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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~邂逅~

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12/149

1章 2話 6節

マリーとモルレフの不安な感情は他所に、

タクはFGポロンの出力を最大に、敵に向かっていた。

静止したことで一度は鳴り止んだ警告音が

動きはじめた事で、息を吹き返す。

更なるスピード感でコックピットを満たしていく。

ブーブーブーブーブーブーブーブー!

それは限界の近付きを表していた。

しかしタクは気留める素振りもない。


「お前が何者かは知らない!

でも、お前だけは倒す!

刺し違えても!だ!」


左右に機体を振るたび、激しい慣性がタクを襲う。

訓練では経験しない限界の動きだった。

重力は、人に落下という危険を伴わせるが、

時に、それは身体の限界を超えまいとするブレーキにもなる。

宇宙は人に自由を与えるが、優しくはなかった。

簡単に身体の限界まで人を誘う。

FGパイロットとしての適正が問われる瞬間だった。

タクは、その限界を超える。

冷静な目で見ていたモルレフも、流石に驚きの表情になった。


「タクめ!

FGパイロットとしての素質を開花させやがった。

だが、ポロンではFGが保たない。

くそっ!」


チッ!と舌打ちする。

モルレフとマリーはタクの援護をしようと

出来だけ前進しようとするが、周回する機雷に阻まれ、

更には、タクの前進スピードについていく事も出来ず、

距離は離れるばかりである。

絶望を感じる2人だったが、同じく脳に声を届けていた

ガイアントレイブの少女も絶望を感じていた。


「来ないでよ!

なんで来るのよ!

死にたいの!?

来ないでよー!」


タクのスピードに、彼女は圧倒されつつあった。

彼女は正規のFGパイロットではない。

ただ、推進力のないG-2機雷を動かす司令塔として

戦場に姿を現しただけだった。

搭乗している乗り物が、FGだったというだけである。

基本的な移動は出来たが、高度な操縦は出来ない。

更に問題もあった。

タクは自身の予想の的中を悟る!


「やっぱりだ!

大量のG-2機雷を自在に動かしてしまうお前の能力。

それだけでも脅威なのに、他にも武装を付けたり、

高性能のFGに乗せたりしたんでは、

パイロットが裏切った時に、対応が出来ない!

ガイアントレイブはそれを恐れた。

つまり、お前が乗っているFGには、他に武装もなければ、

最低限の能力しか出せないように改修されている。

出来損ないのFGにお前は乗っている!

近付いてしまえば、お前は何も出来ない!!!」


タクの読みだった。

1機だけになったガイアントレイブのFGが逃げなかったのは、

自由に動くG-2機雷という武器があるからではない。

逆転できる武器を持っているからでもない。

単純に、単独で逃げる事さえも出来なかったのだ。

そう読み切った。

だからこそ、タクはポロンのアクセルを踏んだのだ。

自在に動くG-2機雷相手に、距離を取り

遠巻きに見ているのではやられるだけだと感じたのである。

勝機は近接にあった。

そしてその予想は当たっていた。

猛スピードで突進してくるポロンに、ガイアントレイブの少女は気圧される。


「来るなーーー!!!」


その叫びこそが彼女の悲鳴そのものだった。

G-2機雷の動きも洗練さを失い、ただ直線に前進しているだけの

単調な動きを見せる機雷の数も増える。

彼女の精神状態を表すかのようだった。

タクは弾切れを起こしたマシンガンを放り投げ、

腰から鋼鉄で作られた剣を抜く。

剣といっても、切るためのものではなく

ぶっ叩くためのソードである。

鋭利なのは、その装甲を切り裂くためではなく、

間接の継ぎ目など、装甲の脆い部分に食い込ませるためである。

タクはそのFG専用の剣、ロンアイソードを抜いた。

飛び道具がなくとも、動けないFGであるならば、

十分に勝算はあった。


「自分のやらかした事を、思い知れ!!」


ポロンは剣を頭上に掲げた。

重力はない宇宙空間であるが、勢いさえつければ

十分な衝撃になる。

当たり所が悪ければ、FGの大破も見込めた。


「うぉぉぉぉぉぉ!!!」


ブンッ!


その瞬間、ブンという音と共に、タクの視界が真っ暗になる。

いや、視界が暗くなったのではない。

世界に明かりが消えたのだ。

FGポロンは全エネルギーを使い尽くし、動力を失った。

コックピット内の明かりも全てが消える。

もちろん、操作も効かない。

全てが操作不能に陥る。


「エネルギー切れ!?ちくしょう!

あと少しでっ!!」


バンツ!とタクは光の消えたモニターを叩いた。

ポロンのメインカメラも電源を喪失し、今は何も見えない。

だが慣性のまま、ポロンは敵のFGに向け

真っ直ぐに突っ込んでいることだろう。


ガシャーーン!


衝撃と轟音がタクを襲った。

ポロンが何かにぶつかった音である。

ガイアントレイブのFGが動いていないとすれば、

ぶつかった相手は、敵FGだろう。

進路上に存在したのは、FGしかない。

タクは慌てて、コックピットの棚からブラスターを取り出した。

肉弾戦になる危険性を考慮してだったが、

コックピットのハッチを開ける事はできない。

手動で開けれない事はないが、緊急避難用であり、

一度開けたら、閉める事は出来なくなる。

何も考えず開けるのは躊躇された。

構えるタクの脳に少女の声が響く。


「あははははははー。びびらせてくれちゃってさー。

そこでガス欠とかかっこ悪ーい。

あはははははー。」


少女の笑い声がコックピットに流れ込んでくる。

それはどういうことか?

ポロンの動力は停止している。

つまり、通信機なども死んでいる状態なのだ。

なのに、届く声。

脳に直接響いてくると思われた少女の声は、

本当に脳に直接響いてきていたのだった。


「化物めっ!」


思わずタクは口走ったのだった。


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