73 文化祭戦略企画クラス会議:後編
「──ナンだ! あの、インドのパンみたいなやつ!」
ナン。それはナーンとも呼ばれる、薄くて平べったいパンの一種だ。インドのほうでよく食べられるものであり、本格的なカレーにはこいつが一緒についてくることも珍しくない。お皿からはみ出るくらいの大きさと、ちょっとでこぼことした見た目は大きなインパクトを持っている。
「おれにはよくわからんけどさ、パンならある程度大量に作ることができるんじゃねえの? カレーだってでっかい鍋に作ればいいだけだろ」
「……いける! ガチなナンならヨーグルトとか使うけど、基本的には小麦粉と塩と水があれば何とかなる!」
「パンって発酵の時間とか必要じゃないの?」
「一時間もあればいけるよ! 早めに来て作り置きすれば問題ない! 発酵は放っておくだけだから、他の作業の邪魔にもならない!」
そして、焼き時間は概ね五分程度で済むとのこと。焼くのはフライパンでもオーブンでもいいらしい。下準備さえ整っているのなら、ほぼ作業時間は無いに等しいだろう。ついでに作業も難しくない。誰にでもできる、簡単なことだ。
「材料は……」
「小麦粉ならいくらでもあるよ!」
柊の視線を受けて、華苗は間髪を入れずに答える。あの五月の暑い日に収穫し、製粉した小麦粉はまだまだたくさん残っているのだ。正直腐らせてしまうことを心配するべき量だし、どのみち足りなかったらまた収穫して製粉すればいいだけの話である。
とりあえず、実現可能かつ現実的と言う観点において、ナンはこれ以上にないものだと言える。
「いいね! なんかちょっとユニークでおしゃれ!」
「確かに目を引く感じではあるな……でも、ただナンを売るだけじゃ芸がない。そうだろ?」
「カレー! カレーを付けよう! 紙コップにカレーを入れてさ、ディップして食べるの! これなら手軽に持ち運びできるし、手も汚しにくいよ!」
「ナンっつったらやっぱドライカレーか? あれなら鍋で一気に作れるな」
「どうせならいくつかバリエーション作ろうよ!」
話はとんとん拍子に進んでいく。具体的な指針が出来たからか、みんなもうナンで行くことに疑いを抱いていない。次から次へとポンポンアイデアが出てきて、田所がそのすべてを余すことなく黒板に書きなぐっていた。
「どうせなら全体をインド風で統一しようぜ! 内装も、衣装も、何もかも!」
「あは。それちょっと面白いかも!」
「インドカフェ? インドカフェ行っちゃう?」
「ジャスミンティーやろうぜ!」
「インドコスプレしてジャスミンの花飾りしたい!」
どうやら『インド風』を全体コンセプトにするらしい。内装や衣装もその方向で行くことになり、手先の器用な生徒や美術部、被服部の生徒は気が早くもその構想を頭の中で巡らせているようだった。
「えーと、とりあえず大きくまとめるよ!」
このままじゃ収拾がつかないと思ったのか、柊が大きな声をだし、一度全体を落ち着けさせた。
「やるのはナン。テーマはインド風。出来ればジャスミンティーもつけてカフェっぽい感じに」
うんうんとみんなが頷く。柊もにこりと笑ってそれに答え、華苗たちのほうを向いた。
「材料や調理については何か問題ある?」
「細かいところはともかく、ナンとドライカレーを作るってだけなら問題ないよ~! 少なくとも、最低限の体裁は整えられることは保証するよ!」
よっちゃんがその大きな胸をばーんと叩いて胸を張る。一部の男子がうっひょうと声をあげ、紳士な柊は表情を崩さず、視線をそこからずらしていた。
「小麦粉はいっぱいあるよ。カレーに使う玉ねぎやジャガイモも収穫すればたくさんあるかな」
「ジャスミンについてはどう?」
「……今はないけど、先輩に頼めば問題ないと思う。最悪、種か苗を買ってくれれば、私がなんとかして増やして育てられるから。ジャスミンティーに使う分も、アクセサリーにする分もそろえて見せる」
「それは頼もしい」
