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~果たされぬ約束~ 後編

 ガルム東門砦、かつて魔族を迎え撃つ為に建造されたその砦で、エランは事態の収拾にあたっていた。魔族による被害の大きさが明らかになるに連れて、自身の判断ミスに苦悩する中、副官から一つの報告が入るのだが……………………

~ガルム 東門砦~

 俺が指揮を執り始めてからどれほどの時間が経過しただろうか?避難民の状況、町や民間人の被害に関する情報と魔族たちの動向……………………ありとあらゆる情報が濃密に押し寄せている。数分が何十分にも感じるほど、途方もない量の問題が積み重なっていく。俺は、本当にこの状況を打開できるのか?

 

 「隊長!」


 副官が血相を変えて室内に走り込んでくる


 「どうした!?」


 「魔族です!中央広場の魔族の内の何体かが向かっていると報告が!」


 「偵察隊は無事なのか!?」


 「中央の偵察に出ていた3人の内で戻ったのは1人だけです。命からがら逃れてきたと……………………」


 「くそっ!こうなった以上は仕方ない。団員を集めろ!」


 「戦うおつもりですか!?」


 「俺を含めて魔力を扱えるものは何人いる?」


 「私と隊長を含めて10人ほどです」


 「他の新米団員は残して避難民の護衛に当たらせろ。弓矢に魔力を込めることもできない奴では何もできん」


 「迎え撃つ場所はいかがなさいますか?やはり内城門付近でしょうか?」


 「いや、内城門は外よりも貧弱だ。間違っても魔族に突破されれば一瞬で破壊される。城門から少し離れた建物群の屋根上で待ち伏せをする。この火災による煙を利用させてもらう」


 「了解しました!」


 「それと、今回は”氷剣”(ひょうけん)を使う」


 「い、いけません!今の隊長の体では負荷が!!」


 「分かっている」


 ”氷剣”、それは、かつて”アリス・ワーウォルフ”によって作成された魔剣。込められた魔力を魔法に変換する機能を持ち、魔力には目覚めたが魔法の表現型にまでは目覚めていない者のために作られた。だが、本来は”才”と”強烈な実体験”を引き金に目覚めるはずのものを簡単に扱えるわけもなく。それなりの魔力量と操作技術を持つ者にしか扱えず、それでも身体に大きな悪影響を及ぼすという欠点を抱えている


 俺やウルバンドに与えられた魔剣は大きな戦果を約束したものの、一度の戦闘で扱える時間は短く、年を取るごとに負荷による悪影響に体が追い付かなくなった。俺たちが騎士団を引退した理由の一つがそれだったのだ


 「魔力を込めて強化した弓矢であっても、急所に複数発打ち込み、完全に破壊できなければ魔族を殺すことなど出来ん。我々は10人だ。一斉射で仕留められる数は精々1,2体が限度、それ以上となれは必ず白兵戦となる。私の言いたいことは分かるな?」


 「私が氷剣を継承できれば……………………」


 「魔力操作はともかく、量に関しては生まれながらの”才”と”長い鍛錬”だ。お前はまだ若い。あまり自分を責めるな」


 「くっ……………………」


 副官が部屋を出ていくと。俺も部屋を後にした。部屋を出た俺は、城内の武器庫に入った。中には数多くの武器が貯蔵され、その中でも”氷剣”だけは、他の武器とは違い、立派な武器立てに安置されていた。


 「また、これを使うことになるとはな……………………」


 再び愛剣を握った俺は、ふと部屋の奥に置かれた箱に目をやった。その箱は、荘厳な装飾と中央に魔石を埋め込まれたもので、この中に”アリス様”から託された宝具が収められている。武器庫に来るたびに、その箱の状態を一度は確認するようにしていた俺は、その箱の様子がいつもと違うことに気が付いた


 「魔石に光が?」


 中央の魔石に光がともり、箱全体で脈打つような魔力の流れが確認できた。明らかにいつもとは違う状態。まるで、待っていた主が帰った時の忠犬のような……………………


 「まさか、ヨセフカ様が近くに?」


 ほんの好奇心で箱に触れるが、弾かれた。前は箱を開けようとしない限りこうはならなかった。この明らかな変化、間違いなく彼女が傍まで来ている……………………


 「……………………」


 彼女が傍まで来ているのなら、無理をして今の陣容で迎えつ必要はないのかもしれない。彼女が合流するのを待ってから動けば、残りの団員の危険は大きく減じるのでは?


