遊ぶ2人と魔法のトレーニング
朝の仕事が終わったので、みんなでトレーニングをしに来た。
場所は街を出たところにある草原。
魔物達は基本的には森を縄張りにしているし、出掛ける冒険者達に狩られるので、街の周囲には魔物は少ない。
ギルドの訓練場もあるけど、他人の目も気になるので街の外でトレーニングをしようということになった。門の近くだと冒険者や衛兵の邪魔になるので、街を囲む石造りの塀に沿って移動する。
「この辺りがいいな。イナリ、特に周りに魔物の気配もないな?」
「ないでちゅ!それにここならきてもわかりやちゅいでしゅ!」
2人の確認が取れたところで、荷物を置く。
「じゃあはなちてたとおり、イナリはゆーととあそぶでちゅ!」
ふわふわ尻尾を千切れそうなくらいぶんぶんと振って、イナリが話す。目がキラキラしてる気がする。リトも苦笑いしてる。
「あぁ。ちゃんと勇人の面倒みててくれよ?あと、魔物や人が近づいてきたら教えてくれ。」
コンッと高らかな返事が響いた。
勇人も冒険者服に身を包んで準備万端だ。
勇人のトレーニングと称して、イナリと勇人には草原で思いっきり遊んでもらうことにした。
勇人にとっては体力アップに繋がるし、何より本人達も楽しいだろうから一石二鳥だ。
イナリにも常に気配を伺いながら、勇人…他人の様子を見て動く練習になるので、ソロじゃなくてパーティの連携を高める訓練にもなっている。
リトと私の思惑は、遊べる時に思いっきり2人を遊ばせてあげたい気持ちも大きいんだけどね。
「こっちでちゅ!」
「あーうー!!」
勇人が大好きなイナリの尻尾を追いかけてハイハイしている。たくましくなるんだよ。
「で、ゆりは魔法だな。」
そう、今日は講習より先に魔法の使い方を、リトに教えてもらいながら、一緒に勉強して使ってみる予定だ。
戦闘で物理面では何の役にも立たないのがわかったので、せめて魔力が豊富な分、初級魔法でいいから少しずつ覚えていくことにした。
リトも今までは実践重視だったので、この機会に本で勉強してみたいとのことだった。
まずは魔法を使うイメージからリトに聞く。
「まずは魔力を感じるところから、俺は始めたな。血と同じく身体全体を魔力も流れてて、その魔力は自分の意思で流したり、集めたり出来る。魔法を使うときは、集めて放出するイメージだ。」
まずは魔力がわからないとだめなのか。
「で、実際に魔法を使うときは、使う魔法の言葉を魔力に混ぜ込んでいく感じで、どんな魔法が起きるかイメージしながら詠唱する。強力な魔法はこの混ぜ込む作業が多いから、威力も大きいが難しいんだ。」
うーん、味噌汁を作るのは簡単だけど、手の込んだカレーを一から作るのは大変なイメージかな?言葉が材料や調味料で、魔力が水のような感じ?
「まずはどの魔法を試すつもりなんだ?」
リトに聞かれて、昨日の夜に見ていたページを開く。
「初級の攻撃魔法にしようかと思ってたんだけど、いろいろ応用が効きそうなのと、イメージしやすいから、生活魔法を幅広く覚えようと思ってるの。」
基本的には生活魔法という属性はない。
ただ、魔法という便利なものを生活に活用して豊かにしようという意味合いで、一般的に生活魔法と呼ばれるジャンルがある。街中でも、この生活魔法と呼ばれる魔法や職業魔法と呼ばれる魔法は使用が許可されている。例えばリトの点火は生活魔法の1つで、病院で使われる高度な治癒魔法も職業魔法の1つだ。
「私は水、光、闇、無の属性があるから、講習を受ける無属性の魔法以外は、初級魔法を試してみようと思って。」
まず、水の初級魔法は、攻撃系だと水球、生活系だと浄化がある。
常に綺麗な水が飲めるとも限らないので、浄化は助かる。用途としては、皿洗いや洗濯等の生活で大変な仕事を魔法で行える、主婦なら覚えたい魔法の1つだ。
光魔法はすごく悩んだうえで、リトに相談。
他属性と違う点で、治癒魔法は光属性の象徴とも言われる。なので、治癒の初級魔法である元気回復や癒が生活魔法の初級になる。
だけど、治癒効果だけならポーション作ればいいし、料理人のスキルで元気を回復する程度なら、料理を通してできる。
光属性だけは、実戦でも使えるものにする方針になった。
覚えるのは光矢。攻撃魔法も覚えるに越したことはないということで。
闇の初級の生活魔法は、消灯、防音だ。消すって無くすだから無属性じゃないの?とか思ったけど、無属性はあくまで属性が無いだけで、基本的に死を連想する無くす系の魔法は闇属性らしい。
魔法の概念って難しい。
闇の魔法としては、防音を覚えることにした。他の街で宿に泊まる時に、この魔法があれば夜泣きで泊まれない事態は防げるだろう。
まず試すのは浄化。
「詠唱は…『清きは正しく、正しきは美しく、美しきは清く。浄化』。」
うん。清く正しく美しくってことね。
これを魔力を集めてイメージしながら実行する。
綺麗にするものは…勇人の涎掛け。朝ごはんをこぼしたてほやほや。浄化の効果が分かりやすい。
まずは魔力を感じ取る。
んーーーーー。
なんかポカポカ回ってるやつが魔力なんだろうか?元の世界では感じたことない感覚だ。
これを…集める!?
