龍牙館4
そこにはルインに説明を求めるプレイヤーたちが十名ほどの一団となって座り込んでいた。
貴族街と呼ばれるルナリード北側の中央に近い丘上の一角。
他の屋敷に負けないほどの広大な敷地と豪奢な邸宅、唯一違うのは、庭が整えられた庭園ではなく運動場のように剥き出しの地面が見えていることだろうか。
その剥き出しの地面にプレイヤーたちは三々五々、好き勝手に休んでいた。
武器を失くした者、鎧を失くした者、金を失くした者……プレイヤーたちはドロップした場所に取りに戻りたいのを我慢して、ここで待っていた。
街中を歩き回る気にはならなかったようで、実際、今、中央広場付近で対魔騎士に見つかれば、捕まる可能性が高かった。
しばらくして、暇を持て余したプレイヤーたちは、なんとなく集まって情報交換を始める。
それはダンジョンの情報だったり、魔物の情報だったり、また、街中の商店情報だったりと様々だ。
このゲームは自由度が高すぎるため、やれることが多すぎる。
それは語り尽くせぬほどに、それぞれの経験が違うということだった。
「はじまりの街で買った調理器具が邪魔になって、こっちに来る途中の村で売ったら、意外と高く売れるんだよ。
ほら、俺らの場合、インベントリがあるからさ。
行商とか可能性あるかと思って」
「ああ、村には村の特産品があったりするよな。粘土細工とか竹編みの工芸品とか、ああいうの買い漁っておいて、別の街とか着いた時に売ったら、いい金策になるかもな」
「定番の釣りがやりたいんだが、現実以上にめんどくさくて諦めた……」
「それ言ったら、ミニゲームとかないんだよな、このゲーム……」
ミニゲームが現実以上に手間が掛かることに不満を覚える者も多い。
その分、覚えてしまえば、現実にない魔物や魔法がある世界だ。
その奥深さは現実の比ではないだろう。
そうして龍牙館がそれなりに騒がしくなった頃、対魔騎士たちに金器の冒険者もピンキリだとか嫌味を言われつつ、後処理を済ませたルインが帰ってくる。
「コホン……他人様の敷地で何をしている?」
「あ、ルインさん!」「ルイン、手前ぇ!」「ようやく帰って来やがった……」
プレイヤーを代表して、カービンが立ち上がった。
「ああ、ルインさん。悪いな。安全な場所が見当たらなくて、とりあえず全員でここに避難させてもらったんだ」
「……そうか」
「それから、みんな、今回のアンタの動きについて、アンタから説明が聞きたいそうだ」
多少、めんどくさそうにルインは井戸から水を汲んで、桶から直接飲んでから、服の袖で口元を拭う。
「その前に、今回の騒動について、神兵であるアンタらの口から聞きたいな」
ルインは疲れから、ぶっきらぼうにそう言った。普段の案内人の口調とは明らかに違う。
プレイヤーたちは、この時はじめて気づいたのだ。
NPCから見れば、プレイヤーは一括りなのだと。
普段、プレイヤーから見れば、NPCはNPCとして一括りにされている。
それは同時に逆から見た時にプレイヤーはプレイヤーとして一括りなのだ。
ルインは知り合いだから、またアワツキからだいたいの事情を聞いているからこそ、今ここにいるプレイヤーたちを助けるべく行動したが、それは各プレイヤーが何をしたから助けたというものではない。
あくまでも暫定処置なのだ。
それを理解した時、プレイヤーたちは口々に自らの無実を訴えた。
ルインの力は全員が知るところで、今から全員の動きを封じて官憲に突き出すことができるだけの力があることは言うまでもないことだった。
「違うんだ、俺たちはアイツらなんか知らなかったんだ」「そうだ。いきなり街中で暴れ出したアイツらを止めようとしただけだ」「街の人を助けようとしたんだ!」
ルインは彼らの話をなんとなく理解した。
「武器をぶら下げているのは問題ない。
だが、この街で剣を抜いていいのは貴族と兵士と冒険者だけだ。
そうでなければ罰せられても文句は言えない。
今回の件で神兵の評判は地の底だ。
公爵は神兵をバラして調べたくて、うずうずしている。
この街に居る以上、肝に銘じておくんだな」
「バラして調べる?」
「ああ、貴族と呼ばれる者たちは魔法使いの血が濃い。
彼らは、お前たちに宿る『魔術書』の呪いを調べたくてしかたないんだ。
再現できれば不死になれるからな。
特に公爵は身体が弱い。
お前たちのように身体がバラバラになっても、五体満足で復活できる呪いを得たくて、今も手ぐすね引いて待っているのさ」
プレイヤーたちは何とも言えずに顔を伏せた。
プレイヤーとNPCは違う、と否定するのは簡単だが、その内容を説明するのは難しい。
公爵の話は中ボス的で、クエストなのかとも思うが、フラグが立っていなかった。
なので、ルインの気持ちに感謝はするが、逆に捕まった方が良かったのではないかと考える者もいた。
この時はまだ、全員分かっていなかったのだ。
プレイヤーたちが本当の意味でルインに感謝するのは、この後、この世界では三週間後。
捕まったNPCキラープレイヤーたちが、実質BANされたことが発覚してからだった。
───このアカウントキャラクターはゲーム進行不可になりました。
現在、ご利用いただけません───
いわゆる『詰み』『ゲームオーバー』。
キャラクターの作成し直しもなく、ゲームから弾き出されてしまったのだ。
利用規約にはそのことが明記されており、利用者が騒ぎ立てても無駄だった。
ベータテストは人数が限られており、新規参加は予約待ち状態。
NPCキラーとなって、プレイヤー発のイベントを起こそうとしたプレイヤーは自業自得と周囲から切って捨てられることになったのだった。




