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スギータ施療院


 ルインはアワツキが死に瀕している時、とにかく助けなければと考えていた。

 それは本能的なモノで、アワツキがプレイヤーかどうかなど関係なかった。

 心の底が疼く。


───タスケナケレバ……ヨリユウイナルモノヲ……───


 ルイン自身が何かを考えた訳ではない。

 それはルインの中に潜むナニカだ。

 ソレがより成長の見込みがあるアワツキを残せと叫んでいた。


 その声に導かれるように、ルインの意識が一点を見つめ念じる。

 その一点だけを、机に置いた紙を握り潰したように、クシャリと丸める。

 空間が捻れる。だが、空間は正しい位置を知っているかの如く元に戻る。

 同時に爆発が起きた。


 場面が変わる。


 森の奥深く、隠された洞窟のさらに奥。

 金属のパイプ、硝子の筒、床を浸す粘つく液体、点滅する光の奔流の中で魔物が生まれていく。

 それは魔物の生まれる場所で、粘つく液体が光によって色を変えながら魔物が形作られていく、歪な鋏状の爪、歯並びの悪い牙、硬く鋭い体毛、冷たく輝く鱗、まるで適当に並べたパズルのピースのようにソレは繋がり、液体が変化していく。

 グネグネと乱数的に繋がるソレらがどうにか形を整えようとひとつに繋がっていく。

 シルエットは龍だ。だが、その中身は半端な魔物の集合体で形成されている。


「これが、アジ・ダハーカ……」


 ペリスが恐怖を振り払うように槍に結ばれた鈴を鳴らした。


「見て、あの龍から落ちた液体が小さな魔物になっていく」


 フォルの指さした先には森で見かけた『爛れ狼』がいた。


「どうりで、なりそこないみたいな魔物ばかりな訳だ。

 大元のアジ・ダハーカがなりそこないの親玉だからな」


 デストは顔を顰めた。


「ペリスとルインに雑魚をくれてやろう。

 私らは親玉だ」


 フィニが指示を出す。


「いいよ、ペリスもそっちで。

 雑魚なら俺だけで充分だ」


「んじゃ、私の剣を貸してやろう」


 フィニは自分の剣を地面に突き立てた。


「デスト、戦斧以外は使わないだろ」


「……貸すだけだからな。あと修理費出せよ」


「分かってるよ」


 ルインの言葉にデストは括りつけた予備武器を落とす。


「ふう、久々に身体が軽くなった」


 デストは肩を回すが、相変わらずの重武装で、大して軽くなったようには見えない。


 五人は戦いを開始する。

 ルインは雑魚を斬り伏せ、惹き付け、武器を変えて、叩き潰す。

 他の四人はアジ・ダハーカに向かっていく。


 何も問題などなかったはずだ。

 アジ・ダハーカを切りつけ、肉片が、体液が飛び散る度にそれが魔物になっていくことがなければの話だ。


「フォル、雑魚掃除に回れ!」


「いいけど、あんまりやられないでよ!」


 フィニの戦況分析に全員が絶対の信頼を置いている。

 しかし、この時ばかりは、どうにもならない物量差があった。


 最初にデストが倒れた。それからフォルが、そしてペリスが倒れた。

 ルインもまた……。

 気がついた時には、ルイン一人だ。


 悲しいことがあった気がする。

 胸に穴が開いたような空虚な感覚が残っていた。


 はたと気づけば、天井が見える。


「気がついた!」


「医者を呼んでくる!」


「おい、大丈夫か?」


「ルインさん!」


 プレイヤーたちが自分を取り囲んでいるのが、ルインには見える。


「ここは……?」


「スギータ施療院です。門番のメヒカさんに教えて貰いました」


 アワツキが答える。

 スギータ施療院は値が張るが、確かな治療を約束してくれる。

 ルインにとっては、その値が張る部分こそ重要だったが、生命を助けてもらったのだ。

 文句は言えないのだった。



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