僕は女幹部
思いつくままに書いてます。
更新しない可能性大です。
「さあ皆さん! 作戦開始です! ……ですわよっ!」
「「「キーッ」」」
僕の合図に部下の戦闘員達が返事をして駆けて行った。作戦行動中は発言は奇声のみ。日々のモラール訓練の賜物だね。
それにしても高飛車女王様っぽい口調ってのが難しいんだよなあ。……中身は兎も角、顔を隠してるとは言え外見は10代でも通る程なんだし、似合わないだろうに……。
「……ですわよ? うーん、やってお仕舞? なんか違うなぁ」
「キー」
いつの間にやら背後に立っていた戦闘員が携帯電話を差し出している。くっ……セリフの練習を見られるなんて不覚。彼の顔は下っ端スーツと一体になった覆面で見えないけど、なんかニヤニヤされてる気がする。
携帯を引っ手繰ると、陽動班の怪人、デステンタクルからだ。
それにしてもなんてネーミングだろうねこれ。タコの怪人だからって……。
いっそ『テンタクルです』みたいな名前にしたら名乗りの時に笑いもとれるのに。
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『シューフッフッフッ!(※高笑い)俺の名はテンタクルですっ! 日頃の激務とパワハラに凝り固まったOLの筋肉をぉ! 俺の触手で揉みほぐしてやるずぇーい!』
『キャー!! テンタクルですよぉ! きっと私の肩とか腰とかをあの艶かしい触手で揉みしだくつもりなのよぉ!』
『私は最近眼精疲労が酷いの! あの蛸の癖にしっとり生暖かい触手で目隠しさたら、きっと抵抗なんてできないんだわ!』
『私はお饅頭が怖いわ!』
『そこまでだ!』
『ぬぅ! 何奴!』
『これ以上お前の思い通りにはさせないぞ! 正義の味方、スクイーダー参上! 覚悟しろテンタクルです!』
『ぐぬぅ……貴様ぁ! 同じ頭足類だというのにぃッ! なぜ邪魔をする! なぜ触手を落としたァァァ!!! 』
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「キーッ」
おっと、電話電話。むぅ、妄想に浸っちゃったよ。でもいいとろこだったのに。
「はい、こちらインセンスクイーン。ですわ。どうかしましたか?」
僕の名前も大概だけどね。戸籍の名前からなんの捻りもないし……まぁ、戸籍の方が後付けなんだけど。
「おう。愛しのタコのおじさんだぞ。いや、敵影が想定よりも多くてだな。早めに切り上げるかもしれないから嬢ちゃんも長居するなよ……って連絡だ」
「分かりました。危なくなる前に逃げてくださいよ? ……あ」
「まったく、嬢ちゃんは全然口調になれないなあ。平時と作戦中の言葉遣いを分けるのは身バレ対策でもあるんだぜ?」
完全に人外な外見の人は会社の外に私生活なんて持たないから楽でいいよね。
「そんなことを言われましても……とにかく、了解しましたわ。お気を付けて」
「おう」
通話が切られた電話を戦闘員に返す。
さて、これでしばらくは待つだけだね。
今回の作戦内容はリコール対象になった新型車の強奪だ。目標は20台。なんでも、搭載されているエンジンが欲しいのだとか。幹部クラス二人と戦闘員50人を動員した成果としては少々物足りない気もするけど、まあ経営については僕は管轄外だし。
ヒーローと悪の組織が関わる損害には保険が適用されるから僕らとしても心置きなく略奪に走れる。社員の心労にも気を使ってくれるいい会社に入社できてよかったよ。……性転換させられたけどね。
なんてことを考えていると、きっとニヤケている彼がスケッチブックを差し出してくる。目星をつけていた車を全部確保した旨が書いてあった。相変わらずみんな仕事が速い。
やっぱり作戦中にしゃべれないと不便だと思うんだけどなぁ。
「それでは撤退開始ですわ」
うーん、どっちかと言うとお嬢様っぽくなっちゃった?
「キー」
彼が手信号で合図を出すと近くの百貨店から信号団が上がった。よし、これで各々が所定のルートで基地に戻るはずだ。
「さあ、わ、我々も退きますわよ」
よしよし、今回も無事に帰れそうだ。僕の能力はあんまり戦闘向きじゃないし、殴りありとか怖いからね。裏方仕事万歳。
◇◇◇◇◇
「香織さん、おはようございます」
事務の女の子が元気よく挨拶してきた。
「はい、おはようございます」
半年前に入社したばかりの新人の娘だ。外見年齢的には僕と同じくらいだけど、彼女は怪人でもないし、会社の裏の顔も知らない。至って普通の新社会人だ。
うちの会社の地下に秘密工場があることも、そこでは人外な外見のおっさん達が下ネタトークに花を咲かせていることも、彼女のボーナスになるはずの膨大な黒字の殆どが兵器と怪人開発に費やされていることも、彼女はなにも知らない。
「さきほど、営業の壺井部長が探してましたよ。報告会は13時からだから準備するようにとのことです」
……あぁ、壺井さんはテンタクルですッ☆さんのチームだったっけ? なら前回の作戦のことかな。
「わかりました。ありがとうございます」
「はぁ。香織さんってすごいですね。まだ入社して4年目くらいですよね。確か……なのに偉い人達から信頼されてて、仕事も任せてもらって、一目置かれてるっていうか」
そりゃ、裏では僕のほうが上司な訳だし。
「まだ半年じゃない。貴女も物覚えが良くて、優秀だって評判ですよ」
「わ、私なんでまだまだですよぉ~。でもでも、がんばります! それでは、そろそろ入庫が始まるので」
なんか慌てた感じでいっちゃった。彼女も仕事を抱えてるのかな。
ふと窓の外を見れば、西門から何台ものトラックが入ってきていた。あれらの荷台は各地で集めてきた鉄くずやプラスチックやガラスで満載なんだろうな。
トラックにはどれも同じ『AKN』のロゴ。
株式会社AKN。
今日も微妙に黒字継続中。
ごめんなさい。