93.裁判5
「カヴァル・シーファ嬢は今までの発言を聞いて何か言うことがあれば発言せよ。」
「そうですね………確かに私はグレイセド皇太子を攻略するためにリーゼ・ウォレット令嬢が邪魔だから皆さんに頼みましたけど傷つけ方法は各自でお願いしましたわ。私は頼んだだけで実行したのは彼等でしょう。………薬のことは彼らに申し訳なく思ってますがお父様に言われて仕方なく使用しそれから抜けられなくなったのは彼ら自身の問題です。それに聞いてるとだいぶ自分の欲求で動いてたみたいだし………全部が全部私は悪くないわ。」
彼等に冷たい目を向け薄ら笑いながら自分は悪くないとばっさりと答えたヒロインは……………本当に残酷だと思った。
皆こんなことにはなりたくなかっただろう。私も被害がなかったから言えることだけど……改めて人一人の人生を狂わせてしまったヒロインの罪は大きい。
きっとヒロイン自身も実の父によって狂わされてしまったのかもしれない…………だけどここまで沢山の人を巻き込んでしまったらそんなこと言ってられないな。
「…………ただ、中には優しい人もいた…………から申し訳なくは思ってる。全部なかったようにできたら……リセット出来たらいいのに…………。」
リセットと言った時のヒロインの顔がとても悲しそうな顔に見えた。………小説やゲームは間違えば戻ったりやり直したり出来るからきっと出てしまった言葉なんだろう。
現実だと、ここは現実に私たちが生きている世界で………怖いことも悲しいことも楽しいことも全部本当の事なんだって今ひしひしと感じているのかもしれない。
ヒロインだからって人の人生を無茶苦茶して幸せになれると思ってしまっていた時点で………。
「それに、グレイセド皇太子が全然靡かないからつまらなかったな~。悪役令嬢にはあんなに甘い瞳で笑いかけてるのに私には塩対応なんだもん。はぁ~どんなにアプローチしても噂を流しても動揺することなく冷たい態度なんだから………極めつけは『好きな人以外に優しくするつもりはない』とか『触れたいのは好きな人だけだ』とか『リィが一番可愛い』とか………もう毎回のろけばかり聞かされたんだから!!意地悪もしたくなるわ!!私、グレイセド皇太子が推しだったのにあんなに冷たい態度とらなくてもいいじゃない………。」
うひゃぁぁぁ!!グレイ様ヒロインになんてことを言ってたのですか!!
最初濁してたのにもう名前出ちゃってます!!
突然のヒロインの爆弾発言に周りからは私だと気付かれ温かい視線を感じます!!
そうなんだ………そうだったんだ!!
グレイ様に聞きたくても聞けなかった噂のことやヒロインとのこと。あの際どい噂もヒロインが流してたんだ………グレイ様は靡かなかったと聞いて嬉しくて………嬉しくて嬉しくてにんまりと裁判中なのに顔が緩んでしまった。
何気なくグレイ様の方を見ると私を見てにっこりと笑顔を返してくれた。
うぅぅ……なんですかその笑顔は………今までの不安がかき消されるじゃないですか。。
私がにやけた顔をしてるとわかってさらにグレイ様の笑顔が満面の笑みになった気がする。
「あーあ、せっかくこの世界を満喫したかったのに……………うまくいかなかったわ。」
「カヴァル・シーファ嬢はカヴァル男爵と共に薬の共謀の罪及び皇太子に対する悪質な噂を流した不敬罪も加える。この後、判決が出れば発言は一切受け付けない。最後になるが何か言うことはあるか?」
グレイ様が鋭い視線を送りながら感情を乗せていない冷たい声で言うとヒロインは私の方をちらりと見て笑った。
「では、最後に悪役令………リーゼ・ウォレット令嬢と直接話したいです。」
えっ!?グレイ様じゃなくて私と!?
私の名前が出ると思ってなかった周りがざわりと騒がしくなった。
周りにいる家族やグレイ様達の方を見てもみんな首を振って駄目だ!という表情で私を見る。
もしかしたら何か酷いことを言われるかもしれない。でも…………たぶんヒロインと話すのはううん会うのは最後だろうから私も転生者として話してみたい。
私は周りやグレイ様達を見てこくりと頷いた。
「…………ではリーゼ・ウォレット令嬢、カヴァル・シーファ嬢のところへ。」
裁判官が発した言葉に静まり返る。
はぁ………ギラギラした目で見てくる人多いな。ヒロインからしたら私は邪魔物でどんな手を使ってでも排除したかった………そんな私とヒロインが話すからみんな興味津々なのだろう。
これだけの人や騎士達がいると流石に何かすることはないだろうけど。
「悪役令………リーゼ・ウォレット令嬢これまでいろいろとごめんなさい。」
いや、もうそこまで言ってるなら悪役令嬢でいいですよ。さっきから言い直されてるけど……私もヒロインって呼んじゃってるから。
「…………。」
何て言ったらいいのかわからなかった。
直接何かされた訳じゃないがさっきの証人達にしても…………裁判内容を考えると私に起きてたかもしれないと思うと恐ろしくて言葉がでなかった。
「一つ言いたいことがあるの。」
その瞬間私の腕を引っ張って自分に引き寄せ私の耳元で誰にも聞こえないようにこう言った。
「攻略対象者達に溺愛されてて羨ましいわ。攻略対象者達は誰も私には靡かなかった。今までのことは悪かったと思ってるのは本当よ。だから私から一つだけ忠告をしてあげる。わからないかもしれないけど………………………………だからせいぜい頑張ってね。うふふ。」
最後の一言を聞いて私は大きく目を見開いてヒロインを見ると微笑んで頑張ってねと握りこぶしをあげていた。