カツカツカツ、と田所が黒板にチョークを打ち付ける音が響いていく。新しく決まったことをもう一度きちんとわかりやすくまとめなおし、何が問題で何を解決するべきか、綺麗に色を付けて直していた。
もし華苗の身長がもうちょっとあったのなら、同時に空いている左手で、普通のノートにも記録を取っていたことが分かっただろう。相変わらず、田所の脳みその造りは普通の人とは違うようであった。
「それじゃ、一つ一つ詰めていこう。……やるのはナンで、今のところは紙コップに入れたドライカレーをディップして食べるスタイルってことだよね?」
そうだよー、とクラスのあちこちで声が上がる。
「さて、それを踏まえたうえで……カレーだけじゃちょっぴり寂しいって声も上がっている。要は、ヴァリエーションを増やせないかってことだ。いくつか種類を選べた方がお客さんの眼も引きやすいと思うし、僕としては種類を増やすってことに賛成なんだけど、みんなはどう?」
もちろん、反対する人なんていない。みんなもう柊の言葉なんて半分以上聞いていなくて、各々近くの人間とあれこれ意見を言い合っていた。
柊はその様子を見て苦笑する。『僕がいる必要、あるのかなあ?』何て言ってるが、クラスをまとめ上げ、あちこちに寄り道しそうになる話の流れをしっかりまとめ上げて誘導しているのは、紛れもく柊だ。
華苗たちもまた、周りに倣って三人で相談タイムとしゃれこんでいく。
「ナンのバリエーションねぇ……華苗ちゃん、何か知ってたりする?」
「私にそれ聞く? よっちゃんの方が適任でしょ?」
「や。そこはみんなで相談し合ったほうがいいでしょ~」
通常、ナンと一緒に出されるものと言えばカレーだ。そしてカレーにはいろんな種類がある。華苗たちが既に出すことを決めたドライカレーのほかに、チキンカレー、ポークカレー、シーフードカレーにグリーンカレーなどなど……それこそ、下手をすれば何百種類とあるだろう。
周りのクラスメイトもいろんなことを考えているらしく、華苗がちょっと耳を澄ますと、ユニークな意見が飛び交っているのが聞こえてくる。
「ナンだからカレーってのはちょっと安直じゃない?」
「あえてジャム行く? ジャム行っちゃう?」
「えええ……わざわざイロモノに走る理由はなくない? カレーとタメ張れる選択肢としてはなんか違うよ!」
「……シチューとか?」
「牛乳使うっしょ、アレ。ちょっと危険じゃない?」
「それ以前にナンとシチューって合うの?」
「じゃあ、プレーン。ナン本来のおいしさを!」
「「それはない」」
意見はどんどんと白熱としていく。が、基本的にはみんな料理の素人だからか、決定的なアイデアというものは出せないでいた。アイデアそのものは出てくるものの、そのどれもが実現性を帯びていないのである。
自然と、そのうちだれもがクラスの調理部であるよっちゃんへと視線を向けていた。
「今パッと思いついてるのは、だけど~」
こうなることをある程度予想していたのだろう。よっちゃんはすっと立ち上がり、黒板の前へと歩いていく。
「まず一つはドライカレー。これは絶対。普通のカレーを作るよりも手軽だし、元々ペースト状っぽいところがあるからね。食べやすさって意味でも最強」
いわゆる普通のカレーでは、ディップして食べるには少々不向きである。どの程度の水っぽさを持たせるかは作る人の裁量に因るし、持ち運びできるように紙コップを容器として扱うなら、必然的に最後に具材だけがコップの底に残ってしまうだろう。
その点、ドライカレーならそういった心配はほとんどない。レシピさえきちんと守ればほぼペースト状で問題なくディップ出来るし、普通のカレーほどゴロゴロと具材が入っているわけでもない。
「で、野菜は華苗の所に頼むからいいとして……問題はお肉。さすがにお肉なしってのは物足りないでしょ?」
「そらそうだ! 肉無しカレーとか夕餉のがっかりメニューナンバーワンじゃん!」
「そもそもドライカレーってお肉メインじゃなかった?」
