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とんでもスキルで異世界放浪メシ  作者: 江口 連


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第三百六十四話 祭りのあとに

 肉ダンジョン祭りも終わり、そろそろカレーリナの街に戻ろうという話が出た。

 フェルとドラちゃんとスイ、特にフェルが「最後にもう一度ダンジョンに肉を獲りに行こう」と言い張っていたけど、さすがに止めてもらったよ。

 俺のアイテムボックスだから入れることができているけど、既に中は肉ダンジョン産の肉だらけになってるからね。

 多過ぎる肉ではあるけど、カレーリナの家で待ってるトニ一家とアルバン一家、そしてタバサたち元冒険者たちへのいい土産にはなった。

 帰ったらダンジョン豚とダンジョン牛で美味い飯を作ってたらふく食わせてやろう。

 来年の肉ダンジョン祭りは、みんなで来てもいいかもしれないな。

 そんなわけで、俺はカレーリナの街に戻る準備を始めた。

 まずは、いつものとおり旅の間の飯の準備だ。

 うちは大食いがそろっているから、この辺の準備をしっかりやっておく必要がある。

 その場で作るってのもありっちゃありだけど、やっぱりしっかり準備しておいた方が楽なのは間違いないからね。

 ということで、せっせと旅の間の飯を作っていった。

 みんなの大好きなから揚げやらとんかつ、チキンカツにメンチカツなんかの揚げ物料理に加えてハンバーグやら生姜焼き、照り焼きチキンに肉多めの野菜炒めなどなど定番の肉料理をせっかくなので肉ダンジョン産の肉を使って作った。

 2日かけてある程度の準備ができた頃合に、メイナードとエンゾの訪問を受けた。

「師匠、本当に、本当にありがとうございました」

「ありがとうございました」

 メイナードもエンゾも感謝しきりだ。

 2人ともいいところまでいく自信はあったものの、実際に上位5位に食い込むことができるとは思ってなかったという。

「初参加で5位に入れるなんて、本当に夢みたいです」

「本当だよな。入賞してからは、いろんな店から誘いの話が来て忙しかったし」

 本当は2人とも、すぐに俺のところへお礼に来たかったそうだが、孤児院へいろんな店からの勧誘が殺到してその対応で大わらわでなかなか抜け出すことが出来なかったらしいのだ。

「まぁ、初参加で5位入賞だからな。周りも期待してるんじゃないのか」

「それは嬉しいんですけど、なぁ」

「うん。実は……」

 メイナードとエンゾの話によると、今後は自分たちの屋台を出すことにしたそうな。

 2人とも、肉ダンジョン祭りの前までは上位に入ることが出来たら、どこかの店へ修行もかねて勤めることを考えていたそうなんだけど、実際に自分で屋台を出してみて考えが変わったようだ。

「やっぱり自分たちの出したいものを出せるし、お客さんの反応を直に見れるっていうのは魅力だよな」

「うん。自分で美味いと思ったものを出して、お客さんも喜んで食べてくれるのはすっごい嬉しいし、そういうの見ちゃうと、どこかに勤めるよりもやっぱり自分の店を持った方がいいよなって思いが出てきて……」

