ルナリード冒険者ギルド3
三週間後、ルインは自分の小屋にあった武器を売って金を作った。
『悪食』として生きてきた冒険者の残りカスだった。
残ったのは、古びた金器と新しい金器の二本。
どちらにせよ冒険者ギルドから支給されたこの二本は売れない。
短剣が二本あれば、改めて冒険者として始めるのには充分な装備だった。
防具は胸当てに肘当て、昔、使っていたマントはつぎはぎされて、いかにも初期の冒険者に見える。
ルインは冒険者ギルドに顔を出す。
病み上がりで筋肉が少し落ちた自覚はあるので、無理をする気はなかった。
ルインにとっては間の悪いことに、今の時間、受付を務めているのはブリジットだけだった。
仕方なく並ぶが、逆に考えれば古馴染みのブリジットが受付をしてくれるのはいいことかもしれなかった。
ルインにかける期待は大きいが、状況に理解があるのも彼女だ。
自分の番が来て、ルインは気まずさに頬を掻きながら声を掛ける。
「……よぉ」
「はい、お待たせしまし……ルインさん!」
ルインは必死に口元に指を立てて、騒がないよう懇願する。
察したブリジットは慌てて、自分の口を塞いだ。
「すまん。少し相談事がある」
ブリジットは少し目を見開いて、それから、平静を装いながら頷いた。
「え〜、こ、こほん……な、なんでしょう?」
「その……仕事が欲しくて、だな……ただ、俺は、こんな、だろ……」
「いえ、そんなことは……」
「いや、いいんだ。自分のことは自分が一番分かるからな。
俺は何ひとつ治っていないんだ……。
だが、治す努力はしたい……それで、角ネズミから、もう一度やってみたいんだ……」
「……分かりました。
今なら、そうですね……」
ブリジットは台帳をパラパラと捲って、依頼を調べる。
「角ネズミの心臓を三つ。明日まで。
一般依頼が一件あります。
咳止め薬にしたいそうなので、なるべく心臓は完全な形で欲しいそうです」
良くある依頼である。
それこそ、初心者が受けるような依頼だ。
「それで頼む」
角ネズミの角を求める依頼は常設依頼として、常にあるが、ルインは敢えて、角ネズミを求める依頼を受けたかった。
目的が欲しかったのだ。
こうして、ルインは意気揚々と東門へと向かうのだった。