「あれ? でもあれって挽き肉使うような……」
誰かのつぶやきに、みんなの顔にさっと暗い影が落ちた。
ドライカレーはミンチした食材にカレー粉、あるいはスパイスを加え、水分が減るまで炒めることで作るものである。刻むだけ、炒めるだけと調理そのものは非常に簡単ではあるのだが、当然のごとく、ここで使われるお肉も、ウィンナーやハムなどではなくミンチした肉、すなわち挽き肉だ。
そして、文化祭規定では加工済みでない肉は食材として使用してはいけないことになっている。
もちろん、よっちゃんがそのことを考えていないわけがなかった。
「その通り。ドライカレーの中で大きなウェイトを占める挽き肉は今回は使えない。だから……コンビーフを使おうと思う」
コンビーフならほぐして使えば挽き肉と大差ない。そして缶詰である故、文化祭規定にも引っかからない。もちろん、普通の挽き肉を使った時といくらか勝手は違うだろうが、そこは調理部である自分の腕の見せ所だ……と、よっちゃんは言う。
「ここまではある程度想定通りっていうか、みんなも考えていたことだと思う。それを踏まえて、あたしは別メニューとして……【ミートコーン】を推したい」
「みーとこーん?」
【ミートコーン】。聞きなれない単語にクラスの大半の人間が首を傾げた。もちろん、華苗も清水も、そのうちの一人である。
「皆川さん、詳しく教えてくれる?」
「ん。まあ、ぶっちゃけるとミートソースにコーンを入れた物って感じかな?」
コーンの入ったミートソース。具体例が出たからか、大半の人はその概要を想像することができたらしい。意外とありかも、いやいや、普通においしそうだ……などといった言葉が教室のあちこちから囁かれていた。
「ミートソースにももちろんコンビーフを使う。やっぱり材料は共通のほうがいろいろ楽だしね。あえてコーンを入れるのは、辛いものが苦手なお客さんのために、甘めの味付けも用意したいから」
「……そっか、辛いのがダメな人もいるもんね。文化祭だし、近くの小学校からもたくさん子供が来るって話だったっけ」
意外なよっちゃんの気配りに、教室の誰もが驚きを隠せていない。みんな自分が何を食べたいか、どうすれば美味しいものを作れるのかしか考えていなくて、実際にそれを食べるのは誰なのか、そういったことをすっかり失念していたのだ。
「そそ。でさ、あとは……トマトを多めにしてさ、ついでに少しチーズも使うの。ミートソースってよりかは、ピザソース風を目指す感じかな?」
「いける! いけるよそれ! 普通においしいし、紙コップに入れてディップするのにも問題ないじゃん!」
「ナンって結局パンだろ? じゃあピザソースが合わないはずがねえ!」
「むしろ普通に塗って一緒に焼いたほうがいいんじゃ?」
「や。そこはピザとして出すんじゃなくて、あえてナンのままのほうがインパクトはあるっしょ」
「あはは、そこはまぁクラスの意見を尊重するよ。とりあえず、あたしが言いたいのはドライカレーとミートコーンだけ。調理そのものの細かい調整は任せてくれて大丈夫!」
そこからいくらか話を詰めていき、結局はドライカレーとミートコーンの二本立てで行くこととなった。材料が共通していて作り方もほぼ一緒であり、誰にでも出来てそれなりに大量に作れることが大きな理由である。
ぶっちゃけた話、トマトが支配的かカレーが支配的か……ドライカレーとミートコーンにはその程度の違いしかない。少なくとも、よっちゃんが話したレシピを聞いて、華苗はそんな印象を受けたのだ。
二種類になったのは、あまり多くの種類を用意しても大変なだけなこと、作業スペースも有限であることからそう決まった。よっちゃんが出した案は奇しくも、実際の作業面においてもかなりの考慮がされていたということである。
「ねえねえ、よっちゃん?」
「ん、なあに?」
あらかたの意見がまとまり、田所が几帳面な字で内容をまとめているころ。そんなほんのちょっぴりの休憩時間に、華苗は少しだけ気になったことを聞いてみることにした。
