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期限付きの恋をした

私を抱きしめる腕はとても優しいのに、告げられた言葉は残酷だ。


『終わりにしよう』


そんな言葉を告げるために私を抱きしめているのなら、酷い。とてもとても酷い。

離れたくて胸を叩くのに、びくともしないのが憎たらしい。

酷い人、酷い人、酷い人!


「そんな、こと」

「言わなきゃ、はじめられないだろう」


ごめんなと言いつつ何度もまぶたに唇が降ってくる。優しいそれに涙はどんどんでてくるだけでちっとも止まってくれないでいる。


「ニナ、好きだ。君が好きなんだ」

「うそつき」

「嘘じゃない。信じられなくてもいい、でも離してやらない」


ぎゅうぎゅうと抱き締めてそんな言葉をささやいて、本当に酷い。

だって、私はまだこの人が好きなんだもの。期待させるような言葉を告げられるのは、苦しい。


「ニナだけを、愛してる」


青い瞳に見つめられて、そんな言葉を告げられて。泣いてしまわない方がおかしい。


「うそつきぃ……」


必死に否定しようとするけど、これ以上傷つきたくないと抵抗するけど、彼は許してくれない。

ただひたすら、信じられない甘い言葉を何度も何度も告げてくる。それでいて、終わりにしようというのだ。

何を信じればいいのかわからない。そう涙ながらに告げれば、ゆっくりと体が離される。

遠ざかる熱に寂しさと恐怖を覚えるなんて、私も存外酷い人間だなんて思って入れば、涙の向こうで彼が跪くのが見えた。


「俺が言った言葉は許されるものじゃない。そんな風に傷つけて泣かせて、それでも受け入れて欲しいなんてワガママを言っている自覚もある」


それでも、と彼が私の手を取る。


「この恋を終わりにしてほしい。それで、また俺と新しく恋をしてくれないか。今度は、ずっと」


言葉を理解するのに時間がかかったのは仕方がないと思う。きょとんとしたあまり涙が止まってしまったけど、それすらもはやどうでもいい。

今、彼は、何を言ったの?


「俺はもうニナ以外いらない。卒業までなんて言えない。この先一生、ニナと恋をしたい」

「一生……」

「死ぬまで、恋し続けたい」


なに、それ。ずっとって、死ぬまでって、なに。

呆然とする私の手に唇を落として、青い瞳が私を捉える。


「ニナと結婚して奥さんにしたい。ニナと家庭を持って、お父さんとお母さんになりたい。ゆくゆくはおじいちゃんとおばあちゃんにもなりたい」

「ま、まって」

「この先の一生をニナと歩きたいんだ。一生、俺と恋をし続けてくれないか」


期限付きだったこの恋だから、先を夢見ることはできなかった。

だからなの? また期限付きの、でも永遠のような約束を口にするのは。


「たくさん悩ませて傷つけた、最低な俺だ。それでも、ニナがいいんだ……ニナは、こんな俺じゃ嫌か。もう、顔も見たくないほど嫌いか?」


震える声、私の答えを待つ瞳は不安そうに揺れていて、それに気づいた瞬間膝から力が抜けてしまう。

慌てて私を抱き留める腕の強さも、私の名を呼ぶ声も、嫌いなはずがない。


「最初は、嘘でよかったのに。いつからか、それが苦しかった」

「うん」

「期限なんて、役なんて、嫌だった……!」

「そうだよな、ごめんな」


頭を撫でる手の優しさを、もうずっと前から知っている。ずっとずっと、恋焦がれてる。


「もう一回、言って」


何をとは言わない。言わなくてもわかってほしい。

小さなワガママに、彼は少しだけ間を開けて。


「俺の、お嫁さんになってください」

「そっちじゃないぃ……」


ぼそっと耳元で囁かれた言葉が嬉しいのに、とてもとても嬉しいのに、嬉しすぎて違うと泣いてしまった私を許して。

慌てた様子で何度もごめんと好きを繰り返すこの人が大好きだと、涙が止まってそう返せるようになるまで。


期限付きの恋が、一生の恋になるまでもう少し。




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