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物の怪の城  作者: シゲン
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第四章 雲行

瑠璃の一件は落ち着き、柘榴たちは日常へ戻っていた。


だが、夕凪楓の来訪、そして柘榴の祖父・蛭間道尊の登場により、再び空気は変わり始める。


道尊が持ち込んだ仕事。

それは、安倍晴敬からの不可解な依頼だった。


あの後、瑠璃の体調は快方に向かった。

式の依代にさせられたのだ。

体力を消耗するのは仕方がない。

今のところ、瑠璃の自宅も何も起きてはいないようだ。

「さて、そろそろ仕事もしなければな、柘榴」

すぐに金に困ることもなかろうが、働かなければ実入りもない。

「仕事ねぇ」

柘榴は相変わらずの調子で生返事をする。

これは元々の性質であるから、私にはどうにも出来はしない。

ーーピンポーン。

不意に呼び鈴が鳴る。

「まさかとは思うが、楓か?」

「ーーそんなわけないだろ」

有り得る可能性は否定できないようだな。

「ごめんくださーい!」

楓だ。

「なんで来るんだ?」

「私が知る由もないだろう」

仕方ない様子で柘榴は玄関へ向かって行く。

「こんにちは!」

「こんにちは、じゃないだろ。いいか、俺は男の一人暮らしだ。言っている意味はわかるか?」

「道真さんがいますよね?」

「あれはカウントしない」

あれとはなんだ。

私も一応ではあるが働くことがあるのだぞ。

「ということで、帰れ」

「今日はドーナツ買って来ました!」

ほお、また甘味か。

いやはや、ケーキといい、美味いものばかりだな。

「いーや、帰れ。これから用事がある」

無いくせに。

確かに年頃の女子が、むさくて野暮な男がいるところに1人で来るのは勧められない。

かといって、私はドーナツなるものは食べてみたい。

私はリビングから声を掛ける。

「いいではないか。わざわざ楓が来てくれたのだ。茶の一杯でも飲みながら話でもしたらいいだろう?」

私の言葉に、明らか不満そうな顔をしているのが浮かぶ。

「道真さんもああ言ってくれてますし」

「なんか違うだろ…」

柘榴が言い終わる前に楓は家に上がり、キッチンに向かう。

ため息をつき、柘榴もキッチンに向かう。

キッチンで楓はテキパキ準備をしていく。

何故、柘榴より手際がいいのかは置いておこう。

彼女を私たちの物差しで測っても無駄なのだから…。

「さあ、食べましょう!」

ドーナツの前で満面の笑みを楓は浮かべている。

一つ、ドーナツが余ってるのは見ないふりをするとしよう。

「今日はなにしにきたんだ?」

柘榴の問いに、

「瑠璃のときにお世話になったので」

と短く答える。

律儀というか、なんというか。

「俺たちは何もしてないぞ。祓ったのは、晴敬とかいうやつだろ」

「あの人は嫌いです。友達に酷い目に遭わせて、蛇さんにも何か意地悪しようとしてました」

「蛇さんって…」

柘榴はため息をつきながら、呟く。

確かに、式にさん付けする術者はいない。

まあ、楓はただの人なのだから不思議…ではないはずである。

「その後、瑠璃の体調はどうだ?」

「はい、体が重いって言ってましたけど、少しずつよくなってるみたいです」

「そうか。ならばよかった。命に関わることなのでな」

「この前はほんとにありがとうございました。怖くて私はなにも出来ませんでした…」

「いや、楓。おぬしはすごいことをやってのけた」

「私、なにかしましたか?」

ふむ、本人はわからないだろうな。

術者二人の争いを、偶然でも止めたのだ。

本来、ただの人ならば、あの場で声を発することさえ困難、いや、できはしない。

「まあ、いいではないか。とにかくドーナツ的なものを頂こう」

手に取り、食べようと口まで運ぶ。

ーーピンポーン。

また呼び鈴が鳴る。

「今日は客が多いな、柘榴」

「また俺か…」

なんだかんだで食べようとしていた柘榴は、仕方なく腰を上げ、玄関へ向かう。

「よお、柘榴。息災か?」

カカッと笑いながら話すのは、そう、柘榴の祖父である、蛭間道尊だ。


「じじい、何しに来た?」

自分の祖父である道尊に横柄な態度で問う。

「とりあえず上がるぞ」

孫の言葉に耳を貸さずに、ズカズカとこちらに向かってくる。

「いよお、道真殿。息災か?いや、亡くなっておるから息災はおかしいか」

豪快に笑いながら私に話しかけてくる。

以前からこの男は屈託がない。

なので人に好かれ、集まってくる。

その孫が柘榴というのだから、世の中不思議なものだ。

「道尊は相変わらずのようだな」

「なあに、老いていく一方よ」

楓は道尊の勢いに押され、口をポカンと開けている。

「このお嬢さんは?」

「楓という。以前裂け目から助け出した女子だ」

「ほお!裂け目から!大したものだ」

余ったドーナツを手に取り、食べ始めながら道尊は言う。

楓が残念そうな顔をしたのは見なかったことにしておこう。

「柘榴はどうにも人との付き合いが下手でな。仲良くしてもらうとありがたい」

「その前に自分の紹介をしたほうがいいのではないか?」