「聞く限りだと、ミートソースとかピザソースって印象が強かったんだけど、なんでわざわざ【ミートコーン】って名前にしたの?」
あのとき、よっちゃんは皆の前で【ミートコーン】というオリジナルの単語を口にした。もしこれが聞いただけで中身がわかる名前だったのならともかく、少なくとも今回のケースはそれに当てはまらない。
となると、なぜあえてあの場でオリジナルの名称を使ったのか。
「ん~、そう大した理由じゃないんだけど……」
「けど?」
「……コンビーフの仲間にコーンミートってのがあってね。そこから連想で思いついたってだけ」
「……」
「……」
「オヤジギャク?」
「だね」
「な、なんだよう! 別にいいじゃないかよう! みんな喜んでるんだしさ!」
めずらしくよっちゃんが真っ赤になり、ぽかぽかと華苗と清水を叩いてくる。華苗も清水もぐるぐるパンチで応戦するも、文化部だけど運動できる系女子のよっちゃんに敵うはずもない。
やがて後ろへと回り込まれ、ぎゅっと抱きしめられ、そして脇腹をくすぐられることとなった。
「や、やめ、やめてってばぁ!」
「いや! やめぬ! 前言を撤回するまでやめぬ!」
「わ、わかか、わかったからぁ!」
このことは皆には内緒にしておこう……と、華苗と清水は固く誓った。ほんのちょっぴり乱れた髪を手櫛で直し、はあはあと荒くなった息を落ち着ける。恨みがましい目をしている二人とは裏腹に、睨まれているよっちゃんは大変にこやかな表情だ。
「うう……ひどいよ、よっちゃん」
「むしろ感謝してほしいんだけど? 揉めるほど胸があったら、そっちやってたんだからね!」
「ちょっ……! 私は華苗ちゃんよりかは断然あるし!」
「あ゛?」
「きゃあ、華苗ってばこわーい!」
「いくら二人でも、そこだけは譲れないからね!」
さて、そんなこんなで華苗たちが女子の戯れをしてしばらく。
「さて……料理についてはナンを提供。ドライカレーとミートコーンの二つを用意する。検討段階だけど、飲み物としてはジャスミンティーが準備出来れば上々。……うん、こんなところか。それじゃ、次に行こう」
ほくほくとした良い顔で柊が告げる。きっと素晴らしい案が出てきてくれて嬉しいのだろう。真面目で責任感の強い柊のことだ、もし企画書がうまくまとまらなかったら自分のせいだ……と思っていたに違いない。
一応、料理に関していえば上級生の企画にも通用しそうなものができた。となれば、次は衣装や内装についてである。
「さっきざっくりインド風って決めたけど、具体的にはなにかある?」
「サリー!」
「レヘンガ!」
「ガーグラチョリー!」
「踊り子衣装!」
「金ぴかのじゃらじゃらしたやつ!」
「あえて言おう! スケスケヴェールの踊り子衣装!」
「「それだっ!」」
驚くべきことに、声を上げたのは全部男子である。一体どうしてそんなマイナーな民族衣装を知っているのかと、女子たちは驚きを隠すことができない。そして何よりも、見え透いた下心に嫌悪を通り越して呆れしか覚えない有様だ。
「学校教育の場に相応しくないから却下なー」
当然のごとく、ゆきちゃんにより絶対命令が下る。しかし、一部の男子はそれでなお諦めようとしなかった。
「なぜですか! 先ほど述べた民族衣装はみな伝統のあるものなんですよ! それを一言で却下するのはあまりに横暴すぎる! これを機会にインドの文化や風俗を学びたいと思う人だっているかもしれないじゃないですか! ……ええ、確かに、我々が求めているのは一般的とは言い難い、少々……いえ、かなり露出が激しく、扇情的で、肌色面積が多いそれであるということは認めましょう。ですが、それが何だというのです? ゆきちゃん、あなたは芸術に邪な気持ちを抱いたりしますか!? 美術館に飾られた裸婦の絵画に芸術性や美しさを感じることはあっても、それ以外の気持ちを持つ人間なんているはずないじゃないですか! 