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三巻書き下ろしSS、原本

こちらはコミック「悪魔×花嫁~選ばれた娘はどっち?~」に掲載さています、書き下ろしSSの原型作品となります。

そのため重複する箇所もありますこと、ご了承下さい。






三巻発売記念・SS②~終わらない苦しみ~


 目を覚ますと辺りが見えない闇の中にいた。


「……ここは?」


 身を起こし見回してもなにも見えない。それでも明かりを求め、首を回し続けていると、柔らかい光が灯った。


「ママは薬を買いに行ってくるから、パパとお留守番をしていてね」


 その明かりの中に、あの日の私が写る。


「すまない、こんな大変な時に体の調子を崩して……。ただでさえ、薬が手に入りにくく……」

「だったら早く体を治してちょうだい。行ってくるわ」


 そして一人で雪道を歩き、家から離れ……。

 雪崩が起き、夫と娘は巻きこまれ、亡くなった――――――。


 悲鳴をあげる。忘れたくても忘れられない、あの日。あの時、娘も一緒に連れて出かけていれば、娘だけでも助けられた。でも食糧難で寒くて、外に出し、風邪をひかせたくなくて。それがまさか、あんな……。

 ふっと明かりは消え、別の場所に明かりが灯る。その中に、夫と娘が俯いて立っていた。


「……あ、あ、ああ……っ」


 涙を流しながら、そちらへ向かう。

 会いたかった二人が、そこに……。


「二人とも、こんな所に……。会いたかった……」


 どれだけこれを望んだことか……。ここがどこでも良い。二人に会えた、ただそれだけが嬉しかった。

 光の中にいる二人に手を伸ばすが、目に見えない壁に阻まれ、私はそこへ行けない。


「な、なによ、これは! 二人とも、聞こえる? 私が見える? ああ、もうっ、なぜ向こうへ行けないの?」


 見えないなにかを壊したくて、拳を叩きつけていると、ようやく娘が顔を上げたが、なぜか頬に涙が伝っていた。夫もだ。


「……なんで、ママ……。なんで、見殺しにしたの……?」


 ぐにゃり。二人の姿が歪むと混ぜあい、会いたくもないリゼ・レックスの姿となる。

 彼女はただ、静かに私を見つめている。恨みもなにもなく、むしろどこか悲しそうに。


「そんな目で私を見ないで! あ、あんたが邪魔をしているの? 死んでも邪魔をするの? 本当、嫌な奴ね! そこを退いて、早く二人に会わせなさい!」

「……駄目なの、ママ……。ママがこの人を、見殺しにしたから……。ママは、人を殺したから、だから……。こっちには来れないの」


 娘の泣き声が聞こえ、光が消える。

 同時に、今度はくすくす笑い声が聞こえてきた。


「ああ、大公様の花嫁を害そうとした愚か者よ」

「普通に生きていれば、愛する娘と夫の待つ世界へ行けたのに。復讐に囚われ、生き方を誤ったこちら側の人間」

「誰の獲物だ?」

「それはもちろん、モリオン大公!」


 歌うような声が、誰かの名を呼ぶ。


「……だ、出して! 私をここから出して! 夫と娘に会わせて! 二人がここにいるのなら、ここはあの世なのでしょう? なぜ会えないの?」

「今しがた娘が教えたであろう。お前はリゼ・レックスを見殺しにした。つまり人殺しだ。人を殺めた者が、天の国へ行けるとでも?」


 教会に現れた男が姿を見せる。

 また雷を落とすかもしれない。二人に会えるまでは、捕まってたまるかと逃げ出す。でもどこへ? この暗闇は、どこまで続いているの? 私は今、どこを走っているの? ここはどこ?


「モリオン大公の大切な花嫁。彼女を害せば、大公、許さない。あらゆる力を使って、苦しめる」

「天の国へ行けない哀れな女。悪魔の世界も大公を怒らせた貴様を、受け入れない」

「どこの世界にも行けない。どこの世界も受け入れない。長くこの暗闇で一人きり、罰を受けるだけ。娘を泣かして、酷い女ね」

「天の国で家族は待っていたのに、お前は道を誤った。我々の力を頼るのは構わない。だが、我が花嫁に暴力を振るおうとし、なにより心を傷つけたお前を、許しはしない」


 どれだけ走っても、様々な声は耳元で聞こえる。


「ママ……。ママ、なんで……? あたし、ママの笑顔が好きだったのに……」


 娘が泣く声が聞こえる。雪崩に巻きこまれ、私を呼ぶ声が聞こえる。

 気が狂いそう。

 私だって幸せになりたかった。幸せを奪われた。奪われた幸せを取り戻そうとして、なにが悪かったの?

 悪魔の書なんて存在するから、その力を頼ろうとして、なにが悪いの? 一気に全てを失った私、孫娘を一人だけ奪われるあの女。どちらがかわいそうなのよ。

 私は悪くない。そう叫び、時間を忘れ、一人この空間をさまよう。






お読み下さりありがとうございます。


こちらを書き、なんか違うとその後、二回書き直し、それでもなんか違うとなり、悩み締切ぎりぎりで、これだ!!

と、自分の中で満足したのがコミック収録の作品となります。

タイトルも変えましたが、読まれた方の中には、なにが違う?

そんな内容になっているかもしれませんが、私の中では大きな違いのある原型と完成形となっています。


よろしければ読み比べ、お楽しみ下さい。

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