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とんでもスキルで異世界放浪メシ 作者:江口 連
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第三百七十九話 賢者の自叙伝(後編)

な、何とか間に合いました。
今年最後の更新です。
 和希は魔族の村に半年ほど滞在した。
 その間も和希は村の人から聞いた話を忘れられないでいた。
 魔族領の人々が海を越え別の大陸からやってきたということを。
 この世界にある未知の大陸―――。
 和希の好奇心が大いに刺激されていたようだ。
 その大陸はどの辺にあるんだろう?
 そこにはどんな国があるんだろう?
 どんな人たちが住んでいるんだろう?
 当時、和希はそんなことばかり考えていたという。
 今すぐには無理でも、いつかは行ってみたい。
 そのためにもっと魔族の人たちについて知りたいと思うようになり、和希はもっと大きな街へ行けないかと村人たちに相談した。
 しかしながら、それは村人たちから止められたそうだ。
 この村はわずかではあるが人族との交易もあるから大丈夫だが、大きな街には人族嫌いも多いというのが理由だった。
 何でも百数十年前に魔族領と接する人族の国と戦争があり、そのとき魔族にも多くの犠牲者が出たそうだ。
 種族によって多少の違いはあるものの、200から300年の寿命のある魔族領の人々にとってはまだ昔のこととは言えないものだった。
 その戦争に行った者や家族が犠牲になった者で未だ健在な者も多く残っている。
 そのうえ気性の荒い種族も大きな街にはいるのだ。
 そこへ人族の和希が現れたならば、いらぬ諍いが起こるのは目に見えていた。
 その話を聞いてしまっては和希も無理は言えなかった。
 名残惜しい気持ちを抑えて世話になった魔族の村に別れを告げ、和希は魔族領をあとにした。
 それから和希は再び冒険者に戻り、また方々を旅して回った。
 方々を旅して回る間も魔族の国があるという大陸のことが和希の頭から離れなかったそうだ。
 そして、魔族の村を離れて3年後、和希は依頼で訪れていた街の古本屋で面白いものを見つけた。
 転移の魔法陣の研究者オルヴォ・マイヤネンの研究日誌だ。
 オルヴォはどこかの国の男爵家の三男坊で、転移の魔法陣に魅せられてその研究者となったという。
 どこぞの国の研究機関に勤めていたようだが、転移の魔法陣ほど難解なものはないと言われるほどでそう簡単に成果が上がるものではなかったようだ。
 オルヴォは結局うだつの上がらない研究者として過ごし……って、そこはいいとして、それでもオルヴォは諦めなかった。
 一生涯をかけてコツコツと転移の魔法陣について研究して、それを書き残していた。
 そのオルヴォの研究日誌が7冊。
 羊皮紙に書かれたものではあったようだが、この時代というかこの世界では本と言えば手書きでどれも貴重なものだ。
 オルヴォの研究日誌も7冊で金貨15枚したそうだ。
 それでもそのころには和希も冒険者としてそれなりに名も知られて成功していたのもあって、すべて買い取ることにした。
 転移の魔法陣は、もしかしたら魔族の国があるという大陸へ行くのに役立つかもしれない。
 そんな思いもあって、和希はオルヴォの研究日誌を読みふけった。
 “魔法の深遠”を持つ和希がオルヴォの研究日誌を何度も読み込んで理解した結果、結論から言うと行ったことのない場所に転移することは不可能だということだった。
 何でも転移の魔法陣というのは、基本的に行き来するそれぞれの場所に設置しないといけないのだそうだ。
 さらにだ、その魔法陣の中に転移する場所の情報をどれだけ盛り込めるか、そしてどれだけその魔法陣に均一に魔力を行き渡らせることができるかによって転移する距離や正確性に違いが出てくるというのだから、確かに行ったことのない場所へ転移することなど不可能というしかないだろう。
 転移の魔法陣に使う文字も普通の文字であるはずもなく、それを習得するだけで普通なら10年はかかると言われているそうだ。
 その文字を使って魔法陣の中に転移する場所の情報を魔力が均一に流れるようになるよう書き込んでいくわけだ。
 もちろん場所が遠ければ遠いほど、その情報も多量に書き込まなければならず難易度が跳ね上がるというのだから、転移の魔法陣が近距離のものが多かったという話も頷ける。
 やっぱりダメかと落胆する和希。
 魔族の国があるという大陸へ行くためには、大海を越えなければならない。
 そうなると船という手があるが、海には海の魔物がいる。
 陸地に近い場所ならいざ知らず、遠洋に出ればシーサーペントやクラーケンなどSランクの魔物に襲われて海の藻屑と消えることになるだろう。
 船以外となると、魔族の村で教わった飛行魔法でという方法がある。
 魔族領に来たご先祖様たちも飛行魔法でやって来たわけだから。
 ただし、それはどうしようもなくて使った方法なわけで……。
 確かにどれくらいの距離があるかわからない大陸まで飛行魔法だけで行くというのはさすがに厳しいものがある。
 魔族の村を出てから飛行魔法も大分上達して自信もある和希だったが、途中で力尽きれば海に落ちて魔物の餌になるだけだ。
 それでも魔族の国があるという大陸を諦めきれない和希は考えた。
 そして、こう思ったという。
 これ、携帯式の転移の魔法陣とかあればなんとなるんじゃね?