 「……………………ダメだ」


 彼女を待っている余裕はない。魔族はそこまで迫っている。いつ内城門付近へ到達してもおかしくはない状況だ。これは私情も混じっているが、彼女を戦わせる前提での選択など取れば、アリス様に合わせる顔がないのだ。今や老人となった俺たちには、この血みどろの戦いを次の世代に残さない責任があった。だが、現実はどうだ?倒しきることは出来ず、問題を次の世代に持ち越し、自分は今もこうして生きている。これ以上、押し付けるような選択は取りたくない。相手が恩人の娘ならなおさら


 氷剣を手に武器庫を出た俺は、内城壁上で集まっていた団員たちと合流した


 「隊長、準備は整っています!」


 副官を先頭に整列する団員達の顔を確認した俺は、自身の中の不安が消えていくのを感じた。これから死ぬかもしれない戦闘だというのに、その表情に恐れはなかった。あるのは、自身達に掛かっている責任とその重みだけだった


 彼らは覚悟を決めている。なら、俺がそれに答えない訳にはいかないな


 「皆、話は聞いているな?害虫どもがここに向かっている。このまま奴らの侵入を許せば、残った生存者たちも惨殺されるだろう。相手は強大だ。だが、全く勝ち目のない戦いではない。俺たち一人一人は弱いが、知恵と団結を持って対抗し、勝利する!今までそうしてきたようにだ!行くぞ!!」


 「はいっ!!」


 号令と共に、俺たちは行動を開始した。屋根を(つた)いながら、城門から少し離れた地点まで移動し、屋根の陰に身を隠した。頭だけを出し、通りを見張って奴らの到着を待った


 「ん?」


 標的の姿を捉えた副官からのハンドサインを確認した俺と他の団員たちは、通りに向かって弓を構え、魔力を込める。


 「敵は3体、中位魔族のオーガだ。打合せ通り、一番先頭を歩いている奴から狙う。頭か首を狙うぞ」


 改めて確認を取った俺は、他の団員達と同時に矢を放つ。流石の練度というべきか、俺が放つのとほぼ同時に他の団員達も矢を放った。両方向から5本ずつ襲来した矢は、魔力の付与によって威力が増しており、先頭のオーガの頭を正確に捉え、その貫通力で貫いた。複数発の矢を頭部に受けたオーガは絶命し、黒い灰へと霧散していった


 「敵襲だ!」


 同族を殺され、戦闘態勢に入ったオーガの一体が叫んだ


 「足を狙え!!」


 既に急所への矢は望めないと判断した俺は、全員に足への射撃を命じた。号令と共に放たれた矢は、正確にオーガたちの足元へと進み、いざ命中しようとしたその時、片方のオーガが片側のオーガを押しのけた。押しのけたことで、その足に全ての矢を受けたオーガは、押しのけられた側のオーガに指示を飛ばす


 「左手の屋根上にいる奴らを片付けろ!もう片方は俺がやる!!」


 「分かった!!」


 指示を受けたオーガは、すぐさま俺がいる側の屋根上へと飛び上がってきた。魔力による強化もなく、純粋な肉体の力のみで”この力”というのだから堪ったものではない。

 飛び上がってくるのと同時に、右腕の棍棒で攻撃を仕掛けてきたことを確認した俺たちは、すぐさまその場から飛び退くが、攻撃地点の近くにいた団員3名が吹き飛ばされた。魔力で強化した上に、直撃ではないことから死にはしていないだろうが、ものの見事に分断された。


「よくも仲間を!!」


 飛び上がってきたオーガが踏み込みと同時に棍棒を振り下ろす

 反応が間に合い、どうにか後ろへ飛び退くことに成功した俺は氷剣に手をかけ、魔力を込める


 「ふぅぅぅ……………………」


 吐く息が白く冷たいものへと変わると同時、抜き放った氷剣が冷気を纏う。魔力を物凄い勢いで持って行かれのが分かる。久々の感覚に戸惑うが、決して魔力制御をおろそかにはしない。怠れば、この魔剣による体への負荷は何倍にも跳ね上がるのだ。失敗作とはよく言ったものだ……………………


