表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/234

016 再び、見送り

一度、帰ってきた家から、もう一度、出ていく。


不思議な朝だった。


     ※


母は昨日の夜、また荷造りをしていた。


リントが朝、台所に降りると、テーブルの上に食料の包みが、昨日より多く積まれていた。


「……母さん」


「はい」


「多すぎ」


「念のため、です」


「前回より、多い」


「今回は、王都まで行くでしょう」


「……」


リントは諦めた。


母の念のためは、母以外には通じない。


ユミルが台所を覗き込んだ。


包みを一通り見た。


「……乾燥肉、二倍です」


「そうです、ユミル様」


「保存食、三倍です」


「そうです」


「……妥当、です」


「……」


リントは天を仰いだ。


ユミルの基準は、いつの間にか、母寄りに変わっていた。


     ※


父は居間で朝の茶を飲んでいた。


リントが入ると、父は頷いた。


「行くのか」


「うん」


「気をつけて」


「うん」


父はそれだけ言った。


昨日の夜と、同じ言葉だった。


でも、昨日より、少しだけ、短く聞こえた。


リントはそれが、父なりの**慣れよう**だと思った。


父も二度目の見送りに慣れなきゃいけない。


一度目は長く。二度目は短く。三度目はもっと短く。


そうやって、家族は、見送りに慣れていく。


     ※


玄関先で兄が薪を割っていた。


リントが出ると、兄は手を止めた。


「行くのか」


「うん」


「行ってこい」


「うん」


兄はそれだけ言った。


前回の「行ってこい」と、ほぼ同じだった。


でも、今回は、**剣を構えていなかった**。


斧を握ったままで、笑っていた。


「ユミル様、また、弟を」


「はい、必ず、お連れします」


「……頼む」


兄は少しだけ目を伏せた。


それから、また斧を持ち直した。


「行ってらっしゃい」


薪が一つ割れた。


気持ちのいい音だった。


     ※


門まで母が送ってきた。


父は家にいた。


「父さんは、来ないの」


「お父様、薪、割るって」


「兄さんと?」


「一緒に」


「……」


リントは振り返った。


家の裏から、薪の割れる音がもう一つ聞こえていた。


父と兄が並んで薪を割っている、らしかった。


なぜか少しだけ笑いたくなった。


     ※


母は門の前で立ち止まった。


「リント」


「うん」


「……」


言葉が出てこないらしかった。


リントは待った。


「……ちゃんと、手紙、書くのよ」


「うん」


「……お腹、壊さないでね」


「うん」


「……ユミル様のことも、よろしくね」


「うん」


母はユミルを見た。


「ユミル様」


「はい」


「……リント、よろしくお願いします」


「お任せ、ください」


「あと」


「はい」


「……三口目で、微笑む癖、とても、可愛い、ですよ」


ユミルは一瞬、止まった。


それから、少しだけ頬を赤くした。


「……気づかれていたの、ですか」


「母親、ですから」


「……」


ユミルは深く頭を下げた。


「……ありがとうございます」


「はい」


母はユミルの白い髪を、そっと撫でた。


ユミルは撫でられるままになっていた。


     ※


門を抜けた。


街道に出た瞬間、リントは一度だけ振り返った。


母は門の前に立っていた。


父と兄の薪の音は、まだ聞こえていた。


リントは頷いた。もう一度、前を向いた。


「y」


「はい」


「行くか」


「はい」


二人、歩き出した。


秋の街道を、二度目の歩き出しだった。


     ※


――第十五章、了。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