「おお、そうじゃ。わしは蛭間道尊。柘榴の祖父だ」

ニカっと笑いながら自己紹介をする。

「柘榴さんのおじいさんですか?私、夕凪楓といいます。柘榴さんにはお世話になってます!」

「そうかそうか、よろしゅうな」

互いに紹介しあっている横で、戻ってきた柘榴はどかっと椅子に座る。

「で、じじい、なんの用だ?」

「おお、そうじゃ。仕事だ、柘榴」

思い出したかのように、道尊は仕事の内容を話す。

「待て、楓がいる」

仕事と言っても、普通の仕事ではない。

聞かせていい内容かもわからないのだ。

私は一旦止めたほうがいいと判断した。

「なに、大丈夫であろうよ。見たところ、この子は特別だ」

特別?確かに不思議な女子ではあるが…。

「柘榴、お前はこの前、安倍の小倅と会っただろう?その関係だ」

晴敬の絡みか。

ろくな話になりそうもない。

「あやつ自身が、依頼を出してきおった。ある屋敷に憑いている悪霊を祓ってほしいらしい」

「あいつがやればいいだろ」

いつの間にかドーナツを頬張って、柘榴は言う。

「まあ、何やら事情があるみたいでな。わしではなくお前を指名してきたのだ」

「面倒だな」

「柘榴さん、働かないとダメ人間になりますよ?」

楓に一瞬にして諭される。

ぐうの音も出ないだろうな。

至極当然の理屈を言われているのだ。

「お嬢さんの言う通りじゃな。行ってこい」

道尊は楽しむように言葉を向ける。

「まあ、いいではないか。晴敬の意図も行ってみなければわかるまい」

私の指摘に柘榴は舌打ちをする。

「行けばわかるんだな?」

「知らん。祓えと依頼されただけじゃ」

詳細は道尊も知らぬらしい。

ならば行くしかない。

「わしはこのお嬢さんと留守をしている。若い女子とたまには話したいのでな」

カカッと笑い、手を振る。

「行くぞ、柘榴」

「楓、じじいに変なことされそうになったらそこら辺の物で叩いてやれ」

「ふふ、大丈夫ですよ。柘榴さんのおじいさんですもん」

「早よ、行け」

一抹の不安を抱えながら、私と柘榴は家を出て、屋敷へ向かっていった。


私たちが着いたのは、古い大きな屋敷だった。

柘榴が屋敷の玄関に向かい、呼び鈴を鳴らす。

しばらくして、出てきたのは小綺麗な着物を着た、女性だった。

「依頼を受けて来たんですが」

硬い声で柘榴は言う。

普段はぶっきらぼうだが、依頼主には無難な話し方をするのだ。

「安倍様から紹介された方ですね?」

「はい」

「では、こちらへどうぞ。旦那様がお待ちです」

そう言って女性は柘榴を案内し始める。

なるほど、古いが造りはしっかりしている。

しばらく歩くとある部屋の前で止まった。

「こちらで旦那様がお待ちしております。旦那様、安倍様のお知り合いがご到着しました」

襖の向こうに声をかける。

「入れ」

旦那様と呼ばれている男が、鷹揚とした声で応じた。

襖が開くと大きなテーブルの最奥に体の大きい、面構えがしっかりとした人間が座っている。

「よく来てくれた。名前はなんという?」

「蛭間柘榴です」

「とにかく座ってくれ」

促され、柘榴は手前の椅子に座る。

男からは威圧するような気が感じられるが、柘榴は気にならないようだ。

「面白いやつだ。私の前で平然としているとはな」

笑いながら男は話しかけてくる。

「私は、磯部康隆。この家の主人だ」

一通りの挨拶が終わった頃、先ほどの女性が茶を運んで、康隆と柘榴の前に置いて、部屋から出ていく。

ふむ、なかなかの所作だ。

私にはーー姿を見せていないのだったな。

「さて、晴敬から話は聞いている。どうも態度が悪いとか。今のところそうは見えないが。ふむ、本性を見せたらどうだ?」

柘榴は一瞬迷ったが、面倒臭かったのだろう、いつものように話し始めた。

「なら、遠慮なく。依頼っていうのは?悪霊っていう割には何も感じないが?」

「それが本当のお前か。まあ、晴敬から何も聞いてはいなかったがな」

一本取られたらしい。

そもそも康隆は見抜いていたのだろう。

「食えないおっさんだな」

「まあ、そう言うな」

笑いながら康隆はそう言って茶に手を伸ばす。

一口飲み終え、口を開く。

「今はな。夜になると現れる」

「夜?随分と丁寧な悪霊だな」

悪霊に丁寧もなにもないと思うが。

しかし夜のみに現れる悪霊か。

基本、悪霊と呼ばれるものは、昼夜関係なく、四六時中、憑いてるものに害を為す。

「とにかく祓ってくれると助かる」

「報酬は?」

「結果次第だ。祓えるならば出す。祓えないのであれば、払うわけにはいかない」

「妥当だな。で?今日やればいいのか?」

「いや、今日は出ないはずだ」

「なんでだ?あんたに憑いてるんだろ?」

「憑いているのは私ではなく、妻だ」

妻?では先ほどの女性か?

「さっきの人か?」

「いや、あれは使用人だ。妻は今、別の場所にいる」

「別?」

何故、別の場所にいるのだろうか。

祓いが必要であれば、ここにいなければならない。

何か理由があるのか。

康隆が妻の居場所を告げる。

「安倍晴敬、奴の別宅だ」

なるほど、雲行は怪しくなる一方だ。

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