1 とどけ!おばあちゃんの祈り!
俺は山口寿明。
今年で30になる実家暮らしのフリーターだ。
就職活動に失敗し、就職浪人のつもりでバイト暮らしを始めたところ、
うっかりバイト暮らしが性に合ってしまい、ずるずると三十路を迎えつつある。
両親は健在でまだ働いているし、今のところ将来の不安もない。気楽なモンだ。
いつものようにバイトから帰宅した俺は、マッマの作ってくれた夕食をありがたく頂き、風呂にも入って日課のネット巡回を開始した。
「さーて、今日はどんなエロ絵でオネイニーしようかなーっと」
ブックマークから流れるように巡回先サイトを開いた俺はオネイニーマイスター。
お気に入りの絵師さんチェックに余念はない。
「おおっ!てんこもり先生の冬コミ情報キタ!これは…小出しのページだけで十分に…!」
こんな事もあろうかと、俺は左手でマウスを操作するテクニックを極めている。
解き放たれた右手が光って唸る!もう少しで脳から良い感じに快楽物質が大放出される!
だがその時、突然心臓の辺りに激痛が走った。
「ウッッ!!いぎぎぃぃぃぃ!」
興奮しすぎたせいだろうか? 俺はPCチェアに腰掛けたまま、突然の激痛で意識を失った。
「・・あき・・・ とし・・・ としちゃんや・・・」
ぼんやりした意識の中で、俺を呼ぶ声が聞こえる。
誰の声だろうか…。確かに聞き覚えがある、懐かしい声だ。
「としちゃん・・・としちゃんや・・・きこえるか・・・」
確かに俺はこんな風に呼ばれていた覚えがある。この呼び方は確か…。
「おばあちゃん? でもおばあちゃんはもう死んだじゃないか…」
独りごちた俺の声は、まるで風呂場にでも居るかのように、うつろに周りへ響いた。
真っ暗で何も見えない。闇に対する恐怖心が、じわじわと俺の心に染みこんでくる。
「としちゃん・・・あんたは死んでしもうたんやで・・・テクノブレイクいうやつや・・・」
なっ!何いぃぃぃぃぃ!!!いまおばあちゃん、サラッと衝撃的な事を言いましたよ!
「おばあちゃん!?それどういうことなの!?俺死んだって!?」
だが、取り乱す俺を無視するかのように、おばあちゃんは淡々と話し続けた。
「私が生きとった時にな、お釈迦様にずっと『としくんをお守りください』ってお祈りし続けてたからな、お釈迦様が助けてくださったんや。ほんまやったら、としくんの魂は別の魂として生まれ変わるところやったんやで。でもお釈迦様のご慈悲で、今回は特別にとしくんのまま、生まれ変われることになったんや。」
おおっ!体は子ども、心は大人のパターンか!おばあちゃん、お釈迦様、ありがとうございます!これはテンション上がってきたぞ!
いや、でもちょっと待てよ?俺本人は全然祈ったこと無いのに、俺が救われるって都合良すぎじゃね?
「俺は生まれ変われるはおばあちゃんのお祈りのおかげなんでしょ? おばあちゃんも生まれ変われるの?」
一呼吸ほど沈黙があり、再びおばあちゃんの声が聞こえた。
「私は普通に輪廻するんよ。としくん、まだ若いのに急に死んでしもて不憫やからね、おばあちゃんの代わりに生まれ変わりよし。」
「いやいやいや!そんなのダメだよ!おばあちゃんのお祈りなんだから!自分が使ってよ!」
「ええんや。私は最後まで生きて、何の思い残しもないからね。ほな、元気でな」
不意に、自分の体の輪郭が徐々にぼやけていく様な、不思議な感覚に包まれる。
五感がどんどん曖昧になり、おばあちゃんの声が遠くなっていく。
「次は思い残しの無いように、最後まで生き切るんやで・・・」
おばあちゃん…本当にありがとう。肉親の情ってヤツは、何てありがたいんだ…。
感謝のあまり、すすり泣きが止まらなかった。
そうしている間にも、俺はどんどんと曖昧になっていき、やがて暗闇の中に溶けていった。
初投稿です。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
手探りで書いておりますので、ご指摘など頂けるとありがたいですが、ひとまず読んでいただけるだけでも大感謝です。




