変わった精霊を見かけたのですが
どうやら私は、精霊や悪魔、天使の本当の姿を見抜けるらしい。
「これって特別な能力なのかな?」
「どうだろう、力が強い者にはそういった惑わしの魔法が効かないとは聞いたことがあるけれど」
そこでネココがリオンと私の間に割り込んできて、
「だから、美咲は上位世界の住人だから大丈夫なんだってば」
そう笑うネココに、今の話を総合してみた私は、
「だったら私、凄く力を持った魔法使いなんじゃないかな? だって見破れるくらい強い力が私にあるんだよね」
「そうそう。でもそれってリオンには複雑なんだよね」
楽しそうなネココにリオンは小さく黙れと言っているが、
「やっぱり異世界の客人だから、何かあったらいけないものね」
「違う違う、やっぱりほら、男の子としては女の子にいい所を見せたいわけで、しかも……」
「それ以上言ったら、毎日の飴玉が半分になるがいいか?」
調子に乗ったようなネココに、リオンが怒ったように告げる。
それにネココは、
「うー、分かりました。これ以上からかわないようにします。それでどうするのですか? 闇雲に探していてもユリちゃんは見つからないかも」
「それはそうだけれど、人の気配を探す探査の魔法で一人づつあたっていくしか無い。だって俺は彼女と面識はあるが、あまり好意を持たれていないから」
リオンがそうネココに答えるのを聞きながら、私は首を傾げる。
確かに私がリオンと一緒にいた時間は短いけれど、
「リオンはこんなに優しいのに、嫌う女子がいるんだ」
「……基本的に皆俺を好まない」
「そうなの? ここに来たばかりの私にも親切だし、成績優秀で見た目もいいって来たら、女の子は放っておかないんじゃないかな?」
実際に学校でもそんな感じの男子は女の子に囲まれて楽しそうだった。
私は遠目でしか見ていなかったが、やはり文武両道なイケメンはモテモテなんだな―、という気持ちで見ていたので、リオンのその状態に驚いてしまう。
そんなリオンは少しだけ頬を染めて、
「……別に女の子になら誰にも好かれたいわけじゃないから」
「? もしかしてリオンは好きな子がいるの?」
「……うん。昔からずっと好きな女性がいるんだ」
「そうなんだ……」
どんな子だろうなと思いながらも私は胸がチクリと痛むのを感じる。
それが何故なのかはその時私には分からなかった。
そしてリオンはユリ達を探すために探索の魔法を使う。
リオンが小さく言葉を紡いでいく。
歌うような優しい声で口ずさみ、リオンの周りで光の粒がキラキラと輝きながら宙を舞い、やがてそれらは地面に落ちて魔法陣を描く。
ゲーム化何かの映像のようなそのエンジンは左右対称の模様になっており更に輝きが増していく。そして
「“探査の導”」
リオンが呟いたその言葉とともに、魔法陣から光が走る。
幾つもの線が細く伸びるように壁を縦横無尽に駆けて行く。
「この光が触れた場所に、人がいるかが分かるんだ。空気を駆け巡らせて調べる方法もあるのだけれど、攻撃魔法と間違われてけされてしまう場合があるから、あまり使わないんだ」
「そうなんだ。でもこれが魔法……初めて間近で見たかも。あ、でもその前にネココの変身を見たかも」
けれどどちらにせよ、現実に存在しないと思っていた魔法が見れるのが嬉しかった。
物語のように自由に色々な魔法が使えたらいいなと常々思っていたから。
そんな私にリオンが、
「もしも美咲が望むなら、これからもいろいろな魔法を美咲に見せる」
「本当!」
「うん、俺は美咲が楽しそうならそれでいいから」
そう告げるリオンは優しげな表情だ。
本当にこんな風に、少し私相手の緊張を解いてくれると、昔会ったあの子に似ているなと思いつつ、こんなリオンがモテモテじゃないなんて信じられなかった。
この世界の人は美的感覚がずれているのだろうかという疑惑も浮かぶが、このネココは自分で美形みたいなことを言っていたので、多分感覚は同じだと思いたい。
そこでネココが、
「むふふ、リオンはがんばっているな~」
