閑話 半年後の子どもたち
本日、WEBコミック誌『コミックガルド』にてコミック7話目更新してます!
『コミックガルド』↓
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それから、ついにコミック1巻が12月25日発売です!
「「「「「おかえりー」」」」」
1日の仕事を終えて屋台を引いたメイナードとエンゾが孤児院に戻ると、その周りに小さい子たちが群がった。
「ただいま」
「みんな、ただいま」
小さい子たちは2人を囲んで「お肉ー」「お肉、お肉」「お肉ちょーだーい」と騒ぎだす。
成長著しい子どもたちはいつだって飢えているのだ。
「ったく、しょうがないなぁ」
そう言いつつも、子どもたちのために屋台の準備を始める2人。
ここで育ったメイナードとエンゾの2人にとって、ここにいるみんなは家族であり、年下の子たちは弟妹といっても過言ではなかった。
そして、腹を空かせたこの子たちの腹を満たすことは、2人にとって孤児院ひいては院長先生方への少しばかりの恩返しでもあった。
食欲旺盛な育ち盛りの子どもたちばかりがいる孤児院で1番金がかかるものといえば食費であり、そのことに院長先生をはじめシスター方はいつも頭を悩ませているのを2人とも知っていたから。
「モツが残ってるから、串焼きやいてやるから。みんな大人しく待ってな」
今では、トリッパ風モツのトマト煮込みは2人の屋台の名物で毎日売り切れてしまうため、みんなに作るのはモツの串焼きだ。
ジュウジュウと音を立てて焼けていくモツの串焼きからジュワリと脂が滴り落ちていく。
そして、辺りには肉が焼ける香ばしい香りが。
その香りを嗅ぎつけた子どもたちがワラワラと2人の屋台の周りに集まってきた。
みんな涎を垂らしながら、モツが焼けるのを今か今かと待ち構えている。
「お、今日は間に合ったな」
集まった子どもたちの後方からそう声を上げたのは、メイナードとエンゾと同じく年長組の冒険者を目指しているルイスだった。
「何だ、ルイスたちか。今日はもうダンジョンから戻ってきたのか」
「ああ。連携が上手くいって順調に狩りが進んだからな」
「そうそう、今日の狩りは上出来だったよな」
「うん。今日は6匹も狩ったし」
「しかも、運のいいことにワイルドチキンも出たしよ」
余程ダンジョンでの狩りが上手くいったのか、冒険者志望でルイスとパーティーを組む仲間たちが次々と興奮気味にそう言った。
「そうか。お前らも成長してるんだな」
「ハッ、当然だぜ」
エンゾの言葉に当然だと返すルイス。
「兄ちゃんと約束したからな。成長してなかったら合わす顔ないぜ」
そのルイスの言葉にルイスのパーティーメンバーも頷いている。
「ハハッ、そうだな。おっと焼けたな」
焼けたというエンゾの言葉を聞いた子どもたちが「ちょうだい、ちょうだい!」「お肉ー!」と殺到した。
「並べ並べー! ちゃんと並ばないとあげないからな! そんで、いつものとおり1人1本だ!」
メイナードが声を張り上げると、スッと子どもたちが一列に並ぶ。
並んだ子どもたちに1本ずつモツの串焼きを渡していくメイナードとエンゾ。
串焼きを手にした子どもたちは、嬉しそうにかぶりついている。
そこかしこから「美味しい!」と弾んだ声が聞こえてきた。
「今日は俺たちももらうぜ」
「ああ。どうぞ」
列の最後尾にいたルイスたちにも1本ずつ渡していく。
「む、何か前に食ったときより美味い気がする……」
モツの串焼きを食べたルイスの仲間の1人がそう言った。
「そうか?」
「相変わらず美味いのは分かるけど」
「フフフフ、分かるやつには分かるか」
「だなぁ」
「何だよ、もったいぶった言い方して」
「がんばってるのはお前らだけじゃないってことさ。な、エンゾ」
「そういうこと」
メイナードとエンゾがモツの串焼きを見てそう言った。
「ん? この串焼き何か変えたのか?」
「ああ。俺たちは日々味の研究を怠らないからな」
「そうだぞ。この串焼きのタレも、数日前から味を少しだけ変えてみたんだ」
「そうなのか?」
「ほんのちょっとだけどな。今まで入れてなかったハーブをほんの少し足してみた」
「わずかな差だけど、爽やかな酸味がほんの少し感じられると思う」
「このハーブを入れたことによって脂の多いモツもさっぱりといけて飽きのこない味に仕上がったと思うんだ」
2人にそう言われて、ルイスは串焼きをしげしげと見つめた後に味を確かめるように再び頬張った。
「モグモグ……、うーん、言われてみれば肉を噛み締めるとなんとなく酸味を感じるかも」
ルイスの仲間たちも再び串焼きを味わいながら「言われてみれば」とか「確かに」などとつぶやいていた。
「2人も努力してんだなぁ」
微妙な差だが、少しでも味を良くしようという2人の気概にルイスがしみじみとそう言った。
「それこそ当然だ。こんなチャンスもらったんだからさ、怠けてたら師匠に合わせる顔が無いよ」
「だよな。串焼きだけじゃなく、俺たちの店の看板メニューのモツのトマト煮込みだってさらに美味さを追求して日々研究してるんだぞ」
「もちろん師匠から教わった基本はそのままにしてだけどな」
「兄ちゃんとの再会まであと半年か」
「そうだな。俺たち、師匠に食べてもらって絶対唸らせてみせるなんて大見得切っちゃったし。さすがにそれは無理でも少しは成長したところ見せたいしな。だからがんばるさ」
「だな」
「それを言うなら俺だって兄ちゃんに次に会うときまでにもっともっと強くなってるぜって言っちまってるし。でもよ……、また会うの楽しみだな!」
「そうだな!」
「ま、お互いがんばるしかないさ」