 「そんなもので何が出来る!!」


 横からの薙ぎ払い。凄まじい速度と力で振るわれるそれは、いとも簡単に人間を両断できるだけのものだが、踏み込みと同時に両手で握った氷剣を振り抜き、相手の棍棒と接触する。本来であれば、魔族の攻撃を正面から受けることは自殺行為だ。上手く避けるか剣を滑らせるようにしていなすかの二択しかない


 「なっ!?」


 だが、氷剣と接触した棍棒は、凍って砕けたオーガの腕と共に宙を舞う。棍棒が剣に触れる数秒前の時点で、振り抜かれた氷剣の冷気に晒されていたオーガの腕は既に凍っていた。凍った腕を砕いたのは、俺が振り抜いた剣による衝撃もあるだろうが、その原因の大部分は、オーガ自身のフルスイングによるものだ。

 これが”氷剣”(ひょうけん)、凍ってしまったことを本人にすら気付かせないほどの冷酷無比な冷気を放つ武器。その冷気は使用者本人の体温も奪い、全力で振るえば、その冷気は本人の体の芯からさえ体温を奪い、一時的に体を硬直させる。そして、その硬直は痛みと呼吸困難も伴うオマケ付きである。


 「こ、これは!?」


 後ろへ立ち退くオーガへ更に踏み込み、下段から上段へと冷気を纏った剣を振り抜く。目の前で軽い吹雪が巻き起こり、それに巻かれたオーガは、次の瞬間には見事な氷像となり、バラバラに砕けたかと思えば、黒い灰となって霧散した


 「くぅっ!!」


 氷剣の反動が体に降りかかる。乱れた呼吸は即座に整えられるが、体の芯へと襲い来る冷気による喪失は流石に堪える

  

 若い頃はここまで辛くはなかったのだがな……………………


 「うあぁぁぁぁぁぁっぁぁっぁ!!?」


 「何っ!?」


 向かい側の屋根側からの絶叫が耳を貫くと同時に向かい側へ視線を向けた俺の視界には、頭を摘まみ上げられ、今にも砕かれそうな団員の姿だった

 

 在り得ない!さっきまで足を撃たれて動けなくなっていたはずじゃっ!?


 先ほどまでオーガが居たはずの場所へ目を向けると、そこにあったのは矢が刺さった足だけだった


 まさか、自分の足を切って即座に再生させ、向かい側へと飛んだのか!?いくら中位の魔族でもそこまでの再生力は……………………まさか、上位への進化が見えるほどの戦闘経験をもった個体だとでも言うのか!?


 たとえ生まれた時点で中位や下位の魔族であっても、戦闘を積むことで成長し、同じがオークが中位クラスの能力へ、中位のはずのオーガが上位の能力を持つことがある。いざ進化を果たした個体であれば、体の肥大化などの特徴が現れるが、問題は進化途中の半端な個体だ。能力は中位の者から確実に上がっているが、見た目では判別できず、いざ戦ってみるまでは分からない。最悪のパターンというやつだ



 「放しやがれ!!」


 背後の団員が切りかかる


 「いいだろう!」 


 オーガがその団員に摘まみ上げていた団員を投げつけると、その団員はあろうことか仲間を受け止めてしまった。その隙を目の前の手練れが見逃すわけもなく、踏み込みからの薙ぎ払いで二人を両断する。鮮血と臓物が宙を舞う中、俺はあちらへ飛び移ろうと足掻いていた。だが、冷気よって地に着いてしまった膝は言うことを聞かない


 「化け物が……………………よくもやってくれたな!!」


 剣を支えに何とか立ち上がった副官がオーガへと立ち向かう。一撃、ニ撃と刃を交えるが、力では圧倒的な差がある以上、相手の攻撃をいなすばかりの受け身の姿勢。どうにも潜り込む隙が見いだせない


 「くっ!!」


 遂にいなし切れなくなり、後ろへと弾かれた副官は、腰を落とし、剣を前方へ構える。全身に魔力を走らせ、満身の力で前へと踏み出す。放たれた矢のように突き進み、その切っ先がオーガを捉えた

 

 「馬鹿な!?」


 「馬鹿は貴様だ!弱小種族がっ!!」

 

 刃は確かにオーガを捉えてはいた。だが、その場所は腹でも心臓でもなく、剣を切っ先ごと掴んだオーガの手だった。剣による突きを見切ったそのオーガは、避けるでも弾くでもなく、掴むことで強引に止めてみせたのだ


