第三百七十八話 賢者の自叙伝(中編)
2回で終わりませんでした(汗)
次の後編で何とか終わらせます。
明後日31日に何とか今年最後の更新としてUPできればと思っております。
和希は各地を転々と旅する途中に魔族という魔法に長けた者たちが住む地があることを耳にした。
魔法に長けた者と聞いて、賢者であり魔法の深遠という固有スキルを持った和希は興味を持ちその地に赴いた。
その地は、今でいう魔族領のことみたいだ。
今では断絶というかほぼ国交はない魔族領だが、どうも和希の生きていた時代には細々とではあるが国交があったようなのだ。
和希は魔族領に向かう商人の護衛という形で魔族領のアンドラス国に入国した。
そして、そこに住む魔族たちの姿を見て驚いた。
事前に何度も魔族領に行ったことのあるその商人に「我々とは見てくれが大分違いますが、付き合ってみるといい人たちですよ」とは聞いていたものの実際に見るとやはり驚いたそう。
姿は人と変わらないが、肌が青かったり背中に蝙蝠の羽根のようなものを生やした魔族、肌の黒いエルフでファンタジーで言うところのダークエルフ、獣人は獣人なのだろうが和希の見たことのある獣人とは大分違った正に獣が二足歩行している獣人、知能は自分たちと変わらないが見てくれがオークやゴブリンにそっくりな種族までいたのだというから、和希の気持ちも分かるというもの。
驚きはしたが、逆にファンタジー要素満載な魔族領の人々にさらにこの地について興味津々となった和希。
護衛をした商人のとりなしもあって、人族と多少なりとも交流のあった村に滞在させてもらうことになった。
最初は戸惑いがちに和希を遠巻きに見ていた村人たちにも、時間が経つにつれて和希に害意がないことが分かってもらえて、少しずつ仲良くなっていったそう。
小さな村ではあったが、和希にとって学ぶことは多かったようだ。
それまで見たことのなかった結界魔法や魅了や混乱など精神に効果を発揮する魔法、飛行魔法までを使いこなす村人には和希も舌を巻いた。
こういう魔法が使えたのは、青い肌の魔族や蝙蝠の羽根の魔族、ダークエルフだったそうだ。
適性がなければ使えないぞという村人をよそに、賢者の自分なら大丈夫だろうというか絶対大丈夫だと信じて和希は村人に魔法を教えてくれるよう懇願した。
村人たちは「村の使い手なんて大したことはないんだけどね」とボヤいたそうだけど。
村人曰く、大きな街に行った方が魔力の多い者も多くいてそれなりの使い手もいるという。
何でも結界魔法は魔力を込めれば込めるほど堅牢に、魅了や混乱など精神に効果を発揮する魔法は魔力を込めれば込めるほどより強く長く精神に影響を及ぼし、飛行魔法は魔力が多いほど飛行できる時間が長いというのだから村人の言うことも分からなくはない。
しかしながら、和希は豊富な魔力の持ち主であり固有スキルの魔法の深遠もある。
使い方さえ分かれば何とでもなった。
そのほか二足歩行の獣人たちからは身体強化の一種を学んだそう。
何でもこの二足歩行の獣人たち、狼やら虎やらライオンやらといろいろといるようなのだがすべてにおいて力が強く動きが素早い。
力が強いのは獣人の種族特性だというが、動きの素早さについては魔力を使っているそう。
そこを教えてほしいと和希は獣人に教えを乞うたそうだけど、この獣人たちどいつもこいつも教えるのが下手なうえに脳筋ばかりで苦労したと和希のボヤきが書いてあった。
原理は体中に魔力を漲らせて筋肉の動きを補助するような感じらしいけど、これを使いこなすには慣れることが一番だそう。
実際、魔族領の獣人たちは小さなころに教わるらしい。
それでも和希は短期間で瞬間的にだが使えるようになったというから、さすが賢者というところか。
それから見た目オークのオーク族(そのものズバリでそういう種族なのだという)からも魔法を学んだようだ。
