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最近、街にプレイヤーという人が来ます。  作者: 月乃 そうま


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研究棟8


 歓声と共にプレイヤーの第二陣が研究棟になだれ込んで来る。


 宝石器の冒険者たちとルインがどれだけ戦い続けただろう。


 下手をすれば丸一日くらい経っているかもしれない。


 巨体、攻撃力に機動力まで手に入れた魔王ブレイクを鎮めの森の奥地から出さないようにするためにたった四人と、時折ゾンビアタックを繰り返すプレイヤー七人で、ここまで保たせただけで、驚異の活躍と言えた。


 プレイヤーからすると、夜七時組と夜八時組の違い程度の話だが、ゲーム内では丸一日が経っている。


 第二陣は敗れた第一陣の情報を共有していて、お互いにパーティーを組んだりとそれなりに対策を取っていた。


 プレイヤーにとってはキマイラ戦以来の大規模レイドバトルである。

 プレイヤーのほとんどがベータ版の終わりを予期したのか、異様なほどの盛り上がりを見せていた。


「経験値ウマウマらしいぞ!」「気持ち悪っ! 這い寄って来るぞ」「見ろよ、あのデカブツ! あれがボスか!」「は? 先に戦ってるやつらいるぞ?」「マジかよ!? いや、NPCじゃね!」


 戦い続けて、傷や返り血でドロドロになった鎧はNPCの証と言えた。

 プレイヤーの装備品は耐久値の問題で、傷はどうしようもないが、呪いのおかげで汚れは簡単につかない仕様だ。


 そんなNPCのルインに黄水晶から声が掛かる。


「金器! こっちを手伝え!」


 プレイヤーの数は数百はいる。

 これだけの人数がいれば、しばらくはルインが魔物処理に回らなくてもなんとかなりそうだった。

 ルインは魔物を斬り進み、魔王ブレイクの前に出る。


 問答無用とばかりに、近づいたルインに向けて蛇頭の触手が次々に襲いかかる。

 ルインは全力で避けた。


 何十という蛇頭がルインに迫る。

 無理にルインが攻撃しなくとも、その触手を引きつけるだけで充分な仕事と言えた。


「よし、今じゃ!」


 それを好機と黄水晶が攻撃に転じる。


 どこからか、笑い声が聞こえたような気がした。

 それも、下卑た卑しい笑い声だ。


「さあ、歌え、ホノミカヅチ!」


 何度目だろうか、安くない代償を払って黄水晶が吠える。

 使い込まれて刃こぼれし始めた魔導剣から青い炎が噴き出す。

 黄水晶は流れ始めた鼻血をそのままに、触手の一本を斬り落とした。


 蛇頭が一本、根元から斬り落とされて、奥にあるブレイクの固まった怒り面のような頭が覗く。

 下卑た笑いはその面の暗い穴の奥底から流れていた。


「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ……あと何発打てるよ?」


「ふん……お前を殺し尽くすまでに決まっておるわ!

 歌え、ホノミカヅチっ!」


 黄水晶の僅かに残っていた黒髪が白く色を失う。

 こめかみの血管は血流が止まったかのように太く大きく浮き出ている。


 さらに一本の触手が断たれた。


 そして、さらに……。


 突然、黄水晶の動きが止まる。

 黄水晶は喉の奥に込み上げてきたモノを堪えきれずに盛大に吐き出した。

 真っ赤な血だった。


 ぜひ、ぜひと身体に悪そうな荒い呼吸を繰り返す。


 ブレイクの【龍爪ドラグクロー】が、命を刈り取らんと迫る。


「ゼヒ……ゼヒッ……くおぉっ……!」


 『ホノミカヅチ』の刃がどうにか上げられ、黄水晶は壁まで吹っ飛んだ。

 同時に魔導剣が真っ二つに折れた。

 それきり、黄水晶は動かなくなった。


「くっ…ブレェェェィクッ!」


 ルインが叫び、新たに手にした刀を抜き打ちにする。

 【居合・水面月】水面に映る月すら斬れると言われた高速居合斬りは、それだけでブレイクの触手を斬ってみせる。


 ブレイクの意識がルインに向いた時、あの下卑た笑い声は止まる。

 【瘴気毒龍の牙(ヒュドラ・トゥース)】殺意を毒にした蛇頭の牙から滴らせる攻撃がルインを襲う。


 【花霞】相手の動きに合わせて身体をずらすことで攻撃を避ける独特な歩法で、毒の牙は紙一重で避けられる。しかも、ブレイクは大きな隙を晒すことになる。


 【居合・滝登り】上空に剣閃を飛ばすことで滝を割る一閃。これにより、ブレイクの怒り面、その片眼の暗がりに一筋の傷が生まれる。


「ぐあああぁぁぁっ!」


 硬い外皮の面の奥が弱点なのか、ブレイクの叫びが聞こえた。


 同時、ブレイクは麒麟の脚を使い、また走り始めた。

 大きな歩幅で動くため一瞬で外周に到達する。

 しかも、麒麟の身体中に生まれている目玉から無作為に放電しながらだ。


 その四足の動きにルインは一瞬だけ反応が遅れるものの、飛び退くことでどうにか放電を躱す。

 紅玉、青玉も追いつくことは適わず、最も被害が出たのは魔物とプレイヤーたちだった。


「おい、ボスが近づいて来るぞ!」「うお、轢かれる!」「痛え! 電撃一発で半分くらいHP持ってかれるぞ!」


 電撃を食らい、踏み潰され、プレイヤーたちの戦線は大きく崩れた。

 魔物たちが入口から外に出ようとするのを留めたのは、遅ればせながらリスポーンしてきた七人の冒険者たちだ。


「おお、第二陣がようやく来たか!」


 豆腐メンタルが喜びに声を上げる。


「豆腐さん、言ってる場合じゃねえ!

 魔物が抜けて来るぞ!」


 カービンが窘める。

 七人は慌てて魔物たちの対処に移った。


 魔王ブレイクとアジ・ダハーカの融合体は、走りながら金の粒子を集め、回復を図ろうとする。


 紅玉が爆裂針を投げる。青玉が狙撃する。

 ルインもあの手この手でブレイクの足を止めようと試みる。

 プレイヤーたちも同じだ。


「なんだよ、このボス! 雑魚を生んで、それを殺すと回復とかぶっ壊れかよ!」「放電に気をつけろ! レベル三十あっても二発で飛ぶぞ!」「さすがレイド! めちゃめちゃヤベエ! パターン読め!」


 あちらこちらで怒号や悲鳴が飛び交う。


 ルインと紅玉、青玉は戦い続けているのもあってか、少しずつ動きに精彩をかいている。

 戦いは泥沼化の一途を辿っているようだった。

 そんな中、アワツキの自爆魔法がブレイクに直撃する。

 麒麟の胴体部分が大きく抉れた。

 ブクブクと肉が盛り上がり、アジ・ダハーカは完全に回復に入っていく。

 動きが止まったのだ。


「今のなんだ?」「一撃でボスの身体、半分くらい爆散したぞ!」「げえ、肉片飛び散りまくりだぞ! 魔物が一気に増える……」


「動きが止まった。今だ!」


 紅玉が距離を詰めていく。


 ルインも後に続いた。


 ブレイクの視線は、それを見逃さなかった。


 【龍の咆哮(ドラグロアー)】が蛇頭のひとつから放たれる。

 紅玉とルインはそれを避けようとしたが、音の爆弾はそれを許さなかった。

 紅玉とルインは身体を大きくバウンドさせて、地面に叩きつけられるのだった。




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