美しいものは美しいんです! 我々が求めているのもそれと全く同じです! クラスメイトと言う身近な人間が、普段とは違う雰囲気の綺麗な衣装で身を飾り立てる……恥ずかしそうにはにかむその姿、いつもと違うあの子の表情。異国の空気と確かな芸術、それに身近な親近感……三位一体のこの素晴らしさを、今の我々には表現する術がありません。でも、確かにこれだけは言えます。ゆきちゃん……いや、ゆき! あなたは今、たった一瞬しかない儚い青春と言う燃え上がる炎を、高校生の輝かしい思い出を、杓子定規の凝り固まった愚かな考えでぶち壊そうとしているッ! それは決して、褒められることなんかじゃあないッ!」
「……よし、そこまで言うなら特別に認めてやる」
「ぃよっしゃぁッ!」
「ただし、男子限定だがな」
「……えっ」
「……ん? あんなに熱く語るほど着たいんだろ? 遠慮せず着るといい。恥かしがるなんてことはないんだ。何せ立派な衣装。男が着る分には教育の観点で見ても問題ないし、せっかくだからこないだ奮発して買ったカメラで先生がお前らの雄姿を撮ってやろう」
「いや、その、女性の衣装なのですが……」
「芸術に男とか女とか関係ない。美しいものはひとえに皆美しい。お前はさっき自分が言ったことを忘れたのか?」
「ごめんなさい」
「わかればよろしい」
やはり、ゆきちゃんは強かった。がくりと項垂れる男子たちを女子たちは見下すように見て、ゆきちゃんに称賛の言葉を送っている。ゆきちゃんも心なし、鼻が高くなっているようだ。
「男子の話はともかくとしてさ、正直あんまりガチなのはきつくない? 仮にも接客業でヒラヒラしたのを着てたら動きづらいし危ないでしょ?」
「そうだよね! それにそんなに可愛い衣装を汚したくないし!」
「じゃ、ワンポイント程度に抑える? クラスTシャツとかを着るなら、あえてそこまで衣装そのものに固執することはないと思うんだけど……」
「あ! ほら! さっき誰かが言っていたジャスミンの花飾り! 花冠ってわけじゃないけどさ、うまい具合にそれっぽいアクセサリー作れないかな?」
「「それだ!」」
女子たちだけで衣装の話が進んでいく。実利性の観点から上はクラスTシャツ、下は各々適当にそれっぽいのを自分で用意することになり、全体の共通アイテムとしてジャスミンの花飾りを作ることになった。
「ねえ、これは美術部とか被服部に任せてもいい感じ?」
「うん! すぐにデザイン案をまとめるよ! いくつか作るから、それから選ぶなり改善案を出すなりして!」
「技術面についてはこっちで何とかするか、あんま心配しないでいいよ。よっぽど変なものじゃない限りは何とかできるから」
何があってもいいように、ある程度簡単な造りで修理がしやすいものにしたいとデザイン担当の被服部と美術部が話を詰めていく。髪飾りタイプのもの、腕飾りタイプのものの二つを作ってみたいだとか、もっとオシャレな可能性を突き詰めたいだとか、ともかくそんな感じだ。
女子にとっては大変有意義なお話である。もちろん、華苗だって可愛い飾りをつけることに否はない……というか、かなり楽しみでワクワクしている。
が、男子にとっては特別楽しい話と言うわけじゃない。
「あ、あの、盛り上がっているところ悪いんだけどさ。出来ればその、男子の衣装についても意見を出してもらえると……」
さっきの件で比較的好感度を落とさなかった柊が、意を決して女子の輪の中に飛び込んだ。そのあまりにも勇気のありすぎる行動に、男子一同が称賛のまなざしを送る。
「男子? なんかテキトーでいいんじゃない?」
「いーじゃん、スケスケ衣装着とけばいーじゃん」
「やーよ、そんなの。絶対スネ毛で見苦しいって」
先程の一件を未だに根に持っているのか、女子たちの顔は険しいし、口から出る言葉もかなり辛辣だ。そして悲しいことに、男子の中には衣装についての知識を持つ人も、技術を持つ人もいない。これに関していえば、女子の手を借りないとどうにもならないのである。
