エサム廃坑3
ヒフキヒクイとの決戦の用意が整い、ルインはここまで節約してきた水筒の水をがぶ飲みする。
汗がまた噴き出るが、乾きに喘ぐよりはマシだ。
「豆腐メンタルさんとプッツンプリンさんも、取れるだけ水分を取った方がいいぞ」
「いや、俺らは必要ない」
豆腐メンタルの言葉に、ルインは頷く。
仮初の身体は、ほぼ代謝がない。
暑さ、寒さは感じるし、炎に燃えるし、氷に肌が張り付くが、汗やそういう類いの代謝はない。
またもやプレイヤーとの壁を感じる瞬間だ。
だが、プッツンプリンは何故かルインに合わせて、水を飲み出した。
「問題ないなら、無理に飲まなくていいぞ。
帰りもそれなりに時間が掛かるからな」
「まあ、まあ、一人じゃ寂しいじゃん。
それにちょっと数値にプラスあるみたいだし」
プッツンプリンはそう言って笑う。
「いくつプラスになるんだ?」
豆腐メンタルがプッツンプリンと話し出す。
「体力プラスいちー!」
いぇい、という感じで、プッツンプリンが水筒を掲げると、豆腐メンタルは吐き捨てるように「いらね……」と言った。
三人でヒフキヒクイを釣るために、溶岩の川が流れる場所へと足を踏み入れる。
はたしてヒフキヒクイはすぐに見つかった。
ドンドンドンドンドン! と火の玉が放たれる。
「はあっ!? 最新の自立思考型歩行戦車じゃねえか!」
豆腐メンタルが叫んだ。
「なにそれ?」
「つい一年前くらいに発表があったバイオロボティクス構想の動物的な機動力と機械的な攻撃力を兼ね備えたA.I.戦車ってニュース知らねえの?」
「へ〜、そんなのあったんだ」
プッツンプリンは気のない返事を返す。
「あ〜、プリンは興味ねえか……。
機械工学的な生物アプローチが限界を迎えて、いっそのこと生物と機械の良いとこどりをしようって兵器だよ。
まさか、実物が拝めるとか、上がるわ!」
「ゴーレムとは違うのか?」
話についていけないルインが説明を求める。
「いや、こっちじゃゴーレムなんだろうな、たぶん……形は資料で見た通りだから、それをパクったのかもな……」
半生物半ゴーレムということなのだろう。
「ちょっとティラノサウルスっぽい形だよね」
逆関節の脚をしたティラノサウルスを半分くらいのサイズに縮めたらそっくりかもしれない、とプッツンプリンは考えた。
ヒフキヒクイの短肢部分、真っ赤に燃えたぎる溶岩発射口が、キュイイ……と金属を軋ませる音を立てながら、狙いをつけようと動く。
口からは熱気を吐き出し、荒く呼吸を繰り返している。
「あの口っぽいところから排熱してるのか!」
興味深そうに豆腐メンタルは観察するが、ルインはそれどころではない。
「そろそろ来るぞ!
散開!」
ドンドンドンドンドン! 両腕の短肢から計十発の火の玉が放たれる。
しぶきのひとつも浴びれば、マントは燃え、鎧は溶かされるだろう。
三人は慎重に弾道を見ながら避けていく。
今は攻撃を考えず、引きつけて避けるだけだ。
火の玉の速度自体はそれ程でもないので、避けるだけなら充分に可能だ。
ヒフキヒクイの排熱が始まる。
それを好機としてルインが片手剣の技を繰り出す。
「鉄を斬る技を見せてやる!
会得できるかは分からないがな」
ルインはプレイヤーたちに声を掛けて、それから小さな声で、この技を見せてくれた達人に感謝する。
「エクス、使わせてもらうぞ……
輝光流、【閃光斬】!」
軽く跳んだかと思うと、強い光の如く焼き斬るような斬撃が放たれる。
ヒフキヒクイの短肢の一本が、その斬撃で斬り飛ばされた。
同時にヒフキヒクイのセンサーカメラが攻撃的に赤く光る。
それは、攻撃されたことによって、ルインを敵と認識したようだ。
溶岩を吸収するべく、溶岩の川に垂らされた尻尾が引き上げられ、大きく振られる。
まるで、威嚇しているように見える。
「すげえ、まじで斬った!」
「え、強いじゃん!」
プレイヤーからすれば、これはゲームだが、それでも達人の技を見せられれば、それが錬磨の中から生み出されたものだということは分かる。
驚嘆するのは当たり前だった。
「よし、引くぞ!」
ルインが誘導を開始する。
「ルイン一人で勝てるんじゃないの?」
プッツンプリンが不思議に思ったのか聞くが、ルインの答えは変わらない。
「ええと……安全まーじんだったか?
それを確保したいんだはっ!」
振るわれる尻尾、この場合、溶岩吸入口なので、こちらが口かもしれないが、小ぶりなティラノサウルスと考えた場合の尻尾が振るわれ、ルインは慌てて転げるように逃げ出した。
今まで溶岩の中に漬け込まれていた部分だ。
当たれば痛いでは済まされない。
そして、その尻尾が周囲の鍾乳石を簡単に砕く様を見て、プレイヤーたちも慌ててルインに続くのだった。




