牢獄の出会い
ミナトはゆっくりと立ち上がった。
しかし呼吸はまだ乱れている。
胸の奥がざわついていた。
ここがどこなのかも分からない。
ただ――危険だということだけは理解できていた。
壁へと近づく。
冷たい石の感触。
そして――
小さな隙間に気づいた。
一瞬ためらう。
だが、嫌な予感を押し殺し、身をかがめた。
覗き込む。
そこに――彼がいた。
同年代の少年。
明るい茶色の髪は乱れ、
緑色の瞳には恐怖が焼き付いていた。
制服は破れ、泥にまみれている。
そして首には――黒い首輪。
ミナトの喉が詰まった。
「……カイト?」
かすれた声。
「マツダ・カイト……!」
その言葉に反応したように、向こう側の少年が動いた。
一瞬の静止。
そして――
「……ミナト!?!?」
カイトは壁に駆け寄った。
目には涙が溜まり、今にも溢れそうだった。
「ミナト!!本当に……生きてたのか!?」
声は震えている。
「みんな……死んだと思ってた……!」
しかしすぐに、周囲を見回し――
顔が強張る。
「ここ……なんだよこれ……」
低く漏れた声。
「ずっと叫び声が聞こえる……頭がおかしくなる……」
その瞬間――
悲鳴。
鋭く、裂けるような叫びが空間を貫いた。
カイトの体が跳ねた。
ミナトも息を呑む。
空気が一気に重くなる。
カイトは後ずさった。
「……いやだ……ここから出せ……!」
そして次の瞬間――
扉へと突進した。
「出してくれ!!」
拳で扉を叩く音が響く。
「何もしてない!!頼む!!」
声はすでに理性を失いかけていた。
「ここから出せぇぇ!!」
ミナトは奥歯を噛みしめた。
(落ち着け……でも俺も分からない……)
胸の奥が冷たくなる。
「落ち着け、カイト!!」
叫ぶ。
しかし――
「落ち着け!?!」
カイトが振り返る。
その目は恐怖で壊れかけていた。
「死ぬんだぞ!!」
声が裏返る。
「それで落ち着けって言うのか!!」
涙が溢れる。
「帰りたい……!」
「元の世界に……!」
崩れるようにしゃがみ込む。
「もう嘘なんてどうでもいい……だから……!」
「頼む……出してくれ……」
沈黙。
重く、圧迫するような沈黙。
ミナトは一瞬目を閉じた。
心臓がうるさい。
手が震えている。
それでも――
「……俺もだ」
低く呟くように言った。
「帰りたい」
拳を握る。
爪が食い込むほどに。
「でも……方法がない」
その時だった。
――カイトの記憶が一瞬よぎる。
あの瞬間。
学校。
突然、教室の天井に広がった赤い光。
誰かの叫び。
床が崩れるような感覚。
体が“何かに掴まれて”引きずり込まれる恐怖。
気がついた時には――
巨大な石造りの広間。
そこには玉座があり、
一人の女が座っていた。
美しい顔。
しかし、その瞳は冷たく――
まるで人間ではなく、
“虫”を見るようだった。
そして静かに言った。
『異世界の虫……捕まえろ』
――その記憶が、カイトの中で震えていた。
その時だった。
――カチャ。
隣の牢獄から、小さな音。
ミナトとカイトが同時に振り向く。
闇の中。
何かが“そこにいる”気配。
ゆっくりと、一歩。
さらに一歩。
闇が割れるように――少女が現れた。
長い青い髪が揺れる。
透き通るような青い瞳。
美しい。
しかし、その美しさは異質だった。
首には黒い首輪。
だが彼女は怯えていない。
むしろ――微笑んでいた。
「……やっぱり、あなたたちも“呼ばれた側”ね」
静かな声。
ミナトは目を細める。
(この女……何か違う)
「……誰だ?」
低く問う。
少女は軽く頭を下げた。
「ニナ」
「この場所で、ずっと見ていたわ」
一拍置いて――
「手伝ってあげる」
その言葉に、カイトが息を呑む。
「……助けるって……?」
ニナは笑った。
だが、その笑みはどこか冷たい。
「ここから出る方法はある」
「ただし――簡単じゃない」
その瞬間、ミナトの背筋に冷たいものが走った。
(この女……本当に味方か?)
カイトはそんなことも考えられず、ただ呟いた。
「……助かるなら、なんでもいい……」
ニナはゆっくりと目を細める。
「じゃあ、始めましょうか」
――その声は、まるで何かを“選別する者”のようだった。
面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価をしていただけると励みになります。よろしくお願いします!




