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地下訓練場


 先頭を歩く黄水晶シトリンのオシテマイルが、ルナリード冒険者ギルド地下訓練場の半ばほどで立ち止まる。


「さて、まずは誰から私のクレイモアの餌食に……」


 黄水晶が大剣を鞘から抜こうとした瞬間、縞瑪瑙オニキスのサンジョウが細身の金棒を背後から打ち込んだ。


「せりゃっ!」


 黄水晶の頭を狙って打ち込まれた金棒だったが、黄水晶が頭を傾けたことで、ギリギリ肩の鎧に当たった。


「ヌワッハッハッ!

 それで奇襲のつもりか、オニキス!」


 抜刀からの振り向き様に、クレイモアが振るわれる。

 縞瑪瑙がバク転しながら距離を取る。


 同時に紅玉ルビーのライリンがルインに向けて背後から蹴りを放つ。


「武器も持たずに来るなんて、金器は危機感も足りないんだな!」


 紅玉は金属製の足甲を着けていた。

 その足甲から、一瞬で刃が飛び出し、紅玉の脛が危険な剣と化した。


 ルインは気配を感じると同時に前に転がった。


「お前こそ、何も持っていないと思ったら、暗器使いか!」


 振り向いたルインが見たのは、無口な妹、青玉サファイアのコーリンが背負ったアタッシュケースのような鞄が、一瞬で変形して、巨大なデスサイズになる所だった。


「それは……瘴気武器か……」


 瘴気の出処でどころである魔物の生産施設内で見つかる機械式の武器、それが瘴気武器と呼ばれる。

 ソレは太古の昔、まだ魔物が魔物でなかった頃、人と敵対しない歴史の中で、人が使うために作られた武器であるが、それを知る者はいないため、何故、そのようなモノが瘴気の元である生産施設で見つかるのかは謎とされていた。


「ははっ、妹は直感的に瘴気武器を使いこなす才能があるんだ!