 「たかだか人間の踏み込みごときが見えないとでも思ったか?」


 「う、動かせない!?」


 オーガがもう一方の腕に持つ斧を振り上げる


 だが、エランは未だに立ち上がれずにいた。今回の魔剣使用による負荷もあるが、それ以上に今までの使用不可の積み重ねが大きい。長年の魔剣使用による負荷の積み重ねは、単純な身体負荷に留まらず、魔力が流れる肉体の劣化を飛躍的に速める。彼の肉体は、その劣化によって額面上の年齢以上に衰えていた


 「死ね!!」 


 斧が振るわれると同時に、鮮血が宙を駆ける。だが、それは副官のものでも、はたまたエランのものでもなかった


 「うっ………………ぁ、あがっ…………………」


 オーガの首に深々と突き刺さった剣は、凄まじい痛みと共に、平衡感覚を奪った。自身に何が起こったかを理解する間もなく、剣を更に深く刺さんと、剣の柄へ叩きこまれたその蹴りは、他でもない”ヨセフカ”によるものだった。蹴りは剣を更に深くへと刺し込ませ、そのまま屋根下の通りへと蹴り飛ばした


 「あ、あなたは?」


 先ほどのオーガと同じく、状況を呑み込み切れていない副官を脇目に、ヨセフカは先ほど惨殺された団員たちの亡骸を一別すると、副官に向かって一言


 「ごめんなさい…………………」


 そういうと彼女は屋根下へと飛び降り、まだかすかに息があるオーガの頭を上空から蹴り潰し、完全に息の根を止める。灰へと霧散していく中、投擲した剣を回収する


 「ヨセフカ様っ!!」


 魔剣使用の負荷からどうにか復帰したエランが屋根から飛び降り、ヨセフカの元へ駆け寄る


 「エラン、ごめんなさい。私が遅れたばかりに犠牲が……………………」


 「およしください、あなたが来てくれていなければ、私は副官まで失うところだった。心から感謝します」 


 今は感謝が胸に刺さる……………………自身の落ち度が人の命と直結している。戦闘での恐怖は感じないのに、自身のせいで命が消えてしまうと思うと、たまらなく怖くなってしまうのだ。もっと上手くやれていたのではと考えてしまう……………………


 「た、隊長!!奥から新手ですっ!!」


 息も絶え絶えの副官から悲痛な報告が舞い込んでくる。ただでさえオーガの相手で皆が負傷しているというのに、この期に及んで増援など……………………


 「エラン、その剣、少し借りるわよ」


 そういうと彼女は、俺の鞘から氷剣を抜き放った


 「っ!?よ、ヨセフカ様!なりません!!それは身体に重大な負荷をっ!」


 だが、彼女には負荷どころか、顔色一つの変化もない。それどころか、彼女が引き抜いた氷剣からは、俺が持っていた時とは比べようもないほどの冷気が放たれていた。魔力が暴走しているのではない。制御に乱れなどなく、美しいとさえいえるほどだ。これが”あの方たち”から継承された才能だというのか?


 剣から放たれている冷気、魔力による保護が無ければ私でさえ凍傷を負うほどのもの。これほど出力を出せる代物なんて、そも人間に扱える域を超えているわね。しかも……………………

 

 奥からやってくるは、先頭のオーガ1匹に率いられたオークが後方に2匹の計3匹。氷剣を下段に構え、迫りくる敵集団の方向を見据える。息を吸い、ゆっくりと吐かれた息は白く、氷剣から放たれた冷気は、いつの間にか澄んだ湖の様に凪いでいた


 「さて……………………」


 地面を踏みしめ、凪いでいた氷剣の冷気が先ほど以上に激しく放たれる。それと同時に、ヨセフカは下段から大きく切り上げるように氷剣の振り抜いた。それに呼応するように、氷剣の冷気が前方へと打ち放たれる。まるで小規模なブリザードのように突き進んでいく嵐は、あっという間に前方の敵集団を包み込み、嵐が過ぎ去ったそこには、三体の氷像が鎮座していた。氷像にはすぐさまひびが入り、砕けていった。砕けた氷像はすぐさま黒い灰へと変わり、霧散していく。まるで、そこには最初から何も居なかったようにに……………………


