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最近、街にプレイヤーという人が来ます。  作者: 月乃 そうま


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研究棟


 宝石器の冒険者たちは、天遣対魔騎士や数多のプレイヤーを犠牲に、アジ・ダハーカの前に立っていた。


 彼らがアジ・ダハーカを傷つける度に、その傷から流れ出た血が新しい魔物となる。


「こりゃ少々、骨が折れるな。

 おい、紅玉ルビー青玉サファイア、お前らその辺の掃除に回れ!」


 黄水晶シトリンがアジ・ダハーカに新しい傷をつけながら言う。


「ふざけんな、ジジイ!

 そういうのはジジイがやれよ!」


 紅玉が言い返すと、青玉が小さく首肯した。

 紅玉も青玉も、アジ・ダハーカという一番の獲物を譲る気はないようだ。


「邪魔なもんは自分で片付けるのが筋ってもんだろ!」


 細身の金棒でアジ・ダハーカを抉った血肉から湧き出した魔物を叩き潰した縞瑪瑙オニキスが当たり前という風に言う。


「雑魚を潰したところで、楽しくないじゃろ。

 だが、雑魚ばかり増えるのは、いかにも邪魔だ。

 こういう時は年上を尊重するのが道じゃろうが!」


「老い先短い老年は、若者のために道を拓いてくれるもんだろ!

 雑魚が邪魔だなんて、言い訳に過ぎないね!」


 黄水晶に紅玉は言い返す。


「おい、手前で出したゴミは手前で片付けろって!」


 結果、縞瑪瑙が雑魚掃除に回るしかなくなってしまう。

 アジ・ダハーカの周囲の雑魚魔物くらいは、掃除しないと、動き回る隙間もなくなってしまう。


 しかし、アジ・ダハーカに攻撃を仕掛けるのが三人で、周囲の魔物掃除が一人。

 縞瑪瑙が対多数用の技を山ほど持っているのでない限り、当然、釣り合いが取れない。

 しかも、他の三人は縞瑪瑙に配慮したりしない。


 アジ・ダハーカもただやられるばかりではなく、鱗の一枚、毛の一本から多彩な攻撃を繰り出す。

 氷柱が飛び、炎が放射され、角が伸びて、刃が飛び出す。


 それでも、だ。

 それでも、宝石器の冒険者はアジ・ダハーカを圧倒する。


 足場が魔物で埋まるのなら、魔物を足場に跳ぶ。

 自分の身体と同じくらいの氷柱をものともせずに両断して、その鱗と周辺にまとめて刃を突き立てる。


「ははっ……手数が多いだけのウスノロだな、邪龍!」


 紅玉が足甲の仕込み刃で、アジ・ダハーカを大きく切りつけて笑う。


「おいおい、俺様の手駒になる魔物を、そんなにいじめてくれるなよ……」


 声が聞こえて、紅玉が足場にした魔物の背中を裂くようにして、金の刃が生えたかと思うと、紅玉の左足がバターでも切るように、ポンと飛んだ。


「うっ……あああぁぁぁっ!」


 紅玉の足に遅れて痛みが走る。

 それくらい鋭い切り口だったのだ。


「うぁ……!」


 青玉が慌てて、紅玉を引っ掴んで跳んだ。

 その瞬間、魔物が真っ二つになって、中から現れたのは、金の右腕、金の右胸、腹も金、更には右足も金に侵食された男。ブレイクだった。

 全身に魔物の血を浴びて、赤く濡れている。

 申し訳程度のポイントアーマーが左肩、左胸、腰を守っているが、鎧が必要とも思えないほどに筋骨隆々な身体をしている。


「なんじゃ、おヌシ、魔王のなりかけか……」


 黄水晶がブレイクを見て言った。


「ああ、そんなところだ……。

 こっちが気持ち良く寝ていたら、起こされちまったからな。

 魔王たる俺様の眠りを妨げた罪は重いぞ……」


「ふんっ!

 おいおい、鬼道に堕ちたヤツまで飼ってんのかここは……」


 縞瑪瑙が雑魚魔物を処理しながら面倒そうに言った。


「ふん……お前ら程度に何を言われても、怒る気にはなれんな……。

 まあ、コイツの力を見るにはちょうどいいか……」


 ブレイクは左手に握った戦斧を肩に掛ける。

 巨大な戦斧だ。


「ちくしょう、油断した……」


 紅玉が恐らくはかなり高価と思われるポーションを取り出し、青玉が拾って来た紅玉の飛ばされた足を無理やり繋げようと、バシャバシャとポーションを使う。


「それ、瘴気武器だろ。

 重そうだから、コーリンが使うには不向きそうだけど、一応、コレクションにしてやるよ。

 少し待ってな!」


 紅玉の物言いに、青玉も自身の瘴気武器を握り締めて、頑張るといったポーズを取る。


「なんだ、コイツが欲しいのか?