「……ヤバい、なんか俺泣きそう」
「スネ毛で見苦しいのはわかってるけど、こう、面と向かって言われると……」
「……でも、それもなんかよくね?」
「おーい、いろんな意味で戻ってこーい」
なんだかんだで話し合いをしたところ、男子は頭にターバン風の何かを巻くという意見が出てきた。あくまでターバンではなく、適当に切った長い布をターバンっぽく巻いて誤魔化すというものである。衛生的な観点からしてもうってつけであり、いかにもインドっぽいため、それに反対の声は上がらない。
「ああ、あとあれよくない? おでこの真ん中についてるアレ。あれみんなでつけようよ!」
「玩具のビーズで代用できそうだし、いいかもね! 立体感がいらないってのなら、シールでもイケそう!」
最終的に、男子はターバン、女子はジャスミンの花飾り、そして男女共通でインドの人がおでこに着けるアレ……ビンディを模したシールを額に貼ろうということになった。このシールのデザインについてはクラスでシンボルマークを決め、模擬店の看板にも取り入れて入れることで、クラスの人間が文化祭をめぐるだけで宣伝効果を期待できる……という目論見である。
「……よし、だいたいこんなもんだろう。これならきっと認められるよ!」
長い長い話し合いが終わり、柊がいい笑顔で頷いた。企画そのものはもちろん、料理も衣装も内装も、何もかもがちゃんとまとまったのだ。これで嬉しくないはずがない。
「一応こっちで企画書は作っておくけど、細かいところは後でプロフェッショナルの人たちに話を聞きにいくからそのつもりで」
うぇーい、クラスのみんなが声をあげる。しかし実際に柊が力を頼ることになるのは、おそらく調理部、被服部、美術部がほとんどだろう。細かいことは気にしてはいけないのだ。
「それと、八島さん」
「ん、なーに?」
「まだ企画書が通るかどうかは確定じゃない──けど、僕は通ると思っている。だから、まだ収穫していないっていう作物……具体的には、トウモロコシ、ニンジン、ジャスミンの準備をお願いしたい」
「わかった。すぐには無理だけど、いつでもできるように掛け合っておくね」
華苗は園芸部だ。そして、この学校には園芸部は二人しかいない。自分がクラスのみんなに頼られていることを実感し、華苗はちょっぴりうれしくなって、小さくグッと胸の前で拳を作った。
「それじゃあみんな、各々準備を進めておいて。もちろん、今の段階で出来るところまででいい。ちゃんとしたのは企画書が通ってから……夏休みに入ってからだ。部活も勉強も大変だけれど、気を抜かずに頑張っていこう!」
「「おー!」」
そうして文化祭戦略企画クラス会議は終わる。それから二週間をかけて柊は企画書を作り上げ、委員会にそれを提出することに成功した。
満面の笑みのゆきちゃんが出店承認書を持ってきたのは、それから一週間後のことだった。
だいぶ脚色していますが、文化祭でナンを作り、ドライカレーとミートコーンの二つのヴァリエーションを用意したってのはガチだったりします。会話の流れや企画書でのアピールポイントもほぼそのまんま。違うところと言えば、ナンは冷凍のものを用いること、ドライカレーもミートコーンも缶詰や冷凍のミックスベジタブル等を駆使して混ぜて温めるだけにした……くらいでしょうか。
文化祭当日はひたすら缶開けと火の番、ウェイター(?)と運搬係をしていたために、具体的な調理方法をほとんど知らないのが残念な所。結局【ミートコーン】を一から考案したのは誰だったのか。もし高校生に戻れるのだとしたら、あの文化祭準備の日に戻ってしっかり聞いてみたいものです。
おそらく、私と同じクラスだった人が今回の話、さらにはこれからの文化祭での描写を見ると、ものすごい既視感に襲われると思うのですが……さすがに大丈夫、だよね……?
ある6ケタの番号と、【園島西】になんとなーく“らしさ”を感じたらおそらくビンゴです。