 「そんなバカな……………………こんなことが……………?」


 在り得ない光景を見た。今までの主人たる自分では決して起こせない奇跡。これでは本当に、生前の彼女が目の前にいるかのようだ……………………


 「エラン、改めてごめんなさい……………」


 奇跡を起こしたというのに、顔色一つ変わらない彼女は、俺の傍に駆け寄ってきたかと思えば、いきなり謝罪を始めた。


 「頭をお上げください!あなたが謝ることなど一つもございませんっ!もとはと言えば、私の判断ミスがこの状況を生んだのですっ!謝るべきは、この私ですっ!!」


 氷剣による負荷から回復しきれず、膝をついた状態からではあったが、私は必死に謝罪した。この方は、亡くなられた”アリス様”や”アルトリウス様”の生き写し、その風貌には、”アルトリウス様”の気高さと貫禄が宿り、その精神には、”アリス様”のような慈悲深く、理知的な人格が宿っている。この方に謝らせるなどあってはいけない。これは私の落ち度なのだから……………………


 「遅れたことだけじゃないわ。実はその、あなたの氷剣なんだけど……………………」


 そう言うと彼女は、左手に持っていた”氷剣だったもの”を私の前に差し出した


 「っ!?これはっ…………こんなことが………………あり得るのか?」


 自分の手元へと戻された”氷剣だったもの”は、柄も刀身もボロボロに刃こぼれし、まさに搾りかすのゴミくずとでも形容すべき有様だった。原因は明白、先ほどのヨセフカ様の一撃に、この”氷剣”の方が耐えかねたからだ。魔力の放出に耐えきれなかった剣は内部から崩壊、今の状態に至るというところだろう


 「ごめんなさい、母さんから送られた品を.........................」


 「いえ、これで良かったのです。あの方は、我々に授けたこの魔剣は失敗作だといつも嘆いたおられました。最後にあなたの役に立てたのですから、この剣も本望でしょう」


 「そういうものかしら……………………」


 失敗作、あまり言いたくはないけど、使ってみて改めて分かった。この魔剣は、人間が使うには繊細過ぎる一方で、母さんやエルフのような強い魔力を持つものにとっては、その繊細さのあまり強度に問題が生じ、実戦では案の定このざま、急ごしらえの失敗作といのが妥当な評価だろう。母さんは、どうしてこんなものを作ったのだろうか?


 「さて、私はもう行くわ。悪いけど、この場は任せるわね。あと、砦の民間人のこともお願い」


 「お、お待ちください!」


 今にも立ち去ろうとする彼女を俺は呼び止めた。結局はこうなってしまった。彼女が”視た”通りの結果に着地してしまった……………………


 「どうしたの?」


 不思議そうにこちらを見ているヨセフカ様。言わなけらばならない。そして渡さなけらば……………………


 ”ねぇ、エラン。私ね、この剣が未来の我が子に渡る未来になんて来て欲しくない。実際、そんな未来が来ないために、私も彼も戦っているの。でももし、全てが私の”視た”通りになってしまったら、その時は迷わずにこれを渡してあげて。これは、あの子にとって必ず必要になる物なの”


 涙を堪えるような顔で私にそれを伝えてきた時のことは今でもはっきり覚えている。この方は英雄の後継者……………この方は結局、救国の英雄にしかなれないと言うことなのか?だとしたら、あまりに残酷だ


 「一度、砦までお越しください。”アリス様”から、あなたに渡すべき品がございます」


 「母さんから?」


 そう言われた私は、負傷者を抱え、東門砦へと入った。負傷者の帰還で民衆が少しざわついたが、私の姿を見た途端、その様子は消えた。民衆が私の元へと駆け寄ってきたのだ。流石に罵声を覚悟したが、彼らの口から放たれた言葉は感謝と祈りだけだった

 ”来てくれてありがとうございます”や”どうか、この町をお救いください”というものばかりで、罵声は一つもなかった。この際、恨み節の一つでもあった方が逆に清々しかった。今の私にとって、感謝と期待の言葉はあまりに重く感じられる。だが、苦しい顔など出来るはずもなく、清々しい顔で”何も心配しなくて良い”と言葉をかけ、私はエランに武器庫へと連れていって貰った


 「まさか、感謝や期待の言葉の方が、罵声よりも重く感じられる日が来るなんてね。夢にも思わなかったわ」


 「ヨセフカ様、あなたは少し自分を追い詰めすぎています。私も彼らも、奴らに殺されても可笑しくなかった。そこを救ってくれたのは、他でもない”あなた”なのです。こんな時に、恩人に恨み言をぶつけられるほど”余裕のある”者などおりませんよ……………………」


 乾いた笑いと共に、私たちは武器庫の前にまで到着した。この中に、母さんから私に送りたいものがあるそうだ。それが何かしらの武器だというのは想像できる。だが、どうして保管場所が”私の家”ではなく、エランの元なのだろうか?何かしら訳アリの物品ということなのだろうか?