 まあ、俺に勝てるなら好きにすりゃいいさ」


 ブレイクは半笑いで、興味がなさそうだった。


「ああ、好きにさせてもらうよっ!」


 紅玉は治りきらない足のまま、両手を使って空中に跳んだ。

 そして、そのままブレイクへと鉄針を投げる。


 少し身体をずらしたブレイクの右半身に当たった鉄針は、刺さりはするもののダメージにはなっていない。

 逆にブレイクは紅玉の着地点の方に向かって、片手で戦斧を振り下ろす。

 戦斧からは強烈な噴射炎が吐き出され、ただの振り下ろしが神速の振り下ろしに変化する。


「【ソニックブーム】……とか言うらしいぞ」


「な……ぎゃっ!」


 空気を凝縮した衝撃波に紅玉が激しく打たれ吹き飛ぶ。

 だが、その隙を逃がさず攻撃に転じたのは黄水晶だ。


「【縦一閃】!」


 クレイモアでの唐竹割りがブレイクを襲う。

 ブレイクは気づいて身体をずらそうとするが、金の右腕が半ばまで裂かれる。


「おっと……苛烈だな、じいさん……」


 肩から肘にかけて金色の肉がべろりとめくれるが、そこは元々、精霊那乃の集合体、ゆっくりと元に戻っていく。


「それほど動きが早い訳でもない。

 その戦斧は曲者だが、勝てない相手でもないな……」


 黄水晶は改めてクレイモアを構える。


「ははは……宝石器の冒険者ってのはバカなんだな……。

 それとも魔王候補と戦ったことがないのか?」


「ム……お前程度のやつなら何十とやり合うて来たわ」


「なら、分かるだろう。

 魔王の真の力ってのが、どういうものか!」


 ブレイクが金の指を、パチンと鳴らす。

 すると、近くの魔物たちが一斉に黄水晶へと襲いかかった。

 さすがの黄水晶も魔物の攻撃を無視する訳にはいかない。

 だが、敵でないのも確かだ。


「なんでだか、教えてやろうか?

 魔物の身体には微量だが精霊が含まれてるのさ。

 そして、魔王ってのは、一番上手い精霊使いが名乗る称号なんだよっ!」


 魔物の身体を張った目隠しの隙間からブレイクの戦斧が襲う。


「ぬ、ぐうぅっ……!」


 黄水晶は鎧の頑丈な部分で戦斧をどうにか受けるが、一瞬で押し込まれて劣勢に陥る。


 そんな黄水晶を救ったのは青玉の瘴気武器デスサイズに備わる銃弾がブレイクの背後を捉えたからだった。


「二人がかりか……足りるといいがな!」


 死んだ魔物たちから、一粒、二粒と金の粒子が浮かぶ。

 一体の魔物から出るのは、ほんの微々たるものだが、ここには無限に魔物を生み出すアジ・ダハーカがいる。

 そして、ここまでに殺された魔物は下手をすれば万単位の魔物たちだ。


 ルナリードが、ハジュマーリュが、タジュカラが、近隣の村、街などから金の粒子が立ち昇り、それらが一斉に鎮めの森、最奥、ブレイクに向けて集まって来る。


 ブレイクの侵食が進んでいく。

 肩から金の触手が何本も伸びて、足は金の鎧を纏ったように硬質化していく。


「何も二人でやる必要はねえんだよ!」


 縞瑪瑙の金棒が唸り、紅玉の繋がりかけの足から蹴りが飛ぶ。


 だが、ブレイクの肩の触手がそれらをことごとく迎撃していく。


「来い、来い、来い、来い、もっとだ、もっと来い!

 俺の憎しみを高まらせてくれ!

 俺は魔王になる! お前ら人間のその奢った気配が俺の中の資質を開花させてくれるっ!

 ほら、気を抜くな! 宝石器なんぞ、目じゃねえ! 死ぬぞ! いや、殺すぞ!

 それから、世界を壊して、俺たちの世界を取り返してやる!

 俺が神になるまで、もっと、もっと、俺を高まらせてくれよぉぉぉっ!」


 目まぐるしく位置を変え、宝石器の冒険者とブレイクがお互いをぶつけ合う。


 未だ魔物を削っていたプレイヤーと天遣対魔騎士が、その余波で魔物と共に死ぬ。


 プレイヤーのレベル限界、Lv50が一撃で吹き飛ぶ世界がそこにはあった。




 階段の扉が開く。

 彼には見えてすらいない。

 ただ、ひしめき合う魔物の群れと、何故か追いかけて来る他のプレイヤーから逃げるのに必死だった。

 目の前に金の魔物の背中が映る。


「う、うわあぁぁぁっ!

 どけえぇぇぇっ!」


 少し濁った青水晶の七支刀、それを背中に叩きつける。


「うぐっ……ぬんっ!」


 ブレイクは予期せぬ一撃に奇妙な痛みを感じる。

 だが、触手を回して、その元凶を振り払った。


「あっ……」


 彼は触手に胴体を両断され、べちゃりと上半身が地面に落ちた。

 次第に粒子化して消えていく。


「まさか、伏兵がいるとはな……だが、無駄だ。

 俺の憎しみを高まらせるだけだ!」


 ブレイクは叫ぶのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] ブレイクさん…こういう方向に行ってしまったんですね…。鬼道に堕ちるのがなぜ忌み嫌われているのかが分かる状態ですね。 しかし自分達が滅んだあとにまで、人格を乗っ取ってまでして魔王とかいう戦略…
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