第八章 幼き山鳩の怯え
鶴千代は杏一郎の為すがまま、静かに息を詰めて身体を固くしていた。
潤んだ瞳を伏せたまま言葉を発しないのは、膝がしらの内を緩く這っている杏一郎の指の行方を気にしているからだ。
自分の心の内にある淡い期待を、杏一郎に気づかれはしまいかと、視線を外した。
汗ばんだ拳を握るいじらしい鶴千代に気づいて、杏一郎はふっと破顔した。
「鶴千代さま。怖いことは何も致しませぬ。痛いことも致しませぬ。杏一郎は誓って鶴千代さまをとてもお大切に思っております。どうか身体のお力をお抜きください」
「……うん……」
「杏一郎がお教えいたしますのは、好いた相手に与えられるなら何より無上の喜びとなり、憎い相手に与えられるなら屈辱以外の何物でもない行為です」
「それは……皆が言う衆道の手ほどきか?」
「そのようなものではございませぬ。杏一郎がどれほど鶴千代さまをお大切に思っているか、知っていただきたいのです」
鶴千代の見つめる杏一郎の手の中には、細い竹筒が握られていて、素早く中身を手のひらにあけた。
「それは?」
「白菜種でございます」
手のひらで油をこねると、膝がしらに手を掛け、ゆるく締めた六尺の縦褌を解き、そっと鶴千代の下肢に触れた。
転がされた鶴千代が身を固くして、じっと杏一郎を見つめている。
「力を抜くのです」
六尺を取り去ると、すでに強張ったささやかなものが腹を打っていた。顔をそむけた鶴千代が、小さく声を漏らした。
「……乳母やが御台所を迎えるまでは、決して自分で……用を足すとき以外、これに触れてはならぬと言うた……のじゃ。触れても良いのか?」
「それは、乳母さまが女子だからでございますよ。男子は時折こうしないと、身体に障ります」
視線を絡めたまま、杏一郎は鶴千代の緊張を優しく解きほぐしていく。熱を帯びた皮膚に高級な白菜種が沁みこんで、しっとりと柔らかく掌に吸い付くようだ。
「身命を賭して悔いの無い相手と出会えた時に、こうするのです。いつしか自然に蕾がほころぶように」
「きょ……杏一郎……我慢が……きかぬ。粗相をする。手をはな……せ」
「朝起きた時に、下帯が濡れていたことが有るのなら、精が零れましょう。怖がることはありませぬ。杏一郎の手のひらに零しておしまいなさい」
「……でも……」
杏一郎は直もさえずる山鳩の小首を捕まえると、ついと軽く口を吸った。舌の侵入を許した鶴千代がはふっ……と喘ぐ。
いつしか全身が弛緩して、杏一郎の腕の中にすっぽりと抱きこまれていた。
「さあ、鶴千代さま」
「あ……ぁっ……」
羽二重の布団を折りたたんで重ねた壁に、鶴千代は沈みこんだ。
切なげに身を捩り、杏一郎の二の腕を掴んだまま鶴千代の白い下肢が跳ねる。
ふる……と、息を詰めて鶴千代は戦慄した。
困惑で頬は熟れて、言葉もなく兄分を見つめるしかなかった。