 「ヨセフカ様、この中に約束の品がございます。私は扉の前で待っていますので、どうぞお行き下さい」


 「分かったわ」


 視線を逸らし、何かしらの後ろめたさが滲め出たその雰囲気からは、これから取りに行く物品が普通ではないことを確信させた。母さんは、一体どんなものを私に残したというのだろうか?

 武器庫の中に入ってみると、その中は意外と広く、多くの武器が保管されていた。この中から見つけるのは骨が……………………


 「この感じ……………………母さんの魔力っ!?」


 懐かしいものを感じた。この世界に生まれ落ちた時、人生で初めて感じた温もり。暖かな思い出の中には必ずある温もり。そして、失った今となっては、”狼のペンダント”から残滓が感じ取れる程度の温もり.........................

 感じた魔力を頼りに部屋の奥に進むと、そこには一つの箱が置かれていた。放たれている魔力からしてアレで間違いないだろう


 「この中に母さんからの品が……………………」


 美しい装飾に、中央へ魔石があしらわれたその箱に手がふれたその時だった。聞き馴染みのある声が聞こえた


 ”ヨセフカ”


 「母さんっ!!?」


 箱から発せられていた声は、二度と聞けないはずだった声。優しの懐かしさに彩られたその声は、たった一言で私の平静を吹き飛ばした


 ”まず最初に、あなたに謝らさせて欲しいの。これを聞いているということは、私の視てしまったことの通りになってしまったってことだから……………………”


 どこか物悲し気な雰囲気を纏ってはいたが、それは間違いなく母さんのものだった。だが、謝りたいとはどういう事だろうか?それに”視た”とはどういう意味なのだろうか?


 ”ヨセフカ、単刀直入に言うわ。私は未来を視たの。突飛押しも無い話だって言うことは分かっているわ。でも、これは事実なの”


 驚かされた。この世界には魔法が存在しているのだから、前世ではありえないことが普通にあるとは思っていたが、まさか”未来視”まで存在するとは


 ”私は、自身が作り出した魔石に様々な特性を付与する魔法が使えた。戦争が起きる前なんかは、自分の屋敷に籠って色々な魔道具の作ってた。見通す石”パランティア”を作ったのもその時だった。込める魔力次第でより多くのものを見通すことの出来る魔道具、最初はその程度の認識だった”


 なるほど、魔石に特性を付与する魔法というものもあるのね。どの程度まで付与できるか次第じゃ完全な弩チート魔法になる代物ね……………………


 ”いざ完成してから使ってみると、込める魔力を強大にするほど遠くのものをより詳細に見れることが分かった。一通り使い終わった後は倉庫に閉まってそのままにした。でも、”あの狼男”に恋をして、あなたを生んでから少したった頃のこと、終わらない魔族の残党殲滅の戦いの中で、つい魔が差したの。昔の屋敷に戻った私は、あの石にありたっけの魔力を注いだ。最初は、残りの残党のいる位置が分かれば良い、そんな気持ちで使ってみたの”


 そうだった。母さんも父さんも、討伐の任務で家が開けることが多かった。そのせいもあって、一緒に出掛けた思い出と言えば、あの丘にある木下にピクニックにいったくらいのもの。そも魔族たちが居なければ、私はもっと……………………


 ”そこで私は視てしまった。あなたが成長し、魔族と戦っている未来、民衆にあがめられながら戦い続けるあなたの姿を視た。それを視た時、私は戦慄と共に絶望した。そんな未来が来ないために、一緒に普通の暮らしをするために、あの人も私も戦っているのに、こんなの悲しすぎるわ”


 「母さん……………………」


 母さんも父さんも、私を確かに愛してくれていた。忙しくて一緒に居られる時間が短かろうと、必死に私に愛を注いでくれていたのだ。そんな生活を耐えてこれたのも、いつかは魔族を殲滅して、家族で普通の暮らしが出来ると信じていたからこそのはず。そんな中で”そんな未来”を見せられれば、絶望の一つもするに決まっている……………………


