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奴隷転生者の花唄  作者: 雨宮 海
大帝国アインスリーフィア
20/85

奴隷歌姫、掃除する。

 バチャン!


「あたっ」


 突然、ふわふわとした感覚が無くなり地面に叩きつかれた。目を擦って周りをよく見てみると、目の前には大きくて立派な蜘蛛の巣が。そこで、昨日案内された部屋だと気づいた。そっか、ベッドがあまりに汚くて使おうとは思えなかったから、水魔法を代わりに使ったんだっけか。

 ボロボロで立て付けのわるい窓を見上げると、まだ日が上がりきっていない。今は季節的に冬にあたるから、そこまで早い時刻ではないけど、現世の感覚で言えば5時半ぐらいだろう。そんで、魔法が解けたのはきっと私が早起きしなくちゃって思ってたからかな? さすがに床に叩きつかれたら起きるだろうし。目覚まし時計兼ベッドとは、ハイテクすぎる魔法だなぁ。しかも、どこも重心をかけずに寝たせいか、身体中が軽い。水魔法ベッド仕様とは呼びにくいから、快眠魔法とでも名付けておこう。

 しかし、やっぱ魔法便利すぎる! でも、ふかふかの布団が恋しくもあるのが本音である。だって、冬の二度寝ほど気持ちいいものはないからね。……と言っても、朝は家族のご飯やらお弁当やらで忙しかったから、二度寝はあんまりしなかったけど。


 それよりも、今は掃除だ、掃除。家族に「菖蒲の通った後はチリひとつない」と称賛されたほど綺麗好きな私にかかれば、ここもきっと綺麗になるはず……! よし、まずは埃の山を集めなきゃね。


「さてと、まずはハタキで蜘蛛の巣を……あ」


 ──と、ここで私は絶望的なことに気づく。私、今ハタキどころか箒やら雑巾やらバケツやら……要するに、掃除用具一式持ってないじゃない。き、昨日サーシャ様に掃除用具ありますかって聞いておくんだった……。今から行こうにも、きっとまだ寝てるだろうし……というか、この部屋からサーシャ様のいるところにたどり着く自信ないです。前世は知らない土地ではGPS必須で、使っても迷うほど方向音痴だったし。

 仕方ない。どうにか自分の魔法でなんかできないかやってみますか。


 そういえば、私まだ水魔法と──あと、看守と戦うときになんとなく使った光魔法らしきモノ以外、試したことなかったな。この際、どんだけ使えるか試してみるのもアリかも。えぇと、イーリス様から教えてもらったのは、 炎・水・雷・風・氷・地、それから光・闇。私に属性がある可能性があるのは、闇以外って言ってたっけ。うーん、とりあえず炎から試してみようか。たしか、属性同士の相性は 雷→水→炎→氷→風→土→雷ってなってたよね。そんなら、炎がでかすぎても水で対処できそうだし。

 よし。善は急げ、炎魔法はできていて損は無さそうだし、適当に呪文を作ってみようか。えーと、何がいいかな……。


「"アルドーレ"」


 音楽用語で"情熱"。炎を表すのには良いと思うんだけど、はたしてどうだろう?


 私が呟いてすぐ、目の前にポッポッと火の玉が現れた。かなり弱々しく燃えていて、幽霊のまわりに浮かんでいる鬼火って感じ。ともかく、これは成功じゃないかな。室内だから勢いがつかないように、かなり魔力を抑えたつもりだから上出来だろう。今度屋外に行ったら、もっと魔力をこめてみたいな。


 よしよし、この調子でどんどん試していこう!



 それから数十分。私が奮闘した結果、やはり闇以外の属性は持ち合わせているようだった。みんな同じぐらいの魔力を放ったはずだけど、水・氷・風・光らへんはわりと強力だったから、その四種類は得意みたい。風魔法が発動しすぎたせいで、床にもう一ヶ所穴が空いてしまったのはやりすぎた気がする。


 とまあ、ここまで自分の属性が分かったのなら良い。早速これを使って日常生活に生かしていこうじゃないか! この世界には前世みたいな電化製品はないわけだし。掃除機とか、洗濯機とか。その分は、自分の能力で補わなくちゃ。……イーリス様からもらったものだけど。



 最初に、私は着ていた白いワンピースを脱いだ。これから掃除するのに白いものを着るのはご法度だ。だからと言って、流石に裸で掃除するわけにもいかないので、光魔法で服っぽいものを作っておこう。


「"ジュール"」


 意味は光とか、昼。なんとなく体に光が巻き付いて、目眩まし程度にはなったかな。よし、掃除開始!


 まずは天井。上から順にやらないとダメだからね。掃除の基本中の基本。とりあえず、天井にぶらさがっていた蜘蛛の巣を風魔法で蹴散らしてみる……が、これが大失敗。


「っぶしゅ、げほげほっ……へくしゅっ!」


 数十年も放っておかれたみたいで、あり得ない量の埃が舞った。前世でよく見てたリフォーム番組で、解体するときにすごい量の埃が出てたけど、あれに匹敵しそう。この状況で風魔法なんか使ったら、埃が舞うのは目に見えてたね……。うう、鼻が痒い。

 どうしよう、生憎大量の埃を浴びてまでできるほど精神図太くはない。──そういえば、母さんが「玄関掃除では濡らした新聞紙をちぎってまく」って言ってたな。それ、水魔法を応用してできないかな? こう、霧吹きみたいな感じで……。


