい魔法のイメージを具体的に書くこと。3人それぞれの使いたい魔法1つ、2日間なので合計6つの魔法を覚えることができる。
イメージを書く際の注意点としては、その魔法がどうやれば実現出来そうなのか、本質を見極めることらしい。
簡単に言ってるけど難しそうだな…。
どうしても難しい場合は、最初は知ってる無属性魔法を参考に考えてみてほしいとのことだ。
うーん、使いたい魔法か。
まずは旅先や戦闘で役に立つ魔法を覚えたい。
元の世界のアニメや本の知識も思い出しながら、候補を並べて、そこから絞り込んでいく。
まずはリトにも聞いた、空間収納。これはかなり便利だし欲しい。
これを魔法で実現するならどんなイメージだろう。
思い浮かぶのは、某国民的なロボットの登場するアニメ。お腹についてる四次元のポケット。
イメージがかなり明確になったかも。
ポケットの中が四次元空間につながっていて、その四次元の空間である倉庫に物や道具を収納できる。
確か広い空間の中から、イメージ検索機能でお目当の道具を探してたはず。
特に空間に制約もないし、イメージがはっきりしないと、中に入れたものも取り出せない。
意外と四次元ポケットってリスキー?
それに入れたものがどうやって納まってるかわからないと、イメージ出来ないよね。
そう考えると、人まで通れちゃって果てしなく空間の広がっている四次元ポケットは難しい。
無限はイメージ出来ないからね。
制限を設けるために、四次元の倉庫がポケットの先に広がってるイメージ。
全部ごちゃまぜは、取り出したりしまうイメージがつかないから、用途で倉庫を区分けする。
大きくは4つ。
1つは食料品ゾーン。その中をスーパーのように冷凍、冷蔵、常温、温かいもの、時間経過あり、なしまで分ける。慣れたら発酵させたり、寝かしたりする料理も作りたいしね。
2つ目は薬草術ゾーン。原料となる薬草は薬草図鑑順に、作ったものはアイウエオ順に入れるイメージ。
3つ目は魔物ゾーン。魔物を倒した時のドロップアイテムや魔物本体を収納できるようにしたい。念のため、食料品ゾーンとは隣接しないようにする。
4つ目は日用品ゾーン。服や道具、テントや毛布など様々な日用品を入れておくゾーン。ここが一番使うことになるだろうな。
この4つに物を入れて、条件を思い浮かべて絞り込むことで、イメージ検索出来るようにする。
あとはほんのすこしのオリジナリティで、白いポケットじゃ味気ないし持ちにくいから、四次元ポシェットのイメージで完成だ。
「そろそろ出来たみたいね。それぞれ全員に魔法を説明してちょうだい。イメージが具体的であるほど、その魔法の詠唱や呪文を導きやすくなるの。みんなで知恵を出し合いましょう。」
まずは女の子の魔法から説明がスタートする。
「私はお菓子が大好きだから、お菓子を触ると2倍に増える魔法を考えました。」
お菓子だけでなく、触れたものを2倍に増やす魔法だから、困った時に役に立つだろうとのこと。
「じゃあまずは私から質問ね。その2倍魔法は生き物も2倍に出来るの?」
「生き物は…出来るのかな?」
「じゃあ仮にクッキーだとして、2倍に増えたクッキーは分裂するイメージ?全く同じものが新たに誕生するの?」
側から見たら、強面のお兄さんがいたいけな女の子を苛めている図だ。オネエ先生容赦ない。
それでも、女の子が質問されるたびにイメージを具体化出来ているので教え方としては正解なのだろう。
次に私の四次元ポシェットを共有した。自分で考えたつもりだったけど、聞かれるとまだまだイメージ化出来てないところがあった。イメージが具体的になったところで、男の子の番だ。
男の子の使いたい魔法は、一言で言うとバリアだ。
「冒険者になりたくて、剣の稽古とか頑張ってるけど、俺は無属性以外に魔法の適性もないし、魔法で攻撃されたら防ぐことが出来ない。」
だからバリアを覚えたいのだという。
私も防御はまだまだ課題があるから、バリアって魔法は覚えられると便利だろうな。
私のイメージもなるべく男の子に伝えるようにした。これで3人とも、覚えたい魔法のイメージがついた。
「じゃあ早速、次は実習に入るわね。」
実践のスタートだ。




