私にそっくり
ユリと出会った私達は、先生と合流した方が良いだろうという話になる。
ついでにたまたま傍に掃除道具を入れてありそうなロッカーを見つけて、
「武器代わりに私は箒か何かを持っていっていいかしら。魔法が使えないし」
ネココに守ってもらえるとはいえ、いざという時は自分の身は自分で守らなければと私は思ったのだけれど、そこでネココが笑いだした。
「あはは、美咲ちゃん、面白いな。きっとその箒で叩けば一撃で精霊は倒せるよ」
「精霊がそんなに弱かったら、今こんなに大変な状態にもなっていないと思うの」
「そうかもねー、ぷぷっ」
何がおかしいのかネココはお腹を抱えるように笑っている。
失礼ねと思ったので顎の下あたりを撫ぜてやると、
「あっ、やめてぇ、感じちゃう、ごろごろ」
「ふふふ、所詮ネココもただの猫だったのね」
「ぁああっ、だめぇ~、ごろごろ」
嬉しそうに鳴いているこの様子を見ていてふと私は思う。
このネココが人型になっている所に……。
「うん、ただ猫をいじっているだけだと思おう。その方が良いかも」
「美咲、ネココの相手をしていないで、行くぞ」
リオンが不機嫌そうに私に言う。
やはり早くその精霊を捕まえたいのだろうか、リオンは真面目だjから邪魔しないようにしようと思う。
ついでに私はまだこの世界について良く知らなかったのでリオンに、
「精霊って、お化けみたいなもの? なんだよね。どうやって捕まえるの?」
「精霊と言っても捕まえられないような、透き通ったものは弱い精霊なんだ。強い精霊ほど質量があり、攻撃が物理的な意味でも魔法的な意味でも効く。但し精霊の場合その生まれた属性によって、攻撃を幾らか吸収出来る。確かあの身代わりの精霊は、水系統の精霊だからそちらの魔法攻撃は効かないだろう」
「そうなんだ。それで攻撃をして、どうやって捕まえるの?」
「ある程度妖精を弱らせると宝石のような石の欠片のようなものに変化する。それを壊せば完全に止めを刺す事になるんだけれど……」
「けれど?」
「その状態なら契約で縛って使役がし易くなるから、下手に再封印して何かの拍子に封印が解かれるよりは所在が明らかな方が良いだろうから、ユリが手に入れる事になるだろう」
どうやら殺したりといった血なまぐさい事にはならないらしい。
平和な現代日本出身の私には、そういったものは苦手なので出来れば遭遇したくなかったので良かったと思う。
そこで階段に差し掛かった私達は、下の階からマーサ先生が歩いてくるのを見つける。
青い長い髪に、金色の瞳がこんな時なのに楽しそうに揺れている。
「あら、こんな場所でお会いするとは」
「マーサ先生、まだその精霊の居場所は見当がつかないのですか?」
リオンが問いかけると、更にマーサ先生は笑みを深くして、
「ええ、まだ見つかっていません。でも貴方方がいるなら、私は下の階を見にに行くわ」
「成り代わりの精霊“レーシィ”は、他の人間に化けるのが上手いのです。一緒に行動した方がいいのでは?」
「大丈夫、貴方達は先に行って」
そうマーサ先生は再び階段を下に降りて行き見えなくなる。
そこでぽつりとリオンが、
「マーサ先生、おかしいな」
「ええ、あんな風にこんな事態でも単独行動をとる方ではなかったはずですが」
リオンとユリがそう呻いて、そこでリオン私を見て、
「マーサ先生は初めに会った時と同じだったか?」
「うん、相変わらず若い先生だったよ?」
その言葉にリオンが黙り、しばし沈黙して考え込んでから、
「そのマーサ先生は美咲の目にはどんな風に見えた?」
真剣な表情で問いかけられて私は、一瞬戸惑うもリオンが何を言いたいのかに気付く。
あの先ほどのマーサ先生はリオン達にとってはおかしいらしい。
そして私はあの笑みが邪悪なもののように感じてならないのだ。
だから私は私の見ているマーサ先生について、リオン達に話す。
「年齢は私達と同じくらい。髪は長い、青い髪に金色の瞳をしていたわ」
それを告げると、リオンがやっぱりかというような顔をして、ユリも真っ青になる。
おそらく先ほどのマーサ先生は、入れ替わっていたのだ。
私達があの職員室に来た時からずっと。
偶然私達が出会ってしまったのがあの精霊の運のつきなのかもしれないが。
そしてネココは省エネ状態なのでそのマーサ先生が偽物だと見抜けなかったのだろう。
奇妙な偶然が重なっているが、誰になり変わったか分かれば後はその人物を追いかけるだけで良い。そこで、
「あら、リオン君もここに来たの?」
「……マーサ先生」
そこに現れたのは黒髪の、50歳くらいの女性だ。
先ほどのマーサ先生とは全然違う、全くの別人にしか私には見えない。
けれどリオン達にはあの少女がこのマーサ先生に見えていたのだ。
そしてこのマーサ先生が来ると同時に他の先生方らしき人たちが何人もやってきて、その中で白髪交じりの男性の先生が、
「おや、リオン君も手伝ってくれるのかい? それは助かるな」
「キース先生、実は先ほどマーサ先生になり変わっている精霊が今、この下の階に向かって行くのを目撃しました」
「何だって! 何処だ! おうぞ!」
焦るようなそのキース先生の声につられて、他の先生が走りだす。
その後を追うように私達は走りだすが、
「先生達も凄い魔法使いなの? リオン」
「ああ、ここの先生方はそれぞれの魔法のエキスパートだ」
「だったら私達は追いかけて行くだけで大丈夫そうだね」
後は全て先生方に任せればいいのだと私は安堵する。
そうしたら後でリオンにこの学園を案内してもらおうと思って、次に自身の持っている箒に目を移す。
その前に子の箒を元のあった場所に戻さないといけないよなと思って私は走っていくと、その先にマーサ先生に化けていた精霊がいる。
その精霊は私達の方を見て、
「あー、見つかっちゃった」
そうくすくすと楽しそうに笑って……そこで私達の周りが黒い煙のようなもので視界が遮られる。
誰かが私のすぐ傍にやってきて、それまで私の肩に乗っていて状況を見守るというか何もしていなかったネココの重みが、私の肩から無くなって、
「酷いよ美咲ちゃん、僕を投げる事なんてないじゃないかぁああああ」
そんなネココの声が私からどんどん離れていく。
けれど煙で周りが見えず、どうしてネココが私から離れて行ったのか分からない。
やがて私達の周りに満ちていた黒い煙が晴れて行く。
そして周りの様子が少しずつ見え始めた所で、私は驚いた。
「貴方、誰、私にそっくり……成り代わりの精霊“レーシィ”ね!」
そこにいたあの成り代わりの精霊が、私に対して面白そうに笑いながら告げたのだった。