オークが得意だったのは身体硬化(これも一種の身体強化の魔法なのだろうが)の魔法と一種の付与魔法。
身体硬化というのは体の表面に薄く魔力を纏い体を硬化させて魔法攻撃や物理攻撃のダメージを受けにくくし、付与魔法はその延長で持つ武器に魔力を纏わせて耐久力や攻撃力を上げるということらしい。
教わった村のオークは、自分の仕事道具であり武器でもある斧をなでながら「本当は、火魔法の使い手なら武器に火を纏わせるってこともできる。俺も火魔法は使えるが、それをやるとすぐに魔力が尽きるからな。俺の場合はこいつの耐久力と切れ味を上げるくらいだ」と言って苦笑していたそうだが。
それについて和希は興奮したように“耐久力と切れ味を上げるくらいだって言ってるけど、これすごいことだからね! この魔法は魔力をそれほど必要としないし、これって上手くやれば木の棒でも立派な武器になるってことなんだからな!”と書いてあった。
魔法特化の和希ではあるが、いざというときに少ない魔力で武器を強化できるこの魔法は心強いものだったんじゃないかと想像した。
実際、そういういざという場面が幾度かあったのか“オークから学んだ魔法は本当に役立ったよ……”としみじみとした口調で書かれていた。
ゴブリン(こちらもズバリのゴブリン族というらしい)からは、いろいろなポーションの作り方を教わったようだ。
ゴブリンは手先が器用らしく、魔族領ではポーション作りを一手に引き受ける一族だったらしい。
和希もポーションについては一通り作れるようになっていたが、自分の作るポーションよりも効果の高いゴブリンの作るポーションについては学ぶ価値が大いにあったと書いてあった。
そんな感じで村でいろいろと学びながら過ごすうちに、魔族領についても知るようになった。
魔族領には、和希がいたアンドラス国のほかキマリス国とラウム国の3か国があり、小さな諍いはあるものの3か国の関係は悪くないという。
それというのも、魔族の住む土地は狭くこの大陸に住む魔族はこの3か国にいる国民のみで圧倒的に数が少ないのだ。
「えっ、そうなの?」
和希の書いた本を読みながら、思わず小声でつぶやいてしまった。
この本で判明したが、何と魔族領はこの大陸の半島部分なのだという。
村人から聞いた話として、魔族領を海沿いに歩いてぐるりと回るのにゆっくり行っても1か月もかからないと書いてあったので、それほど大きくはないことが想像できる。
俺を召喚し、魔族領に隣接した今は亡国となったレイセヘル王国でさえ魔族領がどういう土地なのか知りあぐねていたというのに、まさかここで知ることになるとはね……。
さらに本を読み進めると、何故そこに魔族が住み着くようになったのかが書かれていた。
魔族領に伝わる伝承があるらしく、それによると……。
遠い遠い昔、魔族の国から巨人族の住む島へと出港した船がひどい嵐に巻き込まれて遭難し、航行不能になった。
このままでは死を待つばかりの魔族の乗組員たちは、イチかバチか飛行魔法を使って陸地を目指した。
そしてたどり着いたのが魔族領の地だというわけだ。
どれくらいの魔族が魔族領の地にたどり着いたのかはわからないが、魔族領に暮らす魔族たちはおしなべてその子孫ということらしい。
「フ~……」
再び息を吐いて本から目を離した。
まさか魔族領についていろいろ知ることになるとは。
今現在、魔族領に隣接する国々は魔族領とは国交はないと聞いてる。
実は魔族領はこの大陸の半島部分であるとか、魔族領に住む人々は別の大陸にあるだろう魔族の国からやってきた魔族の末裔であるとか、これを知ってるのってもしかしなくても俺だけじゃないのか?
………………。
思わず頬がヒクついた。
落ち着け、俺。
落ち着きを取り戻すために、飲みかけだったブラックの缶コーヒーをゴクリと飲み込んだ。