 人を転移させることのできる転移の魔法陣はある程度の大きさになるうえ、歪んだり欠けたりした場合は正しく発動しない。
 そのため、しっかりとしてなおかつ平らな床石に描くのが通例とされてきた。
 だからだろうか、それまで和希のように携帯するという発想は生まれなかったようなのだ。
 和希が考えたのは、一方の魔法陣を今いる場所に設置して、携帯式の魔法陣を和希が持つというものだ。
 そして、飛行魔法で魔族の国があるという大陸を目指す。
 途中どうしても無理な場合はその携帯式の転移の魔法陣を使って転移して戻る。
 その場合、携帯式の転移の魔法陣は使った後は海にドボンなので使い捨てになってしまうが、自分の命は確実に守ることができる。
 和希は、魔族の国があるという大陸を目指すならこの方法しかないと考えた。
 そして、和希は携帯型の転移の魔法陣、言わば携帯型転移の魔道具の研究を始めた。
 それと同時に、飛行魔法は魔力量に依存することから、魔力量を増やすためにレベルアップも計っていったのだった。
 試行錯誤しながら1年後、携帯型転移の魔道具がようやく完成。
 魔法陣を小型化し、それを描く石板も特製だそう。
 何でも石板を、いろいろな貴重な材料を使って作った溶液に自身の魔力を10時間ほど込めた、俺にはよくわからないなんとか魔力溶液に10日間漬け込んだと書いてあった。
 とにかくそうやって準備した石板に小型化した魔法陣を描き、ようやく携帯型転移の魔道具が出来上がったというわけだ。
 研究をするにあたり購入した自宅にもう一方の転移の魔法陣も描き、テスト運用してみたところ上手くいった。
 和希はようやく念願の魔族の国があるという大陸へと向かったのだった。
 魔族の村で、ご先祖様たちは西の方角から来たということは聞いていたので、和希も一路西の方角へと飛んだ。
 しかし……。
 陸地などかけらも見えない大海原の真ん中で力尽きた和希は、最後の力を振り絞って携帯型転移の魔道具を発動。
 這う這うの体で自宅へと出戻ったのだった。
 魔力が足りないと実感した和希は、それからさらに1年かけてレベルアップを図り冒険者としてはSランクにまで上り詰めていた。
 そして再び魔族の国があるという大陸へと向かった。
 不眠不休で飛び続けて3日、和希がもうそろそろヤバいと思い始めたそのとき、うっすらと陸地が見えてきた。
 和希は最後の力を振り絞って陸地を目指した。
 そして、ようやく念願の魔族の国があるという大陸に足をつけた瞬間、限界に達した和希は気を失ったのだった。
 次に和希が目を開けたとき、この世の物とは思えないほどの美少女が目の前にいた。
 “好きです。結婚してください……”
 思わずそう口をついて出たとあった。
 ビスクドールのように透明感のある白い肌に薄い紫色の美しい目とサラリとした長い髪。
 野暮ったいブラウスとスカートの上からでも分かる豊かな胸とくびれたウエストのスタイルも抜群の超絶美少女。
 背中から見える黒い蝙蝠の羽根も彼女ならば可愛く見えたと書いてあった。
 この少女の名は、ジェナ。
 後の和希の嫁だった。
 このジェナの名が出てきて以降は、ジェナへの惚気しか書かれていないので割愛だ。
 まぁ簡単に言うと、ジェナに一目惚れした和希の猛烈アタックにジェナもコロリとなって2人は結ばれた。
 口八丁手八丁で和希はジェナの両親も何とか説得して2人は結婚。
 そして、冒険者として稼ぎながら2人で魔族の大陸を旅して回ったそうだ。
 それはいい、それはいいんだが、和希とジェナの初夜だの旅の途中の2人のロマンチックで熱い夜だのを読まされたときには、さすがにこの本をぶん投げてやろうかと思ったぞ。
 でも、まだ少し読み残しがある。
 とりあえず全部読まないとと、ブラックの缶コーヒーをグビリと飲んで心を落ち着かせてから再び読み始めた。
 2人で旅して回るうちに、巨人族の島との定期船が出ている街へとたどり着いた。
 魔族領にたどり着いた魔族の人たちが当初向かっていた巨人族の島だ。
 和希がいたころには定期船がでるほどになっていたようだ。
 どうせならということで、和希とジェナは巨人族の島へと行ってみることにした。
 そして、巨人族の島の冒険者組合(魔族の大陸ではこう言うらしい)で、サンデルという巨人族の青年と意気投合。
 島にいる間、臨時パーティーを作って3人で依頼を受けたりしていた。
 そして、サンデルから折り入って話があると切り出された和希。
 その話は何とサンデルの妹をもらってほしいという話だった。