 確かにそれはあるよな。

 お客さんの反応もダイレクトに伝わってくるし。

 何よりも勤めていれば、そこの店のメニューにある料理しか出せないし、雇われてるってことはどうしたって自分の思いどおりにはならないことも多々あるのは間違いないしね。

 で、いろいろ悩んで院長先生に相談したそうな。

 そうしたら……。

「自分たちでまずは屋台をやってみたらって。店も、孤児院にいる大工志望の子たちに協力してもらえばなんとかなるんじゃないのって言ってくれたんです」

 肉ダンジョン祭りで使った屋台の施設は商人ギルドを通して借りたものらしいからな。

 手持ちの資金は少ないけれど、みんなの協力が得られればなんとかなりそうだってことで自分たちで屋台を始めることにしたそうだ。

 今ならば肉ダンジョン祭りで5位に入ったって肩書きもあるし、繁盛させる自信もあると2人とも大いに張り切っていた。

「出すのはやっぱりモツ料理にするのか?」

「はい。師匠に教わった内臓の料理にする予定です。美味しいし、何より安く仕入れられるのが俺たちにとってはありがたいですから」

 何でも孤児院出身の冒険者たちの協力もあって、これからもモツを安く仕入れることが出来るのだという。

「モツを使うっていうなら分かってると思うけど……」

「内臓の類は足が早いから新鮮な物を新鮮なうちに使い切るってことですよね」

「そういうこと。そこだけは注意するようにな」

「「はい」」

「あ、そうだ。商人ギルドの人から話を聞いたんですけど、師匠のお店いい線行ってたみたいですよ」

「商人ギルドの人が『3日間営業していれば5位入賞間違いなしだったのに』って言ってました」

 メイナードとエンゾの話によると、俺の店は5位入賞にはいたらなかったけど何と13位に入っていたそうな。

 初参加で1日だけの営業なのにありがたいことだよ。

「それに、耳の早い料理人は師匠の料理に注目してますからね。既に真似し始めた人も出てきてますよ」

「へぇ~、もうか。ま、ホットドッグはそんなに難しいもんじゃないからな」

 そう言うと、メイナードもエンゾも何故かため息をついた。

「師匠から散々いろいろ教わっておいて何ですけど、普通はこういうのは絶対教えないし真似しようものなら取っ組み合いのケンカになりますからね」

「エンゾ、取っ組み合いってさすがにそれは盛りすぎなんじゃないの? たかがホットドッグだよ。パンだって腸詰だって元からあったものだし、それをちょっと組み合わせただけじゃん」

 この世界にあるもので何かって思ってホットドッグにしたんだしさ。

 パンだって孤児院製だし、そりゃちょっと形だけはこんな風にってコッペパンにしてもらったけど。

 それにソーセージだって、この街には腸詰を焼いた屋台なんていっぱいあるくらいなんだから腸詰自体それほど珍しい料理でもないわけじゃないか。

「師匠、甘いです。その元からあったものを今までにない組み合わせで出したんですから“ホットドッグ”は師匠のものなんですよ。何より、肉ダンジョン祭りで師匠がホットドッグを出してたのは周知の事実なわけですし。だから当然何の断りもなく真似をした奴には文句を言って止めさせる権利もあるんです」 

