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女幹部の休日

うっかり書いちゃったけど、更新には期待しないでね。

 化粧台の大きな鏡に映る美少女の名前は睦妃香織。またの名をインセンスクイーン。改造前の名前は……もういいや。どうせ戻れないんだし。今後一生使うことの名前だし。

 下っ端戦闘員だったころは化粧になんて全然興味なかったんだけど、最近は自分でほんのりとメイクができる様になっちゃったよ。ナチュラルメイクってメイクしてない様にガッツリ盛ることなんだって。

 うん。今日も僕は美少女だ。……未だにちょっとブルーだなぁ。


『緊急のニュースです。ただいま入りました情報によりますと、本日午前7時頃、圏央道鶴ヶ島JCTから久喜白岡JCT間の全ての乗り口が何者かにより封鎖されました。』


 あ、テレビつけっぱなしだった。

 そうか。今日は新型車両の走行テストの為に圏央道をジャックするんだったっけ。

 まあ、今日は僕はお休みだし。買い物行かないとだからね。インターチェンジには近づかないようにしないと。


 うん、テレビoff、エアコンも付いてない。お財布もケータイも持ったし。うーん、ハンドバッグを持ち歩くのはどうにも慣れないおなぁ。まぁ化粧品とか色々と持ち歩く物も多いからポケットだけじゃ足りないのも事実なんだけど……。ポケットに色々つめてたらすっごい起こられたし。やれラインが崩れるだの、バッグを持ってはじめてコーディネートが完成するだの。

 

 まあいいや。じゃ、出発っと。

 

 と言っても、社員寮から出るだけで10分も掛かっちゃうんだけどね。地下の自室から寮の自室までエレベーター長すぎ。おまけに寮の玄関から工場の敷地を出るまでにさらに5分。自室への出入りだけのために1日の内の30分もにかけないといけないんだもんなぁ。



◇◇◇◇◇


   

 ふぅ。やっとスーパーマーケットだ。

 うちの工場って町外れにあるからスーパーまでバス使わないといけないのが辛いよ。バス停まで徒歩15分だし、立地悪すぎ。

 まぁ大きな工場だから地価の安い田舎じゃないと大変だし周りに民家があると騒音の問題とかあるし、仕方ないってのは分かるんだけどなぁ。治安が悪いわけじゃないけど電灯少なくて夜道が暗いし。……うちは若い女の子も多いからなぁ。送迎バスも出してるけど、定時の便を逃して困ってる娘もたまには居るわけだし……。

 でも勝手に電灯とか看板とか設置すると犯罪になっちゃう場合があるからなぁ。さすがに福利厚生の一環としてはできないし、悪の活動として設置するのもなぁ。さすがに全く収入に繋がらないとなると許可が下りないだろうし。

 自家用車があればいいんだけどなぁ。いくら戸籍は偽造されてるとはいっても、極力個人情報の登録が必要なことはしない方がいいらしいし……生命保険も入ってないし、銀行口座も持ってないのに運転免許ってのなぁ。携帯くらいなら会社から貸与してくれるけど……。


 まあいいや。悩んでもしょうがないし。

 今日は冷凍食品が半額デーなんだ。

 不安定な人生を歩んじゃってるし、将来の為にお金を貯めないとだからね。

 冷凍食品が健康に良くないのは分かってるけど、襲撃任務の後とかに帰って自炊とかやる元気ないし、疲れた日は濃い目のパスタが美味しいし。お弁当に手軽にオカズを追加できるのが実に素晴らしいよ。

 お昼にはお弁当にしとかないと外食に誘われたりして面倒なんだよね。堅気の社員はモロ下心だし、裏社員と行くと接待されてるみたいになっちゃうし。自分でお弁当作る分には事務所の女の子と一緒に食べたりするだけだから楽だ。……たまにどろどろするけど。


 たらこスパ~。グラタン~。お、ポテサラげっと~。アスパラベーコン巻きにミニハンバーグ~。あぁ、うどんもいいね。買っちゃえ買っちゃえ。あ、徳用の唐揚げだ。ちょっと薬臭いこともあるんだけと……まあいいや。

 ん~あとはお肉のと野菜と飲み物のコーナーだけ見ていこ。


 ……え、輸入牛肉が100gで168円。結構安いなぁ。でもまだ下が狙える気もするし。……78円で買った鳥モモが残ってるから今回は諦めよう。うん。代わりにちょっと高めでも卵買おう。

 タマゴー、ターマゴー。あ、ウズラの卵が半額! お弁当のオカズが一気に豪華に!

