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虹の踊り子  作者: 魚の涙


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14/19

残電量

 基本機構が情報路の終端に存在する事は虹の踊り子から聞いていたが、その情報路の事を僕が道路として認識しているとは思っていなかった。

 その点に関連しては、操作盤の中で手に入れた情報は役に立った。

 虹の踊り子からは情報路は見ればすぐに分かると言っていたので、あの情報が無ければ今頃情報路を探して彷徨っていただろう。

 世の中何が役に立つのかは意外と分からない物である。

 そう、例えば……

「原子変遷制御!」

 危険極まりないケイの攻撃だが、守衛相手には有効である。

 ケイが飾り棒を向けた先で、立ち上がった守衛が情報路もろとも消失した。

 ……情報路を削らなければ最善なのだがな。

「ケイ、何度も言っているが情報路は巻き込まない様に」

 僕は口元に両手を添えてやや大きな声で注意する。数百メートル程先のケイに。

「何かさっきから妙に距離取られてない!?」

 ケイが大声で不満を叫ぶが、これは極めて順当な対応だ。

 声が届くのならば射程の外まで離れたい所だ。

「それにしても動ける守衛は結構多いな……。ケイ、前方の死体の上に覆い被さっている守衛、まだ生きている」

 手乗りルカが忙しく飛び回り、無力化していない守衛に僕にしか見えない赤い旗を立てて行く。

 その数は意外と多く、情報路の寸断具合と相まって完全に避けて通るのは困難だった。

「原子変遷制御」

 ケイが珍妙な低い姿勢で飾り棒を向けた先で、守衛が死体と情報路の表面もろとも消え去った。

「どうにかしてあれを再現出来ない物か」

 僕が独り言を漏らすと、手乗りルカは電力が不足していますと返答した。

 電力が十分なら再現出来るらしい。

 でもどうせ再現するのなら完全な機能で再現したいものだ。

 突然、全ての赤い旗が光り始めた。

 戦力を小出しにしても意味が無い事を察したのだろう。わらわらと守衛が起き上がる。

「うわあ!げ、原子変遷制御!」

 狼狽したケイが飾り棒を乱雑に振り回す。

 そのせいで情報路が数ヵ所所寸断された。

「情報路を巻き込むなと言っただろう!」

 僕が声を張り上げると、ケイは抗議の悲鳴を響かせながら飾り棒をこちらへと向ける。

 しかも飾り棒は稼働させたままだ。

 あ、これは死ぬ。

「緊急プロトコル作動。防壁を構築します」

 手乗りルカの声と共にけたたましい不快音が響き渡った。

 原子変遷制御を行う力場自体は不可視かつ無音だ。

 原子変遷制御の実施を観測可能なのは特徴的な変質音。

 空気が割れる様な、それでいてやたら軽い音が原子変遷された座標で発生するだけだ。

 手乗りルカが構築したと言う障壁がどんな性質だったのかは分からなが、何か強力なエネルギーを有する力場が発生したと言う事は何と無く理解出来た。

 目に見える結果としては、障壁に衝突した原子変遷制御の力場が四方八方へと拡散した痕跡のみ。

 一瞬にして無数の守衛が損傷し、情報路を含む周辺の構造物に甚大な被害を齎した。

 ケイ自身はその衣装が原子変遷制御の影響を受けない様な加工をされているのか、被害を受けていない。

「残存電力量が規定水準を下回りました。省電力サポートへ以降します」

 手乗りルカの姿がぷっつりと消失した。

 僕は聴覚に残存する不快音の余韻を振り払って、周囲の様子を確認する。

 それまで赤い旗によって示されていた無力化していない守衛が、赤い円と二つの三角形によって示される様になった。

 同時に何かの数値が無数に表示される。

 先程までは手乗りルカがこれらの情報を簡略化してくれていたと言う事だろう。

 虹の踊り子から渡された■■■■■■と表記された、現実反映補助と読めるアイテムは、きっとそんな機能を有していたのだろう。

 ともあれ、守衛はほぼ全て無力化された様だ。残存しているのは十数体程で、全て未稼働状態に擬態している。

 気を抜いた所で奇襲を掛ける算段だろうが、分かっていれば十分迎撃可能な数量だ。

 迎撃可能だが、わざわざ奇襲を待ったりはしない。

「し、死ぬかと思ったわ……」

 ケイが情報路にへたり込んでそう呟いた。まだ気を抜くには早いのだが、放っておこう。