 そう力説するメイナード。

 そうは言われたってホットドッグ自体、俺が元いた世界にあったもので俺が考え出したわけじゃまったくないわけだしさ。

「別に文句なんて言うつもりないし、放っときゃいいよ。そんなことよりみんなが切磋琢磨して美味いホットドッグが食えるようになったほうが全然いいしね」

 そう言ったらまた2人にため息をつかれた。

「何ていうか、師匠らしいといえばそうなんですけど、必死でいろいろ盗もうとしてたのが馬鹿みたいですよ」

「ホントだな」

 2人の本音としては、俺がいろいろ料理を知ってそうだったからなんでもいいからとりあえず何かレシピを盗めればっていうことだったらしい。

「いや、普通に聞いてくれれば教えるし」

「そんなこと簡単に言うのって師匠だけですからね」

「そうですよ。料理人なら普通は絶対教えないですから」

「いや、俺、料理人じゃないし」

「何言ってんですか! 料理の腕は専門職並みでしょ!」

「そうですよ! というかそれ以上なんですからね!」

 そう言われてもねぇ。

 俺の場合はすべてネットスーパー様々というかさ。

 ネットスーパーで手に入れられる調味料類がすこぶる優秀なおかげともいうんだけど。

「俺が言うのもなんですけど、これからは簡単にレシピ教えちゃダメですからね」

 メイナードがそう言うから「約束はできないけど善処する」って答えておいたよ。

 するとエンゾが……。

「俺たちに教えてくれた内臓の料理に関しては絶対内緒でお願いします! 師匠のホットドッグと同じく耳が早い料理人が既に内臓の料理を試しているみたいなので」

「え、2人に教えたモツ煮込みもか?」

「ええ。内臓の下処理が上手くできないようで、クソ不味いものしか出来上がらないようですけどね」

 そりゃ当然だ。

 下処理をきちんとやらないと、モツは美味くないからな。

「ということで、俺たちは師匠から教わった内臓の料理で勝負していくつもりなんです。だから絶対に内緒でお願いしますよっ、絶対ですからね!」

「ちょ、ちょちょ、2人とも顔近いからっ。ってか、分かったよ! 絶対に教えないって」

 そう言うと2人ともホッとした様子だった。

 でも……。

「孤児院の子たちはどうなんだ?」

 モツの下処理には孤児院の子がたくさん携わってるんだけど。

「その辺は大丈夫です。みんなによ~く言って聞かせてありますから」

 なんだか分からないけどメイナードとエンゾがニヤリと笑った。

 おいおい、何をやったか知らないけど、その笑みは悪役っぽいぞ。

「それはさておき、俺たちもうそろそろ戻ろうかと考えてるんだけど……」

「えっ、もうですか?」

「メイナード、驚くことじゃないだろ。元々俺はこの街に住んでるわけじゃないんだしさ」

「それはそうですけど……」

「肉ダンジョンの肉もたくさん獲ったし、肉ダンジョン祭りも十分楽しんだからな」

「師匠にはもっといろいろ教わりたかったのに……」

「エンゾもそんな顔すんなって。2人とも肉ダンジョン祭りのときはよくやってたじゃん。大丈夫さ」

「でも、あの内臓の煮込みもっと美味しくするにはどうしたらいいかとかいろいろ聞きたかった」

「何言ってんだよ。そんなのはもうお前たちの仕事だ。いろいろ試行錯誤してどんどん美味くしてきゃあいいんだよ。お前たちの開発した“究極のタレ”とかいうやつもそうやって作っていったんだろ? それと同じだよ」

 そう言ったけど、2人ともまだまだ不安そうな顔をしていた。

「なぁにしけた顔してんだよ。来年の肉ダンジョン祭りにも来るつもりだから、それまでにもっともっと美味く改良しとけよ。楽しみにしてるからな!」

 俺の言葉にメイナードとエンゾが顔を見合わせた。

 そして……。

「「はいっ」」

「そうだ。話は変わるけどさ、孤児院にまたパン注文したいんだけど、言付けおねがいできるかな?」

 あのコッペパン、いろいろ使えそうだし、戻る前に多めに仕入れておきたいんだよね。

「はい、もちろんですよ。師匠のおかげで、最近めっきり減ってきたパンの注文も少し増えたんですよ。だから院長先生もはりきってますから」

 2人の話によると、俺の作ったホットドッグのパンが孤児院製だと聞きつけた料理人から注文が入ってきてるようだ。

「それじゃさ、明日の夕方そっち行くからさ、あるだけ買わせて欲しいって院長先生に言っておいてもらえるか」

 俺の時間停止のアイテムボックスに保存するなら、いくらあってもカビが生える心配もないしね。

「分かりました。それにしても師匠は太っ腹ですねぇ」

「これでも一応Sランクの冒険者だからな」

 ほぼほぼフェルたちのおかげだけど。









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― 新着の感想 ―
パンに肉とか挟むまで 130年かかったと聞きます。 現代人でムコーダさんは知ってただろうけど 現地の人は知らなかったわけで 思いつく人もいないんだろうなぁ。
ムコーダさんが3日間屋台をやってたら上位入賞確実だったってそりゃダンジョン豚と牛の上位種の合い挽きソーセージに味付けに胡椒も使ってるパンに挟んだ料理が鉄貨六枚で買えるんだからそりゃ1日だけでも13位に…
[一言] まぁムコーダさんからしたらあらゆる知識が自分が考えついた物じゃないからな、って気持ちわかります。料理のレシピも使ってる調味料も売ってる商品も異世界の先人達の知恵の結晶で、その恩恵に預かってる…
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