 ”こんなの嘘だと言って、水晶を叩き割りたかった。でも、それは出来なかった。それを作ったのは、他でもない私自身、その性能は私が一番よく知っている。この水晶もこれから私が作らなくてはいけない物も、未来のあなたに必要なもの。だから壊せなかった。目の前にしている箱の中には”魔剣”が入っているはずよ。でもそれは、私が今まで作っていた失敗作とは訳が違う。私が生み出した魔石、ドワーフたちが用意してくれた最高品質の鋼とミスリル、そして、私が材料の魔石に付与した特性で作り上げられたもの。圧倒的な強度と鋭さ、そして、一度握れば、本人の魔力制御は飛躍的に向上するはずよ。これが私が付与した特性。これを使えば、私のように魔力を圧縮して結晶化させることだって出来る”


 聞く限り、相当の品を用意してくれたことは間違いない。正直、言葉もない。私のために、そこまでの用意してくれたこと、感謝しても仕切れない。もう、本人にその言葉を伝えることは出来ないけれど、これを使って必ず母さんの無念を晴らして見せるから


 今度こそ箱を開けようと再び箱に手をかけた時、母さんのすすり泣くような声によって、私の手は止まった


 ”ごめんなさい、本当にごめんなさい。私、あなたと約束してたのに、いつか普通の暮らしを手に入れて、家族みんなで思い出を作ろうって言ったのにっ!”


 違う!母さんに落ち度なんてないっ!!母さんは必死に私を思ってくれた!!


 ”何よりも、私は私が許せない。未来を視ても、そんな未来なんか打ち払うの一言も言えず、こうして完成した魔剣を箱に詰め、この声を封入している。根暗で、一族でも爪弾き者で、戦うことと魔道具作りくらいしか取り柄のない私が、いっぱしに恋をして、子供まで生んで、母親にまでなってしまった。変われたと思っていた。ちゃんと前を向いて歩いて行ける存在になれたと思ってたっ!でも違ったっ!!”


 そこから先のことは、あまり覚えていない。膝をつき、箱に縋りつくように泣いた。自身の落ち度、約束を守れいことへの後悔と懺悔、聞こえてくる言葉の一つ一つが私の心をかき乱す。言語化しきれない感情が溢れてくる中で、ひとしきり泣いた後、私の中に残った感情は一つ、魔族への憎しみでけだった……


 元凶は奴らだ。家族を奪われ、心を破壊された。母さん、父さん、私は戦うよ。もう、純粋なあなた達の娘ではないけれど、今のこの心の中にある感情は嘘じゃない。もう、二人と一緒の未来は望めないけど、私は必ず幸せになる。二度目の人生、障害になる害虫を全て排除して、今度こそ幸せな家族を………


 箱の中の魔剣は、美しい白銀の刀身を持ち、柄も似ぎやすいように形状が細かく造形された一品だった。見た目の時点から、職人による会心の一作であることが分かる。剣を鞘に納め、その状態から抜刀、初めて使う得物だというのに、まるで何十年も使い込んできたかのような馴染み具合。魔力の通りが良いだけでなく、自身の中の魔力をより鮮明に感じる。


 「これが母さんがくれた魔法なのね……………………」


 ”ヨセフカ、もう心の準備はいいかい?”


 ”フィー?”


 ”残る魔族は、中央にいる指揮官と思われる一体だけだ。どうやら、さっき氷像にした集団が最後の手駒だったようだよ”


 ”それは好都合。変に移動される前に肩を付けましょう”


 私は剣を携えて部屋を出た


 「ヨセフカ様、もうよろしいのですか?」


 心配そうな表情で見つめるエランに対して、私は穏やかな表情でこう言った


 「行ってくるわ。この場は任せるわよ?」


 「どうかご武運を」


 彼の見送りを受け、私は城を跡にした。また屋根を伝いながら移動し、今度は中央広場を目指す。最後の害虫を排除して、今回の事件を終わらせる。そして、早く家に帰って皆と会うのだ。今はそれだけで十分だ……………………

 

 母からの魔剣を携え、中央広場へと向かうヨセフカ。最後に残った魔族を排除し、無事にこの町を取り戻せるのか?母の悲しみと後悔を胸に決戦に挑む少女は、勝利のための決断を迫られることとなる。果たして、彼女の決断は何を生み出し、何を奪うのか?

 次回 ”結晶”

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