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虹の踊り子  作者: 魚の涙


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13/19

三層都市計画

 旧文明の統治者連合が計画し実行しようとした三層都市計画とは、その名の通り都市を異なる三つの層で構築する計画だった。

 地表環境の浄化を行う無人層を第一層。

 第一層の制御と管理を行い、それに携わる人員の居住区となる第二層。

 下部二層の管理に携わらない大勢の人類と、残存する生物の保護と繁殖を行う第三層。

 結論から言えばこの計画は破棄され、第二層と第三層の区分は曖昧な物になった。

 計画が破綻し始めたのは人類が既存の生態系から逸脱する事を選択した時点。

 逸脱せざるを得ない程、そうでなければ種の存続が不可能な程、出生率は低下していた。

 それを拒む者達は惑星開発財団の呼び掛けに応え、新天地を求めてドームの外へと旅立った。

 旅人達のその後に関する情報には無い。

 情報はドーム内部での出来事に絞られている。

 ドーム内部は混迷を極めた。

 とりわけ食糧事情は深刻だった。昼夜が存在せず、雨も降らないドームの中では、旧来の食糧生産方法は全く役に立たない。

 僅か百年程の間に備蓄食料は当然、保護される予定だった多種多様な生物までも消費し尽された。

 そうやって事態がどうにもならなくなるまで何も出来なかった旧文明の統治者達は、並列統合収束統治の発足を一方的に通告した。

 要するに各々勝手にすると言う事である。

 統治者達は娯楽の一つとして残されていたVR技術と、多種多様な生物を保存していた冷凍休眠技術を利用し、第一層のどこかに姿を消した。

 取り残された者達は禁止されていた生物改良を自らに施した。

 こうして、逃げた統治者達以外のホモサピエンスは潰えた。

 しかし、付け焼刃の新種達もまた殆どが潰えた。

 生き残ったのは二つの種、肉体を捨てた電人と、肉体を改良し続ける増強者。

 電人は都市が生産し続ける電力によって生きる術を確保した。

 増強者は禁止されていた原子変遷技術を解放した。

 太古の二大企業、信電社と西日本産業公社の技術者達は人工食料を開発した。

 その後増強者達は二つに分かれた。

 西日本産業公社を母体とするグループは都市の上層へと集まった。

 彼等は人工食料とドームの外を開発する道を選んだ。

 信電社を母体とするグループは都市の中層に留まった。

 彼等は環境の浄化を再開させようとしていた。

 そして、原因は不明だが、電人と信電社系増強者との間で戦争が起きた。

 情報はここで途切れている。


 これが操作盤内部で手に入れた情報の要約。

 情報は断片的な手記だった為、全容を把握するのに十五時間以上も掛かってしまった。

 僕等接続主義者の起源に関しては分からないが、現実主義者は増強者の末裔なのだろう。

 であれば薬楽主義者は電人なのだろうか?

 僕が目にした事のある薬楽主義者は金属製の服を着込んでいたが、あの中は空っぽなのかも知れない。

 色々な事が分かった様で、その殆どは今役には立たない情報ばかりだった。

 虹の踊り子が所属していたと言う警察機構に関しては名前すら出て来なかった。

 警察機構だけでは無い。非拡散力場も無線神経接続も二重現実理論も、この手記の中では登場しない。

 当たり前の存在で記すに値しなかったのか、はたまた忘れ去られたのか。

 そもそも虹の踊り子は三層都市計画の結末を知らなかった。

 虹の踊り子が俗世から隔離されたのが相当古いと言う事なのだろうか?

 ひょっとして虹の踊り子は旧文明の統治者なのだろうか?

 もしそうだとするなら警察機構所属だったと言う点がどうにもしっくり来ない。

 それは話の印象でしかないのだが、虹の踊り子の言う警察組織は野卑な印象を受けるのだ。

 僕の印象でしかないので、旧文明の統治者がそんな風だったと言えばそれまでなのかも知れないが。

 考えても仕方ない、と思考を放棄しようとした瞬間、声が響いた。

「まもなく目的地に到着致します」

 僕は休眠モードを解除して立ち上がった。

 僅かに眩暈を覚える。

 接続もしないまま十五時間も休眠モードで座っていたのだから当たり前だ。

 手乗りルカがどこからともなく出現して僕の左側へ飛ぶ。

 視線でそれを追うと、だらしない恰好で寝るケイが視界に入った。

 起こそうと側頭部を蹴飛ばすと、二回転半して背中から内壁に衝突した。

 出力の調整が不完全の様だ。

「つあぁぁ。頭が痛い……?」

 猜疑心に満ちた視線が僕に突き刺さるが、気にしない事にした。

 ごおん、と重く響く音と振動が目的地に到着した事を知らせた。

「目的地に到着しました。扉が開きます」

 添乗員が身体を歪に折り曲げてそう言うのと同時に、扉が開いた。

「……なによこれ?」

 扉の向こうを見たケイが呆然と呟いた。

 ああ、予想以上だが、予想の範囲内だ。

 構造物は悉く破壊され、動く物は煙と炎だけだった。

 僕の予想通り、支都は壊滅していた。

 僕の予想より遥かに酷い状態で、壊滅していた。

 僕は昇降機の外へと歩み出る。

 少し遅れてケイも僕の元へと走って来た。

 背後で扉の閉まる音と昇降機の駆動音が響いた。

 昇降機がここに留まらないと言う事は、どこかで昇降機を使う者がいたのだろうか?

「……酷いねこれは」

 ケイが形容し難い感情を込めた息を吐いた。

 憐憫と、怒りと、嫌悪感だろうか?

 僕が歩く足場は所々が青黒い何かで汚れていた。

 恐らくそれらは薬楽主義者の体組織だろう。

 そして青黒く汚れた人型が、多数。

 それらは稼働していない守衛だ。見渡す限り全て機能を停止させている。

 僕はその惨状の中を歩く。

「……道路の寸断は上層より酷いわね」

 しばらく歩く内に幾分落ち着きを取り戻したケイがそんな事を言った。

「道路では無い」

 ケイにとっては些細な事だが、僕には大事な事を訂正する。

 もっとも、それを知ったのは昇降機の中で取得した情報を解析していた時だが。

「これは道路ではない。本来の道路は周囲に走っている透明なチューブだ」

 チューブの内側を専用の車両で移動するらしいが、その車両自体が完全に失われてしまったのだろう。

「僕が今歩いている足場の本当の名前は情報路。網目状に広がるこの情報路の先が、僕の目指す施設がある場所」

 ケイが後ろからそれはどんな施設なのかと聞くが、僕はそれに答えず歩き続ける。

 情報路の大本に存在する筈の施設。

 ネットワークを構築し維持する施設。

 基本機構を目指して。

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