「そういえばネココ、天使で思い出したが、この学園には上級の天使が封印されていると以前俺は聞いたことがある」
「へ、へぇ~」
「なんでもその見かけで何人もの女天使を弄んでいたが、二股かけていたのが彼女達にバレて、それから逃げるために自ら封印された外道だとか」
「酷い! 僕はその時はその子に本気だったのに! ……はっ!」
そこでネココは私達の冷たい視線に気づいたらしい。
慌てたようなネココだが、それを無視して私は気になったあることを聞いてみる。
「この探査の魔法で、その成り代わった精霊は見つけられないのかな」
「無理かな。この探査の魔法は、そこまで精度が良くないから人がここにいる、や、精霊達がいるということしか分からない。個別にもっと精度良く調べる魔法は、まだ俺達には公開されていない事になっているから」
「なっている?」
「……俺は知っているけれど、それを使うとちょっと色々複雑な問題があるんだ。そしてここには精霊やら何やらが色々な場所に封じられていたり、召喚されてパートナーとして存在しているから見分けられない」
「そうなんだ、簡単にはいかないんだね」
私はリオンの複雑な事情には踏み込まず、話を終わらせる。
そして魔法も思った以上に制限があるらしい。
けれどその制限があるからこそ、組み合わせの魔法は面白いのかもという期待が私に湧く。
やっぱり後で私もリオンから1つか2つ、魔法を教えてもらおうかなと思うがそこで、
「一つ上の階に人の集団がある。そしてあちらの方から一人こちらの方に走ってくる人間がいる」
リオンが呟くと同時に、私達の目の前の廊下、その曲がり角の先から足音が聞こえる。
それほど体重の載っていない軽い足音。
やがてその足音の主が姿を表した。
「はあはあ……リオン君? それに……」
彼女は私を見て目を瞬かせている。
もしかしたならこの世界のものでない変わった服装をしているから、気になったのかもしれない。
パステルカラーのピンク色の髪を顔の両方に三つ編みにして垂らし、彼女の瞳と同じ青い色のリボンで止めた可愛らしい、私よりも少し背の小さい少女だ。
彼女はリオンを見て少し怖がっているようにも見える。
何故だろうと私が思っていた所でリオンは、
「それでユリ、君が解いた成り代わる精霊の特徴を教えてくれないか」
私の時とは打って変わったようにリオンは無表情になり、ユリと呼んだ少女にリオンは問いかける。
そのユリと呼ばれた少女は、リオンに呼ばれてびくっと震えた。
「リ、リオン君もその精霊“レーシィ”を捕まえるお手伝いに呼ばれたのですか?」
「いや、たまたま春休みの課題の召喚が成功したから、マーサ先生手伝って欲しいと頼まれただけだ」
「そう、ですか。リオン君の実家の方々がそう判断を下したのかと……」
「俺は今は、実家との関係は良好ではないから、あまり関係はない」
「そ、そうなの……でもリオン君みたいな強い人に手伝ってもらえるのは嬉しいかな」
そう笑うユリだけれど何処かひきつったような表情でリオンを見ている。そこでリオンが、
「……誰かの役に立てたらと、少しは思ったから」
そう小さな声で答えた。
私はリオンは優しいな、でもリオンはもしかして天才的な魔法の使い手だったりするのかな、と思い……そこでユリの様子がおかしい事に気付いた。
顔色が真っ青になりがたがた震えだし、
「お、おかしい、こんなの。あの自己中心的で傲慢な嫌みな天才美少年と陰で言われているあのリオン君が、たまたま学校に来て、課題の報告をしたからって……そんなお手伝いをするなんて、天変地異の前触れ?」
ユリは頬に手を当てて、まさかまさかと繰り返しているので私は、あまりにも酷い言い草だと思って、
「リオンはそんなに自己中心的で傲慢な嫌みじゃないよ! あっているのは美少年だけじゃない! それにリオンは優しいよ!」
「優しい! 誰が? 冗談、冗談よね?」
「本当だもの。ここに私が召喚されてそんなに時間はたっていないけれど、私にはリオンは優しいし、さっきマーサ先生に頼まれて分かりましたって」
「……召喚された?」
