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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~転承~

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3章 27話 3節

ベイノの言葉に、タクは神妙な顔つきになる。

「綺麗ごとじゃないか!」という気持ちと

「それは大事な事なんだろう」という相反する気持ちが

タクの心を揺さぶっていた。

しかし、時間はタクに考える刻を与えない。


「1体、暴れているぞ!!」


焔騎士団の一人が叫ぶと、タクとベイノは声のする方向を見た。

そこには、業火の炎に包まれながらも、

地面を横に転がりながら激しく悶えるバイオソルジャーがいた。

回転しながら、火の海に埋まったエリアを抜け出す。

タクは思わず叫んだ。


「転がって地面で火を消そうとしている!?

なんて生命力だ!」


タクの言葉通り、明らかな意思をもって

一体のバイオソルジャーが生命への執念を見せる。

クールン人のカズという少女が展開した

魔法で足場が不安定な場所からも転がりながら脱出し、

固い地面と身体をこすり付ける事で

燃え上がる火も消そうとしていた。

普通であれば絶命しているほどの火傷を負っているだろうにも関わらず、

抜け出したバイオソルジャーは高速回転で

地面を転がり続ける。

焔騎士団の隊員たちが銃を発砲するが

命中はしているのだが、その回転は止まる事がなかった。

10回転ほどして化け物は回転を止め、

四つん這いの状態で周囲を睨みつける。

その時には、身体を覆う炎は消され、黒ずんだ身体が

不気味に威圧感を更に増していたように思える。

身体はボロボロであったが、瞳には生気が見える。

「ぐおおおおおおお!」

と喉鳴りに近い低い声で周りを威嚇する様は

物語の中の、魔物や異形のモンスターを連想させた。


「化け物めっ!」


焔騎士団の一人がすかさず銃を構え引き金を引くが、

バイオソルジャーはその動作とほぼ同じタイミングで

地面を蹴り横に飛ぶ。

放たれた銃弾は空を切ったかと思うと、避けたバイオソルジャーは

その動きを止めず、連続して地面を跳ね回る。

あまりにも素早い動きに、銃口を合わせる事も難しくなった。


「こいつ!ちょこまかと!

注意しろ!

こちらの隙を見て飛び掛かってくるぞ!

集中力を途切らせるな!」


隊員の怒声が飛ぶと、焔騎士団の面々は

互いに背中を守るように一点に集まり迎撃態勢を整えた。

誰かが指示を出した訳ではなく、

自然に陣形を整える焔騎士団の隊員たちは

よく訓練された一級の戦士たちである。

だが、この動きは、洗練されていないイレギュラーを

浮き彫りにした。

陣形に加わっていない一つの集団。

バイオソルジャーは、本能でその綻びを見つけると

一気に方向を変え、迎撃態勢が整っていない

場所に目掛け、地面を蹴る。

その先には、タクやハルカなどのクールン人がいた。


「しまった!」


焔騎士団の一人がバイオソルジャーの狙いに気付くが既に遅い。

地面を高速で蹴った化け物は、

一直線にタクらの場所へと飛び掛かっていく。

タクとベイノが銃を構え、すかさず引き金を引くが、

その突進を止める事はできなかった。

パンパン!

銃弾は命中はしている。

しかし、バイオソルジャーの揺れ動く突進を止めるほどの

致命傷を与える事が出来なかったのである。

いくら素早いとは言え、物理法則上の突進であったので

攻撃を避ける事は、タクでも可能だった。

だがこの時は、ハンドガンの引き金を引き続けた。

何故なら、タクの後ろにはハルカやヒナらのクールン人が

数人居たからである。

この場を動く事を躊躇った。

いくら魔法を使うクールン人と言えど、訓練している兵士ではない。

ハルカのバイオソルジャーへの怖がり方でもそれは伝わってきた。

銃口を突きつけられて動じなかった彼女が、

明らかに今は怯えている。

確かに、ティープの銃口からは殺意が感じられなかったのかも知れない。

それでも忘れてならないのは、ハルカは11歳の少女なのである。

身の毛もよだつような人間離れしたバイオソルジャーに対し

恐怖するのは当然と言えば当然だっただろう。

一歩も引く素振りのないタクに、ベイノは焦りを見せた。


「タク二等兵。下がれ!

あれは、君では止められない!!」


「下がったらハルカたちが!!!」


「私が止める!

君は下がるんだっ!!」


しかしその言葉の直後、バイオソルジャーは一気に地面を蹴り上げた。

丸太よりも太いその脚で、地面を蹴り上げた。

瞬間、バイオソルジャーの突進のスピードが何倍にも膨れ上がる。

距離を測っていたタクたちであったが、目の前に一気に詰め寄られた。


「うわぁぁぁぁ!!」


それは一瞬の出来事である。

タクは咄嗟に叫んだ!

声を出せば、少しは相手が怯えるかもしれない。とまで考えたわけではなかったが、

咄嗟に叫ぶと、ハンドガンの引き金を何度も無造作に引く。

もちろん、次弾が装填されていない状態で引き金を引いても

次の弾は出ない。

目の前のバイオソルジャーがニヤリと笑った気がする。

状況がまるでスローモーションのように動き、

タクの脳裏に気味の悪い笑いをした化け物の顔が

鮮明に見えた。

「こいつ!笑った!俺を見て、笑った!?」

と脳が反応する。

そんな時間はなかったはずなのに、タクにはまるで

動画のコマ送りかのような遅さに感じられた。

バイオソルジャーの右手が、殴りかかろうと肩の位置まで上がる。

「逃げなきゃ!」

とは脳が反応していたが、身体は動こうとはしなかった。

「ヤバイヤバイヤバイ!」

デインジャーシグナルが脳という脳を刺激する。

右脳も左脳も小脳も全てが危険を告げるが、

身体はその場を一歩も動こうとはしなかった。

バイオソルジャーの右手が、肩口から最短距離で

タクに迫って来ようと軌道を変える。

タクの顔よりも大きい拳が、目の前に迫って来る。

拳はしっかりと見えるが、身体は相変わらず動かない。

脳がゾォォォと寒気を感じさせると、

ゆったりとした時間は終わり、


ブンッ!!!


と急に元の時間の進みに戻ったかと思うと、

タクの身体に衝撃が走った。


ゴボォ!


何かが拉げる音がする。

が、身体の感触は前身ではなく、右の肩にあった。

そして、バイオソルジャーの攻撃の中でも

目を閉じる事なく、その化け物じみた拳の接近を

凝視していたタクは何が起きたのかを把握した。

右の肩にぶつかってきた物体。

人だった。

隣に居たベイノ少将がタクに体当たりし、

そのまだ鍛えきれていない肉体を吹き飛ばした後、

ベイノの身体がぐにゃっとあらぬ方向に身体を屈折させる。

バイオソルジャーの拳が、ベイノの脇腹に突き刺さり、

その力で折れ曲がったかと思うと、

一瞬にして視界の外に弾け飛んだ。


「閣下ー!」


タクは思わず叫んでいた。

自分を突き飛ばした男の身を案じたからである。

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