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無涙葬送  作者: 如月 巽
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現実は創作より奇なり

「………重い…」

 頭にのしかかる何かに触ると、馴染み深いプニプニ感触がモゾモゾ動いて頭の上から勝手にどいていく。

 携帯を見れば表示は【02:34】。カウントアップだ眠すぎる。


 退いた足はそのまま額にクリティカルヒット。無邪気な御御足による強烈な踵落としで目が覚めたので、白湯を飲みに下階へ降りると、和室の引き戸が開いていて、お手洗いの電気が付いている。


(ちょっと前までは、この光景にドキッとしてたなぁ)


 消し忘れられてたスイッチを切り、常夜灯が灯る和室をなんとなく覗く。

 生前の祖父が起き出してお手洗いに行く事が多かった時間帯。

 晩年は何故かハンマーを使って何かを打つ音が響く時もあった。


(「体調悪いから看病しろ」って叩き起こされて、夜勤の友達に対応聞いたのも、今ぐらいの時間だったな)

 悠遊さんが看てくれてる間に、病院に確認したあとに釣りに出掛けた両親に帰って来てもらって……思い出したら腹立ってきたな。

考えない方が良いかもしれない。


(……まぁでも、これも思い出みたいなモンなのかな)

 白湯を作って飲みながら、ぼんやりそんな事を考える。


 不意の瞬間に祖父との間にあった事を思い出しては、腹は立ちつつも嫌悪感まではなく。

 自分の中では「大した事じゃない」と処理していたつもりでいても憶えている事は多くて、少し複雑な気持ちになる。

口では「知らぬ存ぜぬ」と言いながら、実は心の底から嫌っていた訳ではなかったのかも知れない。

だからと言って過去を思い出した後に「もっとこうしてやれば良かった」という後悔には至らないので、自分の中でやれる事はやりきれていたのだろう。


なんとも言えないこの感情はどう説明すれば良いのやら。

多分きっと自分の中で答えが出ても、理解してもらえるだけの文章が書けるところには到れないだろうけど。


(謎の哲学するなら寝直そう、本当に寝られなくなりそうだし。目閉じるだけでも違うだろ)


 グラスを洗って部屋に戻ると、如月の枕を抱いて丸まり眠るチビらぎと、うつ伏せに眠る旦那。

(去年は二人して寝付けなくなって色々話聞いてもらってたなぁ)

 布団に転がる内に眠気が来て、次に目覚めたら普段起きる時間になってた。



──────────


2026年5月23日 ─ 一周忌


 祖父が逝去して一年。

 一周忌は最初の法要になることから大切なものと考えられているので、基本的に遺族・親族が集まって行うもの。

 しかしこの日は、父の妹家族2組は其々どうしても外せない用が有ってやむなく欠席。

 遺族だけの法要となり、住職さんからは「普段着で大丈夫ですよ」とお声掛けいただいていたので、ありがたく普段着で行かせていただいた。


 菩提寺に着くと、寺の主より先に沢山の猫達が尻尾立ててワラワラお出迎え。

 前年来た時より増えてる気がするなーと思ったら、ホントに増えてた。ご家族と御弟子さん達がちゃんと面倒見てる子達なので、みんな懐っこい。


 位牌と遺影をお渡ししてお寺のなかで猫と触れ合いタイム、からの法要。悠遊さんは諸事情で大きめな怪我を負っていたため、飽き飽きチビらぎさんの遊び役は如月。

 読経が響くお堂の中で猫を追うチビらぎを追う私。持っててよかったスニーキング(消音歩行)スキル。

 時にお堂を出て軒先で日向ぼっこをする猫に遊んでもらったり、追いかけっこしたり。


「まま、ドアどこー?」

「いやアナタさっきから開け閉めしてるでしょーに」

「あーそっかー!これだー!」

「はいそうです、それですー」


 チビらぎの開けるタイミングに合わせて手を添えておくと、そーっと開けて様子を窺ってまた閉める。そしてまた御堂の軒先探検隊に戻る。


(私と爺、らぎさんとお父さんの関係ほどは、笑ってなかった気がするなぁ…)

 チビらぎに猫の撫で方を教えながら、自分と祖父がどうだったかをふと考える。

 家庭内疎遠が起きる前、祖父本人は食事の時に一緒の食卓へ座って食事をしたら、さっさと部屋に戻ってしまっていた。

 昔気質といえば聞こえはいいかも知れないが、同居する息子との交流を拒んでいた。

もしそれが、いわゆる《相手して欲しい》の裏返しだったら?


(……私に「飯作れ」とか言ってたのも、寂しくて言ってたんだろうか)


 そう考え出すと、生前の色々な行動もそう捉えられなくはないが。

この仮定が正解だったとしても、罪状5段重ねからの暴力未遂だからなぁ……申し訳なかったなぁ、という気持ちにはならない、なれない。


「まま、なかはいるー?」

「んー、母ちゃんそろそろ入りたいかな。ひいじいにナーム(※焼香)しなきゃ」


 答えながら引き戸を開けると、焼香のジャストタイミング。しかも母が焼香を終えた瞬間だった。

「らぎちゃん、母ちゃんと一緒にナームしちゃうか」

「なーむー」

「あぁあ、待って待って」

 抹香(まっこう)を摘み、焼香炭(しょうこうたん)に散らして手を合わせれば、(ジィジ)に抱っこされたまま真似して手を合わせる娘。


(そういや、爺が私を抱っこしてる写真ってあんま見たことないな。大きい爺ちゃん(曾祖父)に抱っこしてもらってるのはいっぱいあるけど)


 母方の祖父にあやされてる写真は数枚あるけど、祖父にあやしてもらっている写真は見た覚えがない。

 アルバムに残る祖父と一緒に写っている写真は20枚あるかないか程度。なんなら小学生以降に撮った写真くらいしかない。

 一緒に出掛けた記憶はあるけど、楽しかったか訊かれると……あんまよくない事が起きたので、楽しさ消し飛んだんだったな。あれぇ…。


「かーちゃん、おそとー!」

「早いな!はいはい、行きましょ」

「ん!」


 父の腕から降りたチビらぎが足にギュッとしがみつく。焼香を悠遊さんと交代して、小さな手が如月の指を握りひいて、戸を開けて猫を追う。

 バタバタな焼香となった事は申し訳ない気がして、遺影に向けて会釈して、チビらぎを追って扉を閉める。


一年経っても、涙は出なかった。

でも少しだけ、祖父を想うことは出来た。


── ── ── ── ──


まぁ何というか……現実って、本当に予測できないことばかりが起きる。

 介護問題や縁者・近親者問題に巻き込まれるとは思ってませんでした。介護問題については自分から踏み込んだけど、縁者問題が絡みついてくるのは完全に予想外だった。


 自分が経験した事を俯瞰視して書いてきましたが、文章の世界なので、受け取り方は色々あると思います。

 私見がひどいと言われたら…まぁそれまでだけども。


 これでも実際の体験から4割くらいなんですよ、ネットに書いて大丈夫そうな部分だけでコレです。

 実際にはかなり揉めていたし、コンプラって何ですかばりの話も多々あったけど、このご時世そんなんはネット媒体に書けないので、機会があれば紙同人誌にでもまとめます。


なお、介護関係・葬儀関係についてはあくまでも如月達が行ってきた事をまとめたものです。

参考程度で考えていただけたら幸いです。


 ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。



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