どうやって!?
何かが流れてるのはわかるけど、動かし方がわからない。
「リトー。魔力を集めるってどうやるの?魔力が流れてるのはわかるんだけど、集め方がわかんない。」
「魔力感知出来てるだけで上出来だ。その流れてる魔力を、例えば手に集まれーって念じる感じだな。でも集めるだけで、放出はしないように気をつけるんだ。」
難しいこと言うね。
魔力が出て行くイメージはしちゃだめってことかな?
集まれー集まれー。
なんか手がポカポカしてきた。集まってる!
そこに、言葉を混ぜる。
「『清きは正しく』」、綺麗にしたら真っ白になるイメージかな。「『正しきは美しく』」、真っ白な美しさってあるもんね。「『美しきは清く。』」、美しいものには清潔感がある感じかな?
「『浄化』!」
真っ白になれ涎掛け!!!
な、ななな。
「出来たーーーー!!!」
思わず飛び上がる。肉汁とバターで汚れていた涎掛けが、まるで洗濯したてのように綺麗になった。
「リト、出来たよ出来た!綺麗になったよ!」
初めての魔法の成功で興奮が収まらない。
リトは驚きながらもなでなでしてくれた。えへへ。
「まさか一発で成功するとはな。びっくりした。」
えへへん。
「言うことがあるとしたら、もう少し魔力を加減することかな。」
「?…どういうこと?」
「その涎掛け、薄い水色だったのに真っ白になってるぞ。魔力のこめ過ぎだ。浄化くらいなら少しの魔力に言葉を乗せたら効果が出る。」
ほんとだ。色が消えて真っ白になっちゃった。
やり過ぎも良く無いよね。練習あるのみか。
しばらくは浄化魔法をリトのアドバイスの元で実践。幸いにも魔力は豊富だから、初級魔法くらいは何回も試せる。
「次は防音ね。『夜の闇に、ひと時の静寂を。防音』」
よし、覚えた。
防音魔法はリトに試しにかけたり、私たち2人のいる空間にかけてみたりした。うん、魔法って便利。
「最後は光矢ね。」
攻撃魔法なので、ドキドキする。
リトが倒木の一部を持ってきてくれたので、それを的にして練習する。
光の矢だから、閃光とかレーザーみたいなイメージかな。詠唱を見ると…イメージは流れ星。
「『神の子よ。我、星の使い手なり。一筋の閃光にて彼の敵を打て。光矢。』」
ヒュン。
音がして、辺りが静寂に包まれる。
「失敗か?」
リトが呟く。
いや、これはもしかして。
リトと共に倒木に近づくと、指が一本入るくらいの穴が空いていた。
「流れ星をイメージしたから、すごい光の矢って速いんだろうなぁって思ったんだよね。凄い威力。」
「別の冒険者がこの魔法使ってるの見たことあるけど、目に見えるスピードだったし、倒木を抉ることは出来ても、綺麗に貫通する威力はなかったぞ。」
イメージ力の差か。とリトが呟く。
元の世界では、動画や写真や物語でイメージが溢れてる。私からしたら、弓矢より拳銃とかの方がイメージしやすくて、それに近くなったのかも。
「この辺りは実践で覚えてくしかないな。戦闘中だと、魔法はイメージが必要だから難易度があがるんだ。」
リトに注意事項を聴きながら、その日はリトの仕事まで魔法を使った。
部屋に戻ったら筋トレ。勇人とイナリを浄化魔法で綺麗にして、束の間の夕寝タイム。
2人共ずっと遊びまわってたから、帰る頃には2人共が夢の中だったんだよね。
肉体的なトレーニングは辛い。地道に努力するしかないから。
「足手まといにはならないように、頑張らなきゃ。」
この世界で生き抜くために、日々頑張ります。




