68.折角作ったけど……
「やったぁー! これで4302個になった〜!!」
ダンジョン内にルティカの嬉しそうな叫びが響く。
それはもはや何十回目かも分からないダンジョンの周回中だった。
いつもの様に淡々と魔獣を殲滅していたラインハルトは、剣を仕舞いながら嬉しそうなルティカに近付く。
「今ので貯まったの?」
「うん、一応これで目標達成だね」
「そっか……それじゃあ、そろそろ次に行くかい?」
元々ここ、ザザビークのダンジョンに来た理由の一つが、ウォーウルフの尻尾を集める事だった。
だが、ラインハルトは未だにルティカのレベルには追いついていない。
それでもルティカが望むならば、他の所に行く事も吝かではなかった。
「ううん、尻尾は貯まったけど、まだゾンビキラーがね。もう少し集めたいんだけど良いかな?」
ゾンビキラーは40階のボスであるシャドウナイトを倒した時に、稀にドロップするレアアイテムである。
ゾンビ系の魔獣に通常の武器より1.2倍のダメージを与える剣である。一人の時は気付かなかったがラインハルトと一緒にダンジョンを攻略し始めてから、同じ物を合成すると威力が上がる事に気が付いたのだ。
2本なら1.4倍のダメージに。3本なら1.6倍のダメージになる。
ここまでくればお分かりであろう、当然最高ランクまで合成したくなったルティカはせっせと合成していた。
ちなみに現在は3.8倍で、もちろん合成したものはラインハルトに渡して使ってもらっている。
ゾンビ系に無双しているラインハルトを見て、ほくそ笑んでいるルティカは、こういう武器があるのならば、きっとそれぞれのキラー系の武器があるだろうと予測して「コンプするぞーっ!」と意気込んでいる。
そうとは知らないラインハルトは、まだここでレベル上げ出来る事に単純に喜んでいた。
「ああ、もちろん良いとも」
「有難う! レアだから中々出ないと思うけど、よろしくね」
「構わないさ……そうなるともうウォーウルフを集めなくて良いのか?」
「そうだね……もう少し周回するならまだ欲しいかな」
「じゃあ今まで通りってことで」
と二人で微笑み合った所で、ふとラインハルトが思い出したように尋ねた。
「そういえば、それで何が出来るんだい?」
「!!」
ピシッと固まるルティカ。
「そ……それは、その……」
ウロウロと瞳が左右に揺れ、明らかに泳ぎまくっている。
実はウォーウルフの尻尾を集める事はラインハルトと一緒に行動する前から決めていた事だった。そしてその流れでそのまま集めていたに過ぎなかったのだ。
元々自分の趣味で集めようとしたもので、いざラインハルトに尋ねられるとちょっと恥ずかしくて、ルティカは答えに詰まっていた。
そんなルティカを見て以前のやり取りを思い出し、スッと目が据わるラインハルト。
「何? またギルのための物なの?」
ひんやりとした空気を出すラインハルトに、ルティカはあわあわと手を振りながら答える。
「ち、違うよっ! えっと……その、私の趣味みたいなもので……」
「趣味?」
ちょっと空気が緩んだが、答えを聞くまでは引きそうにないラインハルト。黙っている事は無理だと諦めたルティカはぎゅっと目を瞑って、うっすらと頬を染めながら一気に捲し立てた。
「えっとね……『レリコスの疾走』って言って、お、狼の獣人になれるアイテムなのっ!!」
「狼の獣人?」
ウォーウルフの尻尾を初めて合成した時に、獣人になれるアイテムを見つけて心が躍った。
獣人ならば、おそらく狼の耳と尻尾が生えるハズ!
ってことは……日本人なら誰もが憧れるケモミミが生えるかもっ!!