 あーいい買い物したわー。こんなにアレコレ値下げしてて大丈夫なのかな。閉店セールじゃないよね?



◇◇◇◇◇


 うー。買いすぎた。

 肉体改造されたせいで僕の細腕では考えられないような怪力を手に入れたわけだけど、ビニール袋がはち切れそう。

 不味いよー。これ持ち手のところ千切れる位なら握力でフォローできるけど、底が抜けたらアウトだよ。いい加減マイバッグ買おうかな。今回は隣の席に置かせて貰おう。バスの中、まだ空席あるし。



 ぷぅー。



 ……。うわぁ、前の方から……。密室ですよここ。

 仕方ないなぁ。


 <ピュリフィケーション>


 こっそり能力を発動っと。別に掛け声とか呪文とか要らないしね。他の人には見えてないんだけど、空気中に青白い光が舞い散る光景はとってもキレイだ。自分で起こしておいて自画自賛になっちゃうけど。女になってからと言うものどうも綺麗なものとか可愛いものに惹かれる様になった気がするんだよなぁ。化粧品の容器とかも可愛いよね。捨てるの勿体無く思うことあるよ。

 バスの中は微妙に居たたまれない様な無言の空間のままだけど、少なくとも臭いはしないはずだ。

 僕的には音出してくれて助かった。気づけなかったら浄化能力使えないからね。


 戦闘ではあんまり役に立たないけど、工場には臭いのキツイ物とか汚染物質とかも運び込まれるし生産もされている訳で、中々重宝してるんだ。僕が参加する会議では喫煙OKになっちゃったけどね。

 それに部屋の掃除でも大活躍だ。トイレは芳香剤要らずだし、シンクの汚れも一発分解。ソファーにジュースを零しても問題なし。チョー便利。


 あー月曜日はまた工場中を浄化して回らないと。最近は生体スーツの開発がトレンドみたいで休日明けは大抵生臭くなってるし。腐敗臭漂ってるし。……うち、地下は年中無休だからなぁ。



「全員動くな!」


 銃を持った二人組みだ。二人ともオートマチックのハンドガン。銃器にはあんまり詳しくないけど小口径っぽいかな。

 この物々しい男達がヒーローってことは無いだろうなぁ。目だし帽だし。ってことは、バスジャック? いやいやこんな年金暮らしのお年寄りしか乗らないようなローカル線でなにやってるの……。


「おい運転手。俺達の用事が済むまでバス停で止まるなよ? 俺が運転してもいいんだからな?」


 一人が運転手を脅している間にもう一人が客席に銃口を向けて客を観察している。


「よーし。全員財布を出せ。今から俺が回るからな。この袋に入れろ。携帯電話には触るんじゃねーぞ」


 それスーパーのビニール袋じゃん。

 どうしようかなぁ。僕が犯人を取り押さえたりしたらそっちの方がニュースになっちゃうし。


 <カームセントフィールド> 

  

 感情制御の能力で犯人にもお客さんにも少し落ち着いて貰おう。うーん。能力発動を気取られないのはすごく便利なんだけど、ヒーローから唯の怪力女扱いされることがあるのがなぁ。いやまぁその方が不意をついたりしやすくなるんだけどさ。


 よしよし。怯えてポックリ要っちゃいそうなお爺さんも少しはマシになったみたい。

 僕は銀行カードもクレジットカード持ってないし。お金は……経費ってことで落とせないかなぁ。身バレ回避のために必要だったってことで。そろそろお財布も新調しようかと思ってたし。


「おい、次はお前だ」


 あ、僕の番だ。

 さっさと降りて貰わないとだからね。ちゃっちゃっと……あっ、不味い!