 巨人族は女性でも2メートル近く、男性になると2メートル50センチにもなる。
 それからいくと、サンデルの妹は小柄過ぎて男性からは敬遠されがちなのだという。
 そのせいで20歳になった今でも結婚の話がなくて、本人がひどく落ち込んでいるというのだ。
 サンデルは人族でも和希なら信用できるし、小柄な妹とも合うのではないかと話をしたということだった。
 和希は最初はジェナがいるからと断ったそうだが、ジェナの方から会ったほうがいいと進めてきたそう。
 何でも、和希ほど強い男なら嫁が何人かいるのは当たり前のことということらしい。
 そんなわけで、和希はサンデルの妹と会うことにした。
 そして会ったサンデルの妹ヴァウラは、180センチ程度と巨人族としては小柄だが、褐色の肌に黒いウェーブヘアーのボンキュッボンッのグラマラスなラテン系美女だったそう。
 見た目だけならグイグイくるタイプに見えるヴァウラが“やっぱり私じゃダメですよね”とショボンとしているのを見て、そのギャップに和希もコロッといったようだ。
 結局、ヴァウラも嫁に迎えている。
 2人目の嫁ヴァウラを迎え、3人になった和希たち一行は再び魔族の大陸を旅して回った。
 その後はまたジェナとヴァウラへの惚気ばかり書いてあったので割愛だ。
 ケッ、嫁が2人もかよ。
 しかも美少女と美女とか。
 馬に蹴られて死ねばいいのに。
 などと思いながら、あと少しだと我慢して本に目を通していく。
 魔族の大陸をある程度旅したところで、ジェナとヴァウラから和希が来た大陸を見てみたいというリクエストが。
 それならばと携帯型転移の魔道具を使って転移した。
 何でも和希の特製の携帯型転移の魔道具は、魔道具に触れていれば転移可能とのことで、小型化されてはいるが3人でも問題なく転移できるのだそう。
 そして、今度は和希のいた大陸を3人で旅して回った。
 その途中、エルフのリュドミラに出会い、リュドミラからの猛烈アタックにより和希はリュドミラを3人目の嫁に迎え入れた。
 ………………。
 ハァ~?
 3人目の、嫁?
 その後はジェナとヴァウラとリュドミラの3人の嫁への惚気ばかりが書いてあった。
 辟易しながら目を通して、ようやく最後。


“ヴァウラを看取り、ジェナを看取り、僕はリュドミラに看取られることになるだろう。
 図らずも来たこの世界だったけど、これだけは言える。
 3人の嫁に囲まれて、それぞれとの間に子供も1人ずつ授かったし、僕は幸せだったよ。
 そうそう、1番大事なことを書き忘れてたね。
 この転移の魔道具だけど、新たに作った携帯型の転移の魔道具とつながってるんだ。
 それが置いてある場所は、もちろん3人の嫁の出身地だよ。
 それぞれ見つかりにくい場所に置いてある。
 君がこれを持つに値する人物であれば、転移してもまぁ大丈夫だと思う。
 それで、使い方なんだけれど
 ジェナの出身地へ行く場合は「ジェナ、愛してる!」
 ヴァウラの出身地へ行く場合は「ヴァウラ、愛してる!」
 リュドミラの出身地へ行く場合は「リュドミラ、愛してる!」
 と転移の魔道具に向かって叫んでくれればOKだよ。
 あ、日本語でだよ。”


 ………………。
 ゴァァァァァァァ――――ッ。
 何でお前の嫁の名前を言って愛してるなんて叫ばないといけないんだよーっ!
 叫びたいところを唇をかみしめてグッと堪える。
 アホッ、アホッ、アホーッ!
 ハァ、ハァ、落ち着け、落ち着くんだ、俺。
 フーッ。
 しかし、和希め、こいつ俺の前にいたら絶対に殴ってるな。
 ちなみにこいつだが(もうこいつ呼ばわりでいいわ)、魔族の大陸のダンジョンでエリクサーを見つけて寿命が3倍くらいに伸びたみたい。
 嫁の惚気が書いてある合間にチラッと書いてあったわ。
 で、エリクサーなんだけどこいつが言うには、不老不死の秘薬というわけじゃなく、実際はその完成度によってケガや病気、欠損部位なんかを直して寿命を延ばす薬っていうのが正しいようだ。
 だからスイ特製エリクサーは劣化版だから寿命までは延びないんだな。
 ま、それはいいとして。
 この本、なんか読んで損した気分だぜ。
 睡眠時間削ってまで読むんじゃなかった。
 ハァ~。




皆さん良いお年を。
2018年も『とんでもスキルで異世界放浪メシ』をよろしくお願いいたします!
来年最初の更新は1/8頃を予定しております。
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