なぜ、俺だけが――
四人はゲートから飛び出し――
そのまま地面に強く叩きつけられた。
「ぐっ…!」
何度か転がり、ようやく止まる。
静寂。
そして――
ゆっくりと立ち上がった。
その目の前に広がっていたのは――
誰も予想していなかった光景だった。
澄んだ川が静かに流れ、
広い湖が空の光を映し、
遠くには巨大な山脈がそびえ立っている。
空気は澄み、穏やかで――
先ほどまでいた地獄とは、まるで別世界だった。
ミナトは周囲を見渡し、わずかに目を見開く。
「……ここはどこだ?」
白い髪と静かな瞳を持つセラは、山の方へ視線を向けた。
「ここは今――ノクシア王国とエリシウム王国の境界よ。」
前方を指差す。
「あの山を越えれば……エリシウムに入る。」
ミナトはゆっくり息を吐いた。
「じゃあ……今日は休もう。」
少し間を置き、
「明日、動こう。」
セラは静かに頷く。
「問題ないわ。」
そして付け加えた。
「もう十分離れた……追っては来ないと思う。」
その頃――
カイトはまったく別のことをしていた。
湖の前に立ち、
自分の姿を見つめている。
筋肉。
体格。
そして満足そうに笑う。
「ふむ……完璧だ。」
突然、ニナの方を向く。
「ニナ、ちょっといいか?」
ニナは怪訝そうに見る。
「……何?」
カイトは自信満々に笑った。
「俺のサイン、筋肉に欲しい?」
沈黙。
「どうせ見てたんだろ?俺に見惚れてさ。」
……
ニナは一瞬固まった。
そして――
顔を真っ赤にして叫ぶ。
「はぁぁぁ!?」
「誰があんたなんかに惚れるのよ、このバカ!!」
だがカイトは完全に無視した。
そのままセラの方へ歩く。
「まあいい。」
自分を指差しながら、
「セラ、お前なら特別に許してやる。ニナよりセンス良さそうだしな。」
……
次の瞬間――
「!!」
カイトの体から金色の光が弾けた。
そして――
筋肉が消える。
長い髪が元に戻る。
金色の瞳が緑に変わる。
一瞬で――
元の姿に戻った。
細く、弱く、疲れた姿。
「……は?」
その場に膝をつく。
「ま、待て……」
自分の手を見つめる。
「俺の力は……どこ行った?」
「消えた……?」
ミナトが眉をひそめる。
「……妙だな。」
セラが静かに言う。
「あなたの力には……時間制限があるみたい。」
「長くは使えない。」
カイトはゆっくり顔を上げる。
目は虚ろだった。
「つまり……」
声が震える。
「また……弱い俺に戻ったってことか……?」
……
「パチン。」
指を鳴らす音。
背後から。
カイトは凍りついた。
ゆっくり振り返る。
ニナが立っていた。
微笑んでいる。
だが――
その笑みは恐ろしい。
カイトは唾を飲み込む。
「に、ニナ……美しいニナさん……」
引きつった笑顔。
「さっきのは……冗談で……その……口が勝手に……」
ニナは一歩近づく。
「へえ?」
声は異様に静かだった。
「じゃあ――」
拳を上げる。
「どうやって制御するか、教えてあげる。」
「ま、待て――」
だが――
「ドゴォッ!!」
「ぎゃあああああ!!」
容赦ない連打。
「やめろぉ!!」
「悪かった!!」
「謝っただろぉ!!」
悲鳴が響く。
ミナトはただため息をついた。
「……当然だな。」
◆
やがて日が沈み――
夜になった。
小さな焚き火を起こし、
狩った鹿を焼いて食べていた。
だが――
雰囲気は完全には落ち着いていない。
木の上には――
大きな結晶の檻があった。
鳥かごのような形で、
宙に吊るされている。
その中には――
カイト。
全身に殴られた跡、疲れ切った顔。
「ニナ……頼む!」
檻にしがみつきながら叫ぶ。
「もう言わない!腹減った!出してくれ!」
ミナトが言う。
「ニナ……もう何時間もだぞ。」
ニナは考えるように見つめた後、
「……まあ、いいわ。」
そして真顔で言う。
「でも次はないわよ。」
カイトは必死に頷く。
「分かった!本当に分かった!」
指を鳴らすと――
檻が消えた。
「うわああ!」
落ちてすぐ、食べ物に飛びつく。
がつがつ食べる。
そして――
「ゴホッ!」
むせる。
ニナが背中を叩く。
「ゆっくり食べなさい!」
ミナトは立ち上がる。
「水を取ってくる。」
ニナは結晶のコップを作り、渡す。
ミナトは湖へ向かう。
水を汲み――
ふと止まる。
水面に映る自分。
黒い髪。
青い瞳。
「……」
突然――
「なんでだよ……!」
水を叩く。
「なんでだ!!」
涙が滲む。
「なんで俺だけ……!」
拳を握る。
「カイトは強くなったのに……」
「俺だけ……何もない……!」
息が荒くなる。
「なんで……いつも俺なんだ……」
「俺は……無価値なのか……」
静寂。
その時――
ペンダントが光る。
黒い光。
ミナトはそれを見つめる。
「お前……何なんだ……?」
そして――
外して、投げた。
「カンッ!」
ヒビが入る。
拾い上げると――
中から黒い液体が滲み出ていた。
「……これを飲めば……」
低く呟く。
「力が手に入るのか……?」
迷い。
一瞬。
そして――
決断。
飲んだ。
「――ッ!!」
「ぐあああああああ!!」
絶叫。
血管が黒く染まる。
腕から顔へと広がる。
「体が……!!」
地面に倒れる。
「内側から燃えてる……!!」
這いながら――
湖へ。
そして――
落ちた。
水しぶき。
そのまま沈む。
闇が――
彼を飲み込んだ。
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