「あの、すみません」


「あ? なんだ。早くしろ」


 おお、落ち着いてる落ち着いてる。感情制御っていっても洗脳できるわけじゃないからたまに見誤るんだ。


「その、ポイントカードだけは勘弁して貰えませんか」


 危ないところだった。スーパーに美容室にドラッグストアに洋服の蒼山に……。なんでこんなにポイントカードだらけなんだろ。


「あぁ? 時間がねーんだ。つべこべ言ってねーで入れろ」


 クッ、手ごわい。数秒で終わるのに。

 出力を上げすぎると人間でも匂いを知覚できちゃうんだけど……ほんのちょっとだけなら。


「お願いします。 5秒、いえ3秒で終わりますから」


 すかさずほんのり上目遣い。ずっと瞬きしなかったから目もウルウルしてるはず!

 あ、フローラルな香が漂って来ちゃった。早く折れて~。


「分かったから早くしろ!」


 お許しが出た。ささっと回収っと。

 あー良かった。pentaカードもばっちり回収できた。確かあと20ポイントくらいでお皿と交換できるところだったんだ。ついでに今日のレシートもゲット。これで残金も計算できるから後から会社に請求だね。

 あ、財布は挙げますよ。どうぞどうぞ。


 車両の後方へ進んでいくバスジャック犯をニコニコ見送っていると、後ろの席のおばちゃんと目が会った。あ、駄目だよ駄目だよ? 貴女はポイントカードは諦めてね。もう出力落としちゃったからね。


 ……幸い、おばちゃんは身の程を知っている人だった。良かった良かった。



「ぃよーし、運転手。次のバス停で止まれ。手前ぇら! 次のバス停は下車禁止だぁ!」


 えぇぇ! 僕もここで降りたいのに。その次のバス停って3km位先だし、社員寮までだとかなり歩くことになっちゃうよ!

 うー、でも流石にこれ以上の我が侭は不味いよなぁ。はぁ、逆方面のバスに乗るのもなぁ


 あーあ。僕が降りるバス停に着いちゃったよ。


「ぐはぁっ!」


「なんだてめげべぇ」


 出口から降りてい行とした強盗達が一瞬で昏倒させられた。


「皆さんご安心ください。私はヒーロー協会の者です」


 20才くらいの若い男の人だ。飾りっ気はないけどリア中オーラが漂ってる。

 流石ヒーロー。僕らの敵だ。


「取られたものは全て返却いたします。私はここでお返ししますので、えーと、一先ずここで降りられる方はいますか?」


 おぉ! 天の采配に感謝感謝。


「はい! 降ります降ります」


「では此方まで来てくだ……さ……い」


 歩いていくと彼はなんだか呆然としているようだ。

 あれ? 知り合いじゃないと思うけど……クイーンの時にも会った覚えないし、教会にもまだ顔バレしてないはずなんだけど。

 はち切れんばかりの買い物袋に引いているのかな。余計なお世話だよ……。


「あの……?」


 とにかく財布返してください。


「あ、あぁ、し、失礼しました。財布の中に身分証のようなものがあったらお願いします。本人確認しますので」


「では社員証で……どうぞ」


 写真付きのICチップ入りカードだから大丈夫だと思う。……そういえば抜き取るの忘れてたなぁ。

 ……なんかやけに丁寧に照合するなぁ。


「どうぞ、災難でしたね」


「いえ。ありがとうございました。これからも頑張って下さい」


「あ……はい! では、お気をつけて」




 いやーラッキーラッキー。結果的に何もなくならなかったし、最寄のバス停で降りられたし、万々歳だね。

 買い物もバッチリだったし。いい休日だった!


 

 バサァ!



 右手の袋が破れた……あぁぁぁ! こっちは卵が入ってる方なのに! 

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