 僕は数歩先に転がる無力化されていない守衛に飛び掛かる。

 それに反応して守衛が起き上がろうとするが、僕がその守衛を抑え付ける方が早い。

 ありったけの力を込めてその頭部を掴む。

 ばちりと音がして、僕は掌に電力を感じた。

 守衛は僕の重量を物ともせずに起き上がり、その両腕を僕に突き立てようとする。

 大きく振りかぶった両腕は、目的を果たす事無く背中側に落ちた。

 その守衛は完全に無効化された。

「何とでもなるな」

 停止した理由は単純な電力不足だ。

 直接触れてしまえば数秒で停止させられる様だ。

「何したのよあんた……」

 ケイが僕を睨むが、答える義務は無い。

 僕は回収した電力を利用して残存する無力化されていない守衛に無線干渉を仕掛ける。

 これは電磁波密度の高い支都ならではの介入手段だ。

 がちゃがちゃと音を起てて十数体の守衛が起き上がり、走り出す。

 ケイが悲鳴を上げながら飾り棒を振り上げようとしたが、それよりも早く全ての守衛は落ちて行った。

 僕は細かい指定を何もせずに、ただ走れと簡単な指示を偽装しただけだ。

 ただそれは、足場の激減した支都において非常に危険な行為であったと言うだけの事。

 途中の構造物に引っ掛からなければ、第一層まで落ちて行っただろう。

 今は第一層では無く堆積層と呼ばれているんだったな。

 色々なモノが降り積もった、太古よりも遥かな以前には生活圏だった場所へ、守衛は落ちて行った。

 電力を吸い上げた守衛も、同様に落とす。

 底へ底へと落ちて行く守衛を、ケイが無言で見送っていた。

 操作盤で手に入れた記録では、旧文明の統治者達もまたそこにいるらしい。

 冷凍休眠技術で身体を保存して、VR技術で精神を保存して。

 果たして統治者達は何をしたかったのだろうか?

 永遠にそこに自己を維持したかったのだろうか?

 だとしたらそれは統治者達の墓場に他ならない。

 砂漠N周辺エリアに存在したピラミッドと呼ばれる構造物は王の墓場であるとされている。

 第一層と第二層の間。その曖昧な区画にその様な構造物が存在しているのだろうか?

「さっきから何なのよ一体」

 ケイがやけくそな吐息を漏らした。

「ちょっと寄る場所が出来た」

 ケイの言葉を無視した僕は踵を返した。

 ケイは抗議の声を上げて、逡巡の後に結局僕の後を追い始める事を選ぶ。

「ちょっと寄る所って、どこよ?」

 ケイの質問に、僕は足を止めて振り向く。

 今までケイの質問は無視するか答えるとしても視線を合わせないままだったせいだろうか、ケイが意外そうな顔で僕を睨んだ。

「先程、半狂乱になったケイが僕を攻撃しようとそれを向けたよね?」

 僕が飾り棒を指差してそう言うと、ケイは露骨に視線を逸らした。

「それを防ぐ為に僕は電力をほぼ使い切ってしまったのだが、何か言う事は?」

 少なくとも手乗りルカが起動出来ない程僕の電力量は低下している。

 今はまだ身体機能に影響を及ぼしていないが、これ以上の消耗は何らかの不具合を引き起こすだろう。

「も」

「も?」

「申し訳ございませんでした」

 不十分だが最低限の説明が終わったので、僕はケイに背中を向けて歩き始めた。

 後頭部に詳しい説明を求める視線を感じたが、面倒なので無視する。

 詳しい説明をすれば何らかの不平不満が返って来るのは明白だからだ。

 僕が目指しているのは支都で確実に電力を補充出来る場所。

 その条件を満たす場所は恐らくそこらじゅうにあるのだろうが、破壊されていない事を確認出来ていて、なおかつ比較的安全な場所と言えば一ヶ所しかない。

 昇降機の操作盤。

「ケイ」

 背後に声を掛けると、気の抜けた声が返って来た。

「ケイは接続主義者だよな?」

 過去に接栓座の存在を確認しているのだから、間違いは無い筈だ。

 僕の質問の意図を掴みかねているのか、ケイは狼狽えた声でそれを肯定した。

「そうか、それは良かった」

 僕のその言葉に、背後からはケイが狼狽える気配が伝わって来た。

 昇降機を出てから凡そ八時間が経過している。

 その行程を再度引き返すのだ。

 僕程ではないとしても、ケイの電力量もある程度低下しているだろう。

 昇降機まで戻ったら一旦補給休憩としよう。

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