そんな下心から集めたいな〜と考えていたのである。
この世界には獣人もいるが、この国イリアムラルでは滅多に居ない。
そのため実際の獣人がどうなのかはルティカも知らない。あくまで想像で、単に興味もあった、というのが動機である。
そ〜っと片目を開けてラインハルトの反応を見てみると、何やら顎に手を当てて考えている。
とりあえず引いてはいなさそうで、ほっとするルティカ。
「ラルフは獣人って見た事ある?」
「いや、俺も獣人は見た事ないな。……面白そうだな」
「! じ、じゃあ、ラルフもつけてみる?」
「ああ、俺にもくれるのか?」
「もちろん! だって保存用と、ラルフの分で4300個だったんだもん」
ちなみに
ウォーウルフの尻尾 × 500 = レリコスの尾(とても触り心地の良い毛皮のマフラー)
ウォーウルフの尻尾 × 800 = レリコスの瞳(夜でもよく見えるようになるメガネ)
ウォーウルフの尻尾 × 1000 = レリコスの疾走(狼の獣人になれるアンクレット)
であり、現在の4300では尾と瞳は一つしか作れないで、自分とラインハルト用にあと2600は欲しいと思っている。
サクッと作って、いそいそと着けるルティカと、物珍しそうに眺めながら着けるラインハルト。
ワクワクしながら眺めていると、顔の横にあった耳がすすっと上がり、ピンと銀色の三角の耳がラインハルトの頭に生えた。
もぞっとお尻にら辺に違和感があり、触ってみると尻尾が生えていたのでレギンスから引っ張り出す。チュニックを着てるため外から見えはしないが、尻尾の分下がってしまい腰周りが心許ない。
これは尻尾の穴を開けた方が良いかも……と考えていると、ラインハルトも同じように尻尾を出していた。
ラインハルトの尻尾は銀色。ちらっと見た自分の尻尾は金色だったので、髪色で変わるのかもしれない。
改めて見る獣人姿のラインハルトは、控え見に言ってもカッコイイ。
ただでさえ美しいのに狼の獣人だからか、なんだか野性味が溢れていて大人の色気が半端ない。
ついでに自分も狼になって鼻が効くようになったからか、とんでもなく良い匂いがラインハルトからする。
すっきりとした清涼感があるのに、甘ったるくて、吸い寄せられる様な匂い。
ヤバイ。何コレ。
ラルフがカッコ良過ぎて死にそう。
胸がキュンキュンしだして苦しくなり、ぎゅうと胸のあたりの服を握り込んで抑えつける。
「……うっ!」
見るとラインハルトも口元に手を当てて、苦しそうに眉を顰めながらガクッと膝をついていた。
「……これはヤバいな」
「え?」
何がヤバいのか聞こうとしたが、気付けばラインハルトに抱えられてダンジョン内を疾走していた。
ルティカには何がどうなったのか分からなかったが、しっかりと抱き抱えられているため、ラインハルトの良い匂いにより一層包まれている事だけは分かった。脳の芯から痺れるような甘い香りに酔いしれて、段々何も考えられなくなっていた。
そしてあっという間にダンジョンから出てホテルに入り、お互いに貪る様に求め合い、気を失うまで愛された。
それからの記憶は曖昧で、意識がはっきりとしたのはあれから三日経った朝だった。
◇
落ち着いてから二人で話し合うと、お互いを獣人の番と認識したのではないかという結論になった。
今は見た目は平静を保てているが、やたらとラインハルトがキラキラとカッコ良く見えるし、痺れる様な良い匂いはするわで、キュンキュンしっぱなしのルティカ。
そんなルティカから発せられる甘い香りと、愛らしく自分をうっとりと見つめる瞳に、今にも襲い掛からんとする情欲を必死に押さえつけているラインハルト。
お互い愛し合っているのだから何の問題もないのだが、ソレばかりに感情を持っていかれるのはいささか困る。
「……コレ、外していいかな?」
「……そうだね。何か必要な時まで封印、で良いんじゃないかな?」
──という訳で、『レリコスの疾走』はお互いのアイテムBOXの中に仕舞われる事となった。