「"フロ"!」


 手を広げて魔力をぶわっと放つ。手から大量の白い煙……多分、霧が出てきた。マジシャンとかゲストとか、テレビでよく使われるあのモヤモヤみたいな感じ。──ていうか、止まらないんだけど! どうしよう、部屋中がモックモクになってしまった。うー、風魔法でなんとかしてみるか。


「"テンペスト"!」


 音楽用語、嵐というまんますぎる呪文を唱える。すると、どこからともなくビュオオオっと風が吹き、視界が一気に開けた。


「お、霧が晴れ……おおぉぉぉお!?」


 霧が晴れたや否や、私の目の前には巨大な黒い塊が。部屋中を見回すと、さっきまであった埃がどこにも見当たらない。ついでに、鼠のらしき糞とか蜘蛛の巣とかも。ってことは、この塊は部屋中のゴミからチリまで全部、まとまったものなのか。成る程。これからは掃き掃除には霧魔法と風魔法必須、ですね。


 黒い塊に炎魔法で火をつけて燃やすと、次は拭き掃除にとりかかった。……と言っても、雑巾はないから水魔法で。

 と、ここで一つ問題発生。ベッドはどうしよう。すっごく汚れてて手付かずだったけど。うむ、これも水魔法でちゃちゃっと洗えないかな。

 昨夜私が自分の体を洗ったように、水魔法を発動させて布団を包んだ。そうだ、この際洗濯機みたいな感じにできないかな。こう、ぐるんぐるんと……。


「わっ、回ってる! すごいすごい!」


 よし、この隙にほかの所も掃除しちゃおうっと……。







「ふぅ……こんなとこかな! いやぁ、綺麗になったもんだ」


 白いワンピースに着替えながら(布団が洗い終わった後に洗って、風魔法で速攻で乾かした)私はニヤニヤと笑った。


 この数時間のうちに、あのオンボロ部屋は息を吹きかえした。天井や四隅にあった蜘蛛の巣は取り払われ(風魔法)、床や壁は綺麗に拭われた(水魔法)。窓もピカピカに磨きあげ(水魔法)、肝心の茶色くなったベッドも洗って天日干ししたからフカフカだ(水・風魔法)。ついでに、ベッドの下から天蓋らしき布が出てきたので、洗って取り付けた(水・風魔法)。よって、かなりお姫様チックな部屋になった。……床の穴はどうしようもなくて直してないけど。

 それにしても、水魔法と風魔法の実用性がありすぎてびっくりした。私がこの2つに耐性があるのって、きっと家事を楽にしたいが為なのかと思うほどだ。


「ふぁー……ふっかふか!」


 ぼーんとベッドにダイブする。前世は布団で、ここにきてからは固い床にボロ布1枚ひいただけだったしなぁ。この、ベッドにダイブする幸せが味わってみたかった。あぁ……気持ちいい。


 コロコロとベッドで転がっていると、ノックの音が響いた。


「アイリス様、失礼いたします……っ!?」

「あ、オズさん。おはようございます!」


 ノックをしたのはオズさんだったようだ。ワゴンを押して入ってきたのだが、入り口で立ち止まってポカンと口を開けている。


「あ、あの……どうしました?」

「いえ、どうされましたか、この部屋は……」


 どうやら一夜で大変貌を遂げた部屋に驚いたみたい。そりゃそうだ、だって掃除用具も何も貰ってなかったんだもの。


「えぇと、朝早く起きすぎちゃって……掃除しちゃいました」

「道具もないのにどうやって……まさか、魔法をお使いに?」

「あ、そうです! 水魔法と風魔法で大体片付きました」


 すると、オズさんはほぅ、と言いながら顎に手をあてた。ん? この世界では珍しいことではないのでは……。


「あの、オズさん。何かおかしいですか?」

「いえ、隅々まで綺麗にされていて感心していただけです。さ、朝食をどうぞ」

「わっ、すみません。ありがとうございます」


 備え付けのアンティークな机に座ると、オズが手際よく料理を並べていく。

 そういえばこの世界にきてからろくなものを食べてなかったけど、味覚とか合うかな、と一瞬頭をよぎった。でも、その心配はなかった。白いパンにイチゴっぽい赤い果物のジャム。それに、ベーコンエッグ。ほっこりと湯気がたっているスープには、人参とグリーンピースらしきモノが入っている。透明な容器に丁寧に盛り付けられたグリーンサラダは、レタスらしき葉と赤いトマトのようなモノ、チーズ、などなど。さらには、花の良い香りの紅茶とカラフルの果物のトライフルまで。すごく美味でした。この料理、誰が作ってるんだろ、すごく前世の料理と似ていて美味しかった。満足、満足!


「お口には合いましたでしょうか?」

「はい! すごく美味しかったです。ご馳走さまでした」


 私が飲み干したティーカップに、オズさんはおかわりの紅茶を淹れた。


「サーシャ様がそろそろお見えになりますので、今日はこの城をご案内致します」

「あ、はい! 分かりました!」

「それまでは、紅茶でも飲んでお待ちください」


 ほうっ、と息をつきながら紅茶を啜った。うん、美味しい。


 今日はどこに連れていってくれるのかな、楽しみです!



水魔法風魔法炎魔法あたりは実用性がありそうで良いですよね。食器洗いとか洗濯なしとか良さげですけど、こんなに一度にたくさんの属性の魔法を使えるの人はなかなかいるはずないです。菖蒲ちゃんが異常でチートなわけで、それでオズさんは驚いたみたいです。

一夜ですごい変貌を遂げた部屋にさぞびっくりしたでしょう。それぐらい汚かったんです、元歌姫の部屋は……。

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