「うん、異世界から私ここに来たの」
ユリは私をまじまじと見て、嘆息した。
「召喚されたから、貴方のご機嫌を取ろうと思って優し気しているだけかも……びくっ」
そこでユリは先ほどよりも顔を更に青くさせる。
良く見るとリオンが怖い顔をしてユリを見ていたのだが、なので私はリオンの手を握って、
「リオン、そんな風に女の子に怖い顔をしたらだめだよ。ほら、笑って」
「でも……」
「きっとみんな本当のリオンを知らないからそういうんだよ。それに私、リオンの笑顔が好きだし」
「美咲……美咲が好きなら、そうだな」
そこでリオンは破顔する。
その笑顔が優しさに満ち溢れていて、どう考えても誤解されているよなと私は思う。
だってリオンは先ほどからずっと私を心配してくれて、ここの学園だってこんな事になってしまったが、私が見たいといったから連れて来てくれたのだ。
冷たい人なら、そんな事はしないと思うのだ。
そこでユリが私を見て、次ににまにましているネココを見て、
「なるほど、分かりました。うん、それで手伝って頂けるとの事ですが、まずはその精霊“レーシィ”の特徴が知りたいと?」
「そうだ」
「その精霊は、私達と同じぐらいの年齢の姿をしています。髪は長く青い髪に金色の瞳をしています。見かけは可愛らしい少女で、黒い服を着ています」
それを聞きながらマーサ先生がそんな服を着ていて、青い髪に金色の瞳をしていたなと私は思い出す。
けれどこの世界の人々はまるでゲームやアニメのように、鮮やかな髪や瞳の色をしている。
だから別段おかしい物ではないと思うのだけれど、あの笑みを思い出すと嫌な予感がして堪らない。
そこでそれを聞いたリオンは、
「人型、なのか」
「ええそうですが、何か?」
「いや、このネココと美咲なら化けていても本来の姿が見破れるから、人街の姿であれば人の集団に紛れても見抜きやすいとは思ったけれど、人型なのか……」
「それに、その……ネココさんは悪魔というお話でしたが、天使のようですね」
ネココを見ながら言うユリだけれど、そういえば他の人にも見えるという事は、ネココは悪魔のふりを止めたのかもしれないと私は気づく。
そしてユリの視線に天使です、と何処か得意げなネココだが、そんなネココを見てユリは、
「天使は私利私欲とは関せず、人に害をなす“魔”を狩ると言われています。ですので悪い精霊がいたとしても彼のような天使がいるのでは、出てこないかもしれません」
「……大丈夫だ、この悪魔はお菓子に目がくらんだ駄目天使だから」
リオンがサラっと酷言い草で本当の事を言った。
ネココが酷いよリオンと責め立てているが、それをリオンが無視していると、
「ですがこちらの事情はあの精霊には関係ないのです。実際に私だって少し離れた場所からその、ネココさんの神聖な天使としての気配を感じられていましたし」
「……そうなるとネココをこの姿にしていると俺達の場所もばれるのか」
「ええ、ただそちらのミサキさんからはそういった気配がないので、ミサキさんに見抜いてもらえればいいかもしれません」
私に話が振られてえっと思うけれど、リオン達の役に立てるならそれも嬉しいかと思って、
「私、役に立てるなら頑張ってみる」
微笑む私にリオンは複雑そうな顔をしてから、
「……ネココ、いつもの省エネの形になって、美咲を守れ。見抜ける相手だと分かれば精霊も真っ先に狙ってくるかもしれないから」
「うーん、大丈夫だと思うけれど良いよ。大船に乗った気持ちでいてね!」
そう答えると同時に、ネココが省エネモードに変化する。
そして私の肩に座り、そしてユリが話し出す。
「本当は先ほどそれらしいなり変わった精霊を見かけたのですが見失ってしまって。その時に先生方からもはぐれてしまいまして」
「先生方らしい集団はこの一つ上の階にいるが、やはりあそこを警戒しているのか?」
「ええ、あそこには、大昔、この学園を半壊させて捕えている伝説の“漆黒の魔獣”があそこに封じられているのですから」
そうユリは深刻そうに答えたのだった。




