中央広場
対魔騎士アラカンは険しい顔をしたまま街を歩いていた。
ここルナリードの街では、最近、プレイヤーによる辻斬り事件が続発していて、街中がピリピリしている。
ハジュマーリュの街では、特殊な結界が張られているらしく、プレイヤーは普通の街人に手を出すことができないのだが、ここルナリードには、そのような結界はない。
本来、魔法使いの血を色濃く継いでいる領主ルナリードならば、ハジュマーリュと同じ結界を作ろうと思えば、そう難しいことではない。
しかしながら、領主ルナリードには些か血好みの性質があるらしく、それを行う気配はない。
それどころか、辻斬り事件が起こるのを歓迎している節さえあった。
対魔騎士たちに通達されたのは、街の治安維持と可能ならば、そのような不埒なプレイヤーを逮捕、連行することである。
普通ならば、対魔騎士は街の治安維持に駆り出されることなどない。
封印された魔物や他国との戦、また領主やそれに類する者を護衛し、式典に参加するといったことに備えた戦力なのだ。
そのため、武勇に優れ、儀礼を備えたエリートだけで構成されている。
だというのに、街の治安維持である。
それは下級の兵士たちの仕事だ。
しかも、不埒を働くプレイヤーならば、本来、斬り捨てて当然のところ、わざわざ生かして連れて来いと命令されているのだ。
不満がないと言えば嘘になる。
もっとも、街中を対魔騎士装備で出歩けば、街人たちに持て囃されるので、それは悪い気はしないのだが、仕事内容が兵士と同じでは、やはり自尊心が傷ついてしまうのだ。
「分隊長、やはり納得いきませんよ。
栄光の対魔騎士たる我々が、何故、毎日、毎日、巡回などやらされるのか……」
分隊員である対魔騎士ユガキが不平を口にする。
「言うな……。
領主様の命あらば、それに従うのが対魔騎士の本分というものだ」
アラカンは自身の不満を押し込めて、正論を口にする。
それくらいの分別はあるのだ。
そんな時、中央広場で悲鳴が上がる。
「行くぞ……」
アラカンの声に分隊員の四人の対魔騎士が「応!」と答える。
中央広場はルナリード公爵家が祀るツクヨ神の像が置かれ、この街で最も賑わう場所である。
東、西、南の大通りが交差し、冒険者ギルドや大商店、高級宿屋、ツクヨ神殿などが軒を並べている街の中心であり、北に上がれば貴族街、ひいてはルナリード公爵の居城へと繋がっている。
NPCキラープレイヤーが狙うのは、大通りのどれかだったり、中央広場だったり、他にも人気のアマティーラ神殿や商店通り、または最北の港などが多い。
ただ、中央広場はかなりリスキーな場所ではある。
目の前が冒険者ギルドなのだ。
それに貴族街への入り口ということもあって、対魔騎士たちの巡回がとても多い。
そうであるのに、今回は中央広場で凶行が起きたらしい。
時間は昼日中、冒険者ギルドの冒険者たちの大部分が仕事に出掛けて手薄な時間ではある。
NPCキラープレイヤーたちは、密かに情報共有をしているかのように、次第に様々な場所で凶行に及ぶようになってはいる。
しかし、アラカンたちはその惨状を見て驚いた。
プレイヤーが一人ではなかったのだ。
しかも、凶行に及ぶプレイヤーと、それを止めようとするプレイヤーが入り乱れていた。
「やめろ! NPCは死んだら帰って来ないんだぞ!」
最近、街中で有名になりつつある『キマイラキラーズ』と呼ばれるプレイヤーの一人が叫んでいた。
「知らないのかよ。
死んでも似たようなクエスト出すNPCがぞろぞろ出てくんだよ、バーカ!」
そう言いながらポールアックスを振り回すプレイヤーがいる。
ハゲ頭に額の中央に目の刺青、腰に羽ばたく白鳥のズボンを履いたふざけた男だ。
「そうそう、ここから東の辺境の村で実験済み。
村長の持病を治す薬草採りに付き合ってって護衛クエストで、依頼人を殺してクエスト失敗にしても、また違う依頼人が出てくるから問題ないよ」
それを言うのはオレンジの髪色をしたまともそうなプレイヤーだ。
「後味はあんまり良くないけど、今回はお祭りだからさ。
あんまりここの運営って大きなイベント用意しないじゃん。
だから、有志を募って、ちょっと大きなお祭りしようってことになったのよ」
金髪のやけに際どい水着のような鎧の女性プレイヤーが説明する。
「なんなんだ……なんなんだ、これは!」
「祭りと言っています。まさか……魔王降臨の兆しでしょうか?」
ユガキが緊張した顔で言う。
「ああ、悪いね。祭りって言ってもただのイベントだよ。PVPを派手にやるには、理由があった方が盛り上がるからさ。
今回は有志の皆が悪者役を買って出たってことでさ。
まあ、ついでに経験値になってよ」
長剣を担いだ濃い赤紫の長髪を揺らした男性プレイヤーが言いながら斬りかかって来る。
「全員、戦闘態勢!」
アラカンの号令に、分隊員たちが一斉に盾を構え、剣を抜いた。
「【乱斬り】!」
「バカにしているのか!」
長髪男性プレイヤーの剣を冷静に盾で受け止め、そのまま力押しに押し返した。
「うおっ、強えっ!?」
「よし、取り抑えろ!」
「は? おいおい、俺一人に構ってると、どんどん一般人死んじゃうぞ」
長髪男性プレイヤーが転んだまま逃げ出しそうにしながら、注意をよそへ向けさせようとする。
「拘束したら、ユガキ、連行だ。
他の者は次に取り掛かるぞ!」
「「はっ!」」
分隊員たちが短く返す。
そんな中、長髪男性プレイヤーを拘束したユガキが、冷たく見下した目でポツリと呟く。
「領主様がお召しだ。
せいぜい気に入られるようにするんだな。
でなければ、それはそれは楽しい目にあうだろうよ……」
「おっと、レアイベ!
みんな、すまん、レアイベ行ってくるわ!」
「ええ、ハードラックくん、ずっこい!」
「ざけんな、こっちのイベント優先だろ!」
他のNPCキラープレイヤーから抗議の声があがるが、ハードラックと呼ばれたプレイヤーはわざとらしくお気楽に言うのだ。
「いや〜、ザンネンだなあ。でも、領主様に会えるレアイベっぽいし、後でレポートすんね!」
だが、対魔騎士はその余裕ぶった言葉に、クスリともしなかった。
ただ仕事のために、仕事を淡々とこなすのだった。