 だからって、そっちに気を取られていると死ぬよ!」


 紅玉が隠し持っていた鉄針を投げてくる。

 目玉を狙った攻撃は、充分に間違いが起こる攻撃だ。


「宝石器のやつらは、いつもこんな事してるのか……」


 ルインは驚愕しながらも鉄針を叩き落とす。


「へえ……隙だらけに見せてるんだ……」


 紅玉がステップを踏んだ。

 だが、それはルインの注意を引きつける動きで、本命は青玉のデスサイズだった。

 デスサイズはその独特な武器の形状ゆえに、気配とは別角度からの攻撃が可能だ。

 『暗闘術』【おぼろ】。

 本来は暗闇の中で使う気配だけを強く意識させ、実体を別の所に置く技だ。

 それを青玉はデスサイズを使うことで、実体よりもさらに別角度からの攻撃にすることで、より攻撃位置を悟らせないようにしている。


 どうにか反応したルインだったが、最初に紅玉が踏んだステップも独自の技だった。

 『音霊おとだま流』【玉虫】。

 強く地面を踏み鳴らし、相手にリズムを刻んだかと思えば、そのリズムからズレた攻撃を音もなく行うことで虚を突く。

 小さな鉄球がルインの背を打つ。


「ぐっ……」


 一瞬の攻防、二重、三重に張り巡らされた罠の中でルインは傷つき、調子を崩す。


 先程まで大立ち回りをしていたはずの縞瑪瑙と黄水晶までがルインに向かって来た。


「弱ったやつから潰す。これが勝負の鉄則だ!」


 縞瑪瑙の金棒が回転から繰り出す連続打突の技を放つかと思えば、逃げた先には黄水晶のゼロ距離打撃が襲い来る。

 誰か一人が弱みを見せると、全員が反応してそいつを潰しに来る。

 そういう類いのバトルロワイヤルなのだった。


 ルインは体術を駆使して、包囲網を抜け出すが、一歩でも間違えれば袋叩きにされるところだった。

 ルインが包囲網から抜け出したところで、次に狙われたのは黄水晶だ。

 踏み込みが強すぎて、ちょうどルインと入れ替わるような立ち位置に入ってしまった。


 黄水晶は、紅玉の攻撃で無理矢理に隙を作らされると、縞瑪瑙と青玉から同時に狙われる。

 だが、黄水晶は慌てることなく、最低限の動きで鎧の硬い部分で攻撃を受け止め、弾いた。


 次に狙われたのは、弾かれ、バランスを一瞬崩した縞瑪瑙だ。

 ルインはこのバトルロワイヤルのルールを肌で感じ取り、縞瑪瑙へと金器で襲いかかる。

 縞瑪瑙が青玉の一撃を貰いながら、ルインのカウンターを取ってくる。


 全てが高度な技の応酬であり、気を抜く余裕はない。

 だというのに、攻防の中でルインは過去のことを思い出していた。


 龍牙館でやっていた仲間との稽古だ。

 そういえば、あの頃も似たようなことをやっていた。

 それは厳しいながらも、脳汁が溢れて楽しいと錯覚するようなヒリついた時間。

 全員が、自分の最強を証明しようと躍起になり、それがお互いを知る一番の道で、その中で連携を作り、また自分の弱さを知った。


 随分と久しく忘れていた。

 仲間との思い出は、ルインにとって辛すぎて、それが良い思い出であればあるほど、心の奥底に仕舞い込むしかなかったのだ。


 今、弱みを見せているのは紅玉で、青玉を庇ったためにバランスが崩れている。

 黄水晶が正面を取り、縞瑪瑙が左上方から回り込もうとしていた。

 ならばルインは右の下方から縞瑪瑙と相打つ形にしてやれば、紅玉は落ちるだろう。

 紅玉と青玉は、血の繋がりがあるゆえに庇い合う、だが、無駄に庇えば、それこそが命取りだと教えてやるべきだ。


 しかし、紅玉が見せた弱みは誘いだった。

 黄水晶と縞瑪瑙が一番、甘いところを狙わなかったのは、しっかりと反撃に注意した結果、さらに紅玉を崩せないかと思案したからだった。


 ルインが死地に入る。青玉がカウンターを取り、紅玉は最初からこちらに意識を払っていない。


 紅玉と青玉は二人で一人、だというのに宝石器は一人ずつが貰っているのだ。

 読み間違い。青玉のデスサイズに仕込まれた銃が火を吹く。

 気づいた時にはルインは避けていた。

 瘴気武器にはよくある機能だ。警戒していない訳がない。

 ただ問題は、それで崩れたバランスだ。

 一瞬で攻守が逆転する。

 紅玉が避けた縞瑪瑙の攻撃は、流れるように繋がってルインへと向けられた。

 避けた紅玉も、すぐさまルインを狙う方に参加してくる。


 黄水晶が回り込んで待ち構えている。

 黄水晶の方に逃げてはいけない。

 そう、直感が告げていたが、ルインは上手く追い込まれて、黄水晶の眼前に立った。


「まあまあだな」


 黄水晶からクレイモアの連撃、凌ぎきれずにたたらを踏むと、青玉のデスサイズに足を引っ掛けられる。

 そこからは袋叩きだ。

 完全に行けると踏まれた瞬間、宝石器の冒険者たちは手加減を入れた。

 これはあくまでも稽古だ。

 最後の一線だけは踏み越えないように、お互いが分かっている。


 ルインはたっぷりと宝石器の冒険者たちの技を浴びて、地面を舐めた。


「お前みたいなのが、四人も五人もいて、前回はアジ・ダハーカを再封印したわけか……それなら、再封印の方法を聞くほどでもないな」


 縞瑪瑙が構えを解いた。

 どうやら、ルインは計られたらしい。

 宝石器の冒険者たちは、ただ喧嘩っ早いだけではなかったということだ。

 ルインの力量から、アジ・ダハーカの強さを計り、それを倒せるかどうかを計った。


「見込みはあったぞ。お前が望むなら、この件の後で弟子にしてやらんでもない」


 黄水晶は笑っていた。


「最初の一撃は殺すつもりだったけどね。

 あの程度をいなせない馬鹿じゃなくて良かったよ」


 紅玉が使った暗器を拾って言う。


 ぺこり、青玉は頭を下げて、デスサイズを変形、鞄型にして背負った。

 なんとなく、歩く姿が浮き足立っているように見えたが、確かめる術はなかった。

 ルインはそのまま気を失ったからである。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 安藤目線だとご都合だったり謎展開でもNPC目線だとこんなドラマになってるんだなーって思わされる群像劇なところ [一言] 小説ピックアップから来ました 良いタイトルで反射的に読